第3話

 目の前に海。

 空は夕焼け前の半焼け色だった。

 私は砂浜に座っている。

 となりに座った響先輩が言った。

 「港にカフェがあったろう。戻ったら何が食べたい?」

 私は、どうせ何も味を感じないので何でもいいです、と答えた。

 響先輩が怪訝な顔をしている気がした。



 二人並んで海を眺めた。

 「心が洗われるようだ。普段の社会生活での悩みが小さく思えてくる」

 響先輩にも悩みなんてあるんですね、と私は言った。

 あるさ、と響先輩は小さめに笑った。

 


 海を眺めながら考える。

 私は何のためにここにいるのだろうか。

 叶えたいことがあったはずだ。

 そうだ、私は響先輩と友達になりたかったんだ。

 


 「君にはいつか話したことがあったかな、私の夢。心理カウンセラーになるって」

 海を眺めるのをやめて、響先輩が語り出した。

 「昔の悩んでいた時期の私みたいに、この社会を生き辛いと感じる人がいたら、そういう人の助けになりたいんだ」

 私は前に聞いたときも今も、こう思っていた。

 響先輩の言う、そういう人の中に私は含まれるのだろうか。助けてほしいと言えば助けてくれるのだろうか。

 それとも、今も響先輩は仕事中で、だから私と話しているのかもしれない。



 「君の夢は?」

 私は、友達を作りたいです、と言った。

 「ふむ」

 響先輩は、少し考えるそぶりを見せてからこう言った。

 「その夢は一生叶わないのだろうな。君はそのことに死ぬまで悩まされる」



 違和感があった。

 私の心を理解しているかのような、こんな言葉を響先輩が吐けるはずが無い。

 まるで自問自答しているようだと思った。

 思考はそこで行き詰まり、意識は現実へ移り変わる。



 気付いたら、ベッドの上で天井を眺めていた。

 枕元に書きかけの手紙がある。

 私は手紙を持って布団から起き上がりゴミ箱まで歩いた。

 そのままゴミ箱の前に突っ立って、途中までしか書かれていない手紙を読んだ。

 書いたところまで読んで、私は手紙を適当に折りたたんだ。

 それから目の前のゴミ箱に捨てた。



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