第2話 まだ家から出れません


俺が異世界に生を受けてから、はや3年が経過しようとしていた。


物語を読むとき、急に何年後とかいって、読者をないがしろにしてしまう場合があるが、本当にそれと同じ感じだ。


そう言ってしまうと、みんなも言いたいことはあると思うが、俺にだって言い分はある。


だってしょうがないじゃん!本当に今まで特に何もなかったんだもん!!


振り返ってみても、この3年は赤ん坊である俺にとっては、何もない退屈な日が続くだけの3年だった。

俺がすることといったら、家に出ることもないため、ほぼ家で寝る、食べる、遊ぶの3択。


本当に友達にすら話せるような話題はなかったのだ。

この3年の話したってみんなつまらないよ。

俺だってこんなつまらない話したくない。

だからね皆さん、許してちょうだいよ!


俺だって早く外の景色を思いっきり見てみたいんだよ。


しかし、親が外に出してくれないどころか、自分自身の力で外に出ることさえできない状況が現在進行形で続いている。

当然だ、まだ3歳なのだから。

生まれた時から物心があるというのもめんどくさいものだ。

今できることといえば、


「あー、あー」


しゃべれるということくらい。

生まれてきてから1年経ったときだっただろうか、いい加減暇すぎて俺はまだ早いかと思いつつも、しゃべることにした。

前世の記憶を残したまま転生した俺にとって、体の発達という点を乗り越えることができれば、声を発するなど容易なことであった。

まあ急にペラペラしゃべるわけにもいかないので、自然だろと思えるように少しずつ時間をかけて言葉を発するようにはしていった。

一応周りの空気は読んでいるのだ。


また最近になって、やっと家中を遊びまわれるようになってきた。

異世界で活動ができる体がようやく手に入ったのである。


そして俺はある日、母の目を盗んでこそこそと家の中を動き回る。


「よ~し、やっとができるぞ」


家の中だけだが行動ができるようになった今、俺は今までやりたかったことを実践しようと試みる。

今まで、母は俺につきっきりでほとんど目を離すことがなかったため、転生したことによる俺の好奇心は行動には移せなかったものの、先日3歳の誕生日を迎えた今、母は俺を少しだが目を離すようになっている。

たどたどしい2足歩行ではあるが俺はそのすきを狙って、とある場所へと向かう。


「よし、ここだ」


俺のついた先はこの家の書斎であった。


「おらー!とどけー!」


俺は出せる力を振り絞り、思いっきり書斎の本棚に向かって背伸びをする。

俺が取ろうとしているのは「生活魔法の基礎」と背表紙に書かれている本。


そう、俺はやっと今までずっと楽しみにしていたを試す機会がやってきたのだ。

しかし、結局届かず、椅子を踏み台にして本を手に取ると、


「よっしゃ、これで魔法を試せるっ!」


俺はうきうきして小さな体で本を広げる。

そういえば、今まで気にしていなかったが、俺はなぜかこの世界の言語を理解できている。

日本語とは異なることは理解してはいるものの、この世界の言葉も日本語と同じくらいすんなりと意味が頭の中に入ってくる。

考えても分からないため、仕方なく“これは俺をこの世界に転生させた者の仕業だったのだ”と適当にフラグを立てておくことにする。

何の根拠もないのだが...


俺はわくわくしながら本を広げ、目次を見てみると、最初のほうには魔法とはといったつまらなく面倒くさそうな項目があった。


「ええい、そんなものは後回しだ!使い方、使い方は~っと」


俺はそんなことを言いながら本のページをパラパラとめくる。

魔法の使い方の項目を発見すると、内容を理解するべく読み始める...のだが、


「あれっ、この単語、どういう意味だ?あとこれも...」


最初のところを思いっきり飛ばしたからだろう、魔法の専門用語が一切分からない。


「ふっ、転生しても凡人は凡人か...」


俺はあきらめ、最初の“魔法とは”から読み始める。

結局、魔法の習得には結構時間がかかりそうだ。



しかし、家を動き回れることで得られる恩恵は、魔法の勉強だけではなかった。

それは父が仕事でいない隙を狙って、父の部屋に入ったときのこと...


転生して赤ん坊になっていた俺にとって、とても重要な資料を目にする。

そうそれは、この世界の世界地図と、さまざまな資料であった。

この世界に転生して3年、やっとここがどこなのか、どういう状況なのかが分かるというものだ。


俺は早速資料を基に現在位置を把握しようと試みた。

世界地図には、中心に大きな大陸が一つと下に少し小さな島一つが記されていた。

世界地図だから詳しく大陸の全体像など載っているかと思っていたが、詳しいのは大陸の北半分しかなく、それ以外はほぼ空白であった。

そのため、世界地図では大陸の北半分で国が3つに分かれていることくらいしか分からない。


次に、俺は資料の中で“イヨの村 名寄帳”と書かれた書類を発見した。

書類には“イヨの村”と呼ばれる村の個々の人間の所有している土地について、明確に記されていた。

そして俺は、その中に父の名前があることを発見する。

つまり、ここはイヨの村で、俺はこの村の住人ってことだ。


「えっと、イヨの村、イヨの村~っと」


俺はその村の名前から世界地図で現在位置を確認する。


「わお、めっちゃ北端じゃん!」


俺はイヨの村が北半分の中でも一番北にある村という事実を知る。

地図の内容から、ここは相当な片田舎なのだろう。


「また、平凡な生活が待ってそうだな...」


ここ最近、“君の人生は平凡なんだよ”という事実を何度か突きつけられている気がする。

とはいってもせっかく異世界に来たのだ、楽しめるものなら全力で楽しみたい。

とりあえず楽観的に考えてみることにする。


まあとにかく、これらの内容から、ここがイヨの村で大陸の最北端という事実は知ることができたんだし、良しとするか!


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