始まりの村編
第1話 とりあえず状況確認
女性に抱きかかえられた俺は、驚いて周りを見回す。
「あなたー!ケインが起きましたよ」
女性がそう言うと、奥の方から返事が聞こえ、こちらに向かう足音が聞こえてくる。
この部屋の扉の前までやってきたその人は、女性と同じく茶髪で身長180cmくらいの男であった。
顔から判断するに、この人もおそらく20代くらいだろう。
そして男は、こちらによってきて、
「よーしケイン、起きたな。それじゃあ飯にするか」
そう言って俺を抱えたままの女性とともに部屋から出る。
そして食卓らしきところに到着すると、女性は俺を子供専用であろう小さな椅子に座らせ、台所にむかう。
俺は椅子の上でやっと冷静になり、今の状況を把握しようと試みる。
おそらく俺は転生をしてしまったらしい。
どこかの有名漫画みたいに薬で体が縮んじゃったというわけではなさそうだ。
明らかに状況が違いすぎる。
つまり、今までのコミュニティをすべてリセットして、新しい人生のスタートというわけだ。
周りに置いてある家具は中世を思わせる木製のものばかりで、人も日本人ではないときたものだ。
その上、この人たちは俺を本名である佐野ではなくケインと呼ぶこの状況。
おそらく転生といってもその転生先は日本ではない。
そして家の住人であろう二人は俺の新しい両親とみて間違いないだろう。
まぁ、ここだけをくみ取ると新しいの意味合いが変わってしまいそうだが、つまりは俺の目の前にいる人こそ今の俺のお父さんお母さんってわけだ。
俺はそんなことを考えていると、
「あなた、ちょっとケインのこと見ていて」
母はそうつぶやく。
すると父が俺の隣に座り、俺に向かって
「よーし、ケイン見てろよ。べろべろばあ!」
と舌を出しながらそう言った。
(20代の男が20歳の俺に向かってべろべろばあをしてくる、なんだこの状況は...)
まあそうはいっても、体はれっきとした幼児なのだから仕方がない。
「あひゃひゃ!」
俺は空気を読むかのごとく、笑い声をあげる。
「おもしろいか?そうだろうそうだろう」
父は嬉しそうにそう言う。
(なんだ、この茶番は...)
母が料理を作り終え、食卓に並べると2人は食事を始める。
いろんなことが起きすぎて少し疲れていた俺にとって、2人が食べる食事がたとえ一般的な家庭料理であったとしても食べたくて仕方がなかった。
そして俺は欲しがるように料理に向かって手を伸ばすと、
「えっ欲しいの?でもケインにはちょっと早いかな」
母がそう答える。
(そうだよな、今俺赤ちゃんなんだもんな)
俺が少ししょんぼりした反応をすると、
「はいはい、ケインにも今ご飯あげますからね」
(へっ!?)
俺はそのあとの母の行動に驚きを隠せなかった。
なぜなら、母はそう言ったと思うと、俺の隣に座って自分の胸を出してきたのだ。
おいおいなんだこの状況は!
なんだ、何かのプレイか?
そして母はそのまま俺を胸のほうへ寄せてくる。
「はーい、ご飯ですよー」
(あ、そうか。これが俺のご飯か、って嘘だろっ!)
母の行動が授乳だと納得はしたものの、今の俺は体は赤ちゃんだが、心は健全な男子大学生である。
さすがに「やったー、ごはんだ!」とはならない。
俺は思いっきり動揺することになる。
(なんだこの状況は!あ~あ、女性慣れしてないのバレバレだな、これ)
俺は完全に動揺が顔に出てしまっていた。
すると母は、そんな俺を見て
「あれ、お腹すいてないのかしら」
そう心配し始めてしまった。
このままじゃだめだ。
(よーし、落ち着くんだ、俺っ!そうだよ、何動揺してるんだ、別にやましいことがるわけじゃない。逆に動揺している方がおかしいってものだ)
俺はそう自分に言い聞かせると、意を決して母乳を飲み始める。
大人の男がどう思おうと、俺にとってはただのご飯でしかないのだ、気にする必要はない。
しかし、そう言い聞かせつつも、思いっきり気にして目をつぶりながら母乳を飲む俺である。
(あ〜、どっと疲れた...)
俺が母乳を飲み終えると、母はまた料理の前に座り、食事を再開する。
すると両親はこんな会話をし始める。
「そういえばあなた、今日も晴れだったから、農地に水魔法で水撒きしておいてくださいね」
「また水撒きか。晴れが多いと困っちゃうな」
話の内容から察するに、どうやら両親は農家らしい。
また、日本よりも農業が発達していないのだろう、天候による影響は大きいそうだ。
まあでも、水には困っているというわけではないらしい。
農地全体に水魔法で水撒きができるくらいには...くらいには...ん?
今魔法といったか?
え、この世界魔法あるの?
魔法まであるとなると本当にみんなが思い浮かべるような異世界とみて間違いなさそうだ。
(やったー!早く見てみたい、早く使いたい!)
急な展開で今まで困惑していたが、魔法が使えるとなると、急に気がよくなってしまっている俺がいる。
そして二人は食事を終えると、
「じゃ、行ってくるわ」
父はそう言いながら出かけていった。
(それにしても異世界で親が農家か~。ここでも平凡な生活が待っている気がしてきたな...)
俺は出かけていく父の背中を見ながら、ふとそんなことを思ってしまい少しがっかりしてしまう。
しかし、この世界では俺たちの思う普通に生きるということがどれだけ難しいことなのか、このときの俺はまだ知らなかった。
まぁその場合だと、俺はありがたいんだけどね...
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