第2話

 一年前

 高校二年生の十月末

 


 放課後、外では雪が降っていた。

 プレハブ棟の演劇部室で私は一人で芝居の練習をしていた。

 次の舞台までは練習を見ると言ってくれた響先輩は今日も来ていない。



 椅子の上に置いた、カメラの録画ボタンを押す。

 ラジカセから劇伴を流す。

 自分の演技をカメラに写す。

 そして撮った映像を確認する。

 カメラから流れ出る私のセリフは、いつもよりくぐもり上擦った、かすれ声だった。


 「誰にとっての価値もない人間だ。それも当然だろう」


 今日私が風邪を引いていることにそのとき初めて気が付いた。



 帰路につくなか、考える。

 私は何故こんなことに時間と労力を費やしているのか。

 頑張っても誰も評価しない。

 私が響先輩に勝てるところが一つもない。

 響先輩が部活に来るわけでもない。

 私は一体何がしたいんだ。

 開くことのない思考の蕾から周りの景色に意識を向けると、太陽が沈み空が黒くなってきていた。

 雪は止んでいる。

 ため息が白かった。



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