第3話 イヨの村
ここは異世界の最北端に位置する、イヨの村。
そんな村でのとある日、とある家族の家で人生において重大な出来事が起こる。
「おぎゃあ、おぎゃあ!」
ベビーベッドの上で一人の乳児が産声を上げたのだ。
新しい生命の誕生である。
「よくやった!よくやったぞ!!」
この家の住人である二人の男女が、泣いて喜びあう。
そんな二人の隣で、俺は新しく生まれた赤ちゃんをうきうきしながら覗き込む。
実際にこの目で赤ちゃんの顔を見ると、俺は赤ちゃんに向かってこうつぶやく。
「へぇ~、君が僕の妹になるのか~」
このイベントは俺にとっても、とても重要だ。
このイベントにタイトルでもつけるのであればそう、
「俺に新しく妹ができた!」
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俺が異世界にやってきて7年、やっと俺も外に出られるようになってきた。
まぁ思うことがあるとするならば...
長いっ!とにかく長かった!
異世界にやってきたのだからはやくこの世界を楽しみたかったのに、なんで7年もの間、体の自由が利きづらい幼児の状態で過ごさなければならないのだ。
小さい頃に物心がついていることが、こんなにもきついものとは思いもしなかった。
外に出られるようになってからは、できるだけ外に出るようにしている。
暇だからというのもあるが、情報収集も兼ねているのだ。
イヨの村は大きいわけでも小さいわけでもない一般的な村という感じで、ごく平凡な生活を送ってきた俺にとっては、もってこいの場所っていうわけだ。
また、イヨの村は海に面しており、自然も豊かなこともあって漁業、農業共に盛んである。
はやくこの世界の海の幸を使ったおいしい料理にありついてみたいのだが、この村には基本自給自足が一般的であり、親が農家である俺にとっては、譲ってもらったりしてもらわない限り、あまり縁のないものであった。
そもそも7歳児である俺では、少ししか食べることができないのだが...
今日も俺は外に出ていろいろなところを見て回る。
残念ながら親には村の外には出てはいけないと言われてしまっている。
やはりこの体では身体的に、社会的にも不自由だ。
今回の転生がきっかけで子供の気持ちを少し思い出した気がする。
家以外見たことがほとんどない子供にとって、外は未知の世界であり、興味が湧くのは当然のことであり、それが子供だからという理由で制限されてしまっては、早く大人になりたいと思うのはごく自然なことなのだ。
そのため俺は、「子供が生まれてもなるべく不自由はさせまい!」と、心に誓う。
しかしそれと同時に、
(まぁ、将来奥さんができれば、の話だがな...)
と、落胆もしてしまう。
そんなことを考えていると、俺は目的地に到着する。
ここは村のはずれの小さな空き地。
「さて、始めるとしますか!」
俺は自分の手提げ袋から「生活魔法の基礎」と書かれた本を取り出す。
2年前に見つけたこの本は、今の俺にとって魔法の教科書だ。
今日はこの本を両親の目を盗んで持ち出してきた。
実践的なことを行うときが、ついにやってきたのである。
今まで“魔法”というものが分からなかったため、使ってみようにもやり方が分からなかったが、これまで家の中でこっそりとこの本を読むことで、やっと理解することができた。
この世界には空気中にエネルギーが漂っているらしく、俺たちはこれを体の中に取り込み、別のエネルギーとして利用できるらしい。
人間はこれを魔法と呼び、空気中に漂うエネルギーを魔素と呼ぶようになったそうだ。
この世界での魔法は、世間的には一般的なものらしく、誰でも練習すれば習得が可能らしい。
しかし、体に取り込める魔素には個人差があるため、最初は才能次第だが、魔法を使えば使うほど体に取り込める量は増える。
つまり、魔法には才能と努力どっちも必要ということだ。
また、魔法の発動は自分のイメージ次第であり、別に詠唱が必要というわけではなさそうだ。
イメージをつかむために、詠唱する人もいるにはいるみたいだが、一般的には行わない。
実際、本にも“どんな魔法も、イメージと魔素さえあれば使うことができる”と書かれていた。
一見、当たり前のことを言っているようにも思えたが、その続きには、衝撃の事実が書かれていた。
“そのため、イメージさえあれば、新たな魔法の開発も夢ではないだろう”と...
(あれっ、それなら俺でも新しい魔法作れるんじゃね!?)
この情報は俺にとって、とても重要なものだ。
この本には「生活魔法の基礎」という名前の通り、生活で使えるような魔法しか載っていない。
ゲームで出てくるようなド派手な魔法は使う機会はこの世界でも普通ないため、発展どころか本にも掲載していないのである。
まぁこれが現実的といえば現実的だが、イヨの村にはこの本以上に魔法が載っているものはなさそうだった。
このままだと、前世みたいなごく平凡な生活しか期待できない。
そのため、これが事実ならば、俺の異世界人生を左右する、重要な情報なのだ。
まぁそうはいっても、いきなりすごい魔法なんて試せないし、今回は初歩の初歩である火を出す魔法“フレイム”を実践する。
世間的には魔法は、大人になるまでに2、3個ほど魔法が使えれば上出来らしいが、大学生であった俺の記憶を赤ちゃんの状態でもっていた俺にとって、5歳で魔法を理解することは造作もない...というか遅いほうだろう。
まぁ、転生特典なんて俺の前世の知識くらいだ。
こういったことでみんなと違う感を出しておかないと、ほんとに前世と同じ人生が待ってそうだ。
「まぁ異世界生活初めての魔法だ。これがきっかけで俺のすごい魔法の才能が発覚するなんてこともあるかもな~!」
という何の根拠もない期待を抱きながら俺は魔法を発動する準備をする。
頭の中では俺が火魔法を出す様子がしっかりと描かれている。
ちゃんとしたイメージを持つことができるのも前世の記憶のおかげだろう。
予想より結構早く、魔法が発動する。
「よっしゃ、いくぞ~。フレイム!」
発動とともに俺はゲームのようにかっこよく叫んだ。
叫んだのだ!しかし、
「ちっちぇ!」
俺の手からは、自分の声の大きさに見合わない、ちっぽけな炎が出ていた。
今まで平凡な人生だったのだ、変に才能とかを期待してはいけない。
「まぁ、こんなもんだわな」
とりあえず今回は、魔法が使えたことを喜ぶことにし、今日のところは家に帰ることにする。
「ただいま~」
「おかえりなさ~い」
家に帰って、両親に今日は村中を走って遊んできたと適当にごまかして、俺はすぐさまとある部屋へと向かう。
「エレナはまだ寝てるから、起こしちゃダメよ~」
「は~い」
部屋に入ると、俺はベビーベッドで寝ている俺の妹、エレナの顔を覗きこむ。
生まれてまだ半年しか経っていない妹の体は、まだとても小さい。
前世の俺は一人っ子だったため、妹どころか兄弟というものがとても新鮮だ。
「今回は前世とまた違った人生がいいな~」
俺はそう言って部屋を出ながら、より魔法の特訓をすることを誓うのだった。
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