季節の夢にみせられて

#13 僕の勲章

　僕はふと自分の左腕を見て思い出した。

「あ、それじゃあ先に服でも見に行かない？」

　僕は夏音の後に続くように立ち上がりながら、近くに設置されていたマップの服屋を指さした。

「うん、あたしは全然いいよ！」

　夏音はそう言って僕に頷くと、マップを眺め始めた。

「ふむ……あ、近くにアイス屋が出来てる！ 服見たあとにでも寄っていかない？」

「うん、僕もいいと思うよ」

　僕がそう返事すると彼女は嬉しそうにガッツポーズした。

「よし、じゃあとりあえずの予定は決まりね、早速行こっか！」

　その瞬間、夏音は僕の手を引いてショッピングモールの入口に向かって軽く走り始めた。

「うわっちょ、ちょっと！ 速いよ！」

　……僕にはそれでも十分速いけど。

　―――――――――――――――――――――――――――――――

　そんなこんなで僕達は１回エスカレーターに乗ってすぐの所にある服屋へと来ていた。

「よし……もうすぐ夏だし薄い生地の長手袋でも見つけないと」

　僕がそうつぶやくと、真横に立っていた夏音が話しかけてきた。

「ん、手袋探してるの？ だとしたらあっちの方にあるよ、着いてきて！」

　どうやら夏音のおかげで僕の目標は早々に達成できそうだ。

　にしても場所を覚えてるなんて、結構夏音はこのお店に詳しいんだな。

　そう思いながら僕は彼女について行き、目当ての手袋のコーナーを見つけることが出来た。

「……うん、これが良さそうだな」

　そう言って僕が手に取ったものは肘の手前ほどまですっぽりと入る長さの薄く、黒い手袋だ。

「……優斗、高二にまでなってまた『目覚め』たの？」

　夏音が引き気味に僕に尋ねてくる。

「違うから、腕の怪我を隠すためだから！ ……あ」

　言ってしまった、こう言うと絶対に彼女は気にしてしまうから隠し通すつもりだったんだけど……。

　そう思い、僕は焦って彼女を見ると、少しだけ苦しそうな顔をして目を逸らし、自分の服の裾をぎゅっと握っていた。

「ごめん、私を守ってくれたせいで――」

「いやいや、これは僕の勲章だよ、すぐ消えちゃうけどね」

　夏音の言葉に被せるように、僕はそう言った。

「……勲章？」

　夏音は逸らしていた目を僕へとゆっくり向け、曇った顔でそう聞いてきた。

「そう、これは僕が夏音を守ることが出来たって言う勲章なんだよ、いつも弱かった僕がさ」

　僕はそう話しながら彼女の裾を握っていた右手を優しく両手でとり、お互いの胸の高さまで持ってきた。

「だから、夏音が何かを負う必要はないんだよ」

「優斗……」

　夏音は少しだけ泣きそうな表情になった後、すぐに自分を落ち着かせ、頬を赤く染めながら顔を背けた。

「……すごい見られてるよ」

「……え？」

　その言葉に僕自身も正気じゃなかったことを理解し、ばっとあたりを見渡すと……。

　僕たちを囲むように少女漫画でも見るようにうっとりとした表情の女性軍とカップルを妬むような視線を向けてくる男性軍のギャラリーに囲まれていた。

「と、とりあえず会計済ませてくるよ！」

「ちょ、ちょっと！ 手握ったままだよ!?」

　僕はその場から離れたいという気持ち一番で夏音の手を後ろに左手で握り直して駆け出し、会計をすまして隣のアイス屋の前まで走ってきた。

「ごめん僕、冷静じゃなかったみたい……」

　僕は我に返って夏音と向き合い、手を放して深く頭を下げた。

「いいよいいよ、顔上げてってば……元はといえばあたしが変に落ち込んじゃったのが原因だしね！」

　夏音は少し慌てながらあわあわと両手を振っていた。

「それに……ありがとうね、優斗の話で結構楽になったかも」

　夏音はそう言うと、かわいらしく微笑んできた。

「そっか……それはよかったよ」

「でもすっごい恥ずかしかったんだから、アイス奢ってよ！」

　思い出したかのように彼女はほんのりと顔を赤くさせ、両手を腰に当てる。

「わかったわかった、奢らせてもらうよ」

「やった！」

　そうすると彼女はまるで怒っていなかったかのように嬉しそうに喜んだ。

　……表情がころころ変わって面白いなぁ。

　僕はそんなことをほんのりと考えていた。

　――――――――――――――――――――――――――

「へぇ……案外いいなこれ」

　早速手袋を付けてみたのだけど肌触りも悪くないし何よりもカッコいい。

　いや、待て待て僕はもう卒業したんだ……。

「気をしっかり持つんだ僕……！」

「うん？ どうしたの？」

　夏音はそう言いながら首を傾げる。

「い、いやなんでもないよ……さぁーってアイス屋さんに行こうか！」

「おぉーっ！」

　彼女はそう言いながらにっこり笑って手を握って右腕を大きく上に振り上げる。

「うーん何にしようかなぁ……初めてのお店ならまずはバニラかな？ いや、もしあるなら変な味も試してみたいかも……」

　と思ったら急に真剣な表情で悩み始める。

　さっきのお茶ソーダが案外美味しかったのが頭に残っているのだろう。

「あはは、とりあえずメニュー見てから考えようよ」

「ん、それもそうだね。優斗はいいよねぇ、どうせもう食べるの決まってるんでしょ？」

「当然だって！ 漢なら黙ってバニラ一択だよ」

　実は僕は拘りが強く、食べ物や飲み物に対してはあんまり挑戦しようとは思わないのだ。

　まぁ平たく言えば食わず嫌い……かな。

　昨日のピザだって今まで食べた事が無かったくらいだ。

「はぁ……それ男の子関係ないでしょ？ あたし優斗がバニラ以外のアイス食べてるの見たこと無いよ……」

　完全に呆れられてる……心外だ。

「別にいいでしょ？…………それにもう失敗したくない」

　――――――――――――――――――――――――――

「え？」

　さっきまで楽しそうに笑っていた優斗が急に暗い顔になってしまった。

　ど、どうしよう……この話地雷だったのかな………。

「あは、あはは！ ……ほら、アイス屋さんに着いたよ！ 夏音はどうするの？」

　……露骨に話題を変えた

　この話はもう触れないでおこう

「そうだね！ 自称アイスマスターのあたしがこのお店を採点してあげよう！」

　この楽しい時間を壊したくないしね

「自称なんだ……とゆうかここチェーン店じゃないんだね？」

「あれ、ホントだ……珍しいね？」

　お店の看板には『スカイサンライト』とデカデカと書いてある。

「なんだこの微妙にダサい店名……日本名で空の太陽光……いや、天空の陽射しかな？」

「まぁでもお店の名前で味は決まらないから……」

「それもそうだね。ほら行こうよ」

　そう言いながら彼は少しだけ先に進み、入口を指さす。

「うん、入ろっか！」

　私は少し小走りで優斗に近づき、二人並んでお店に入った。

　――――――――――――――――――――――――――

　お店の中はオシャレな喫茶店といった感じだ。

　とてもアイス屋さんとは思えない。

「ここアイス屋さんだよね……？ それかもしかしてめちゃくちゃ値段が高かったり……!?」

「い、いや流石にそんな訳ないでしょ……ないよね？」

　当然だけど私達2人は不安になってしまう。

　入口付近でオロオロしていると、店員と思しき男性が声をかけてくる。

「あれっ？ お客さんかな？ お好きなお席にどうぞ～！」

「あぁっ！ ありがとうございま………あれ？」

　パッと見優斗より大きい身長に筋肉質な身体付きの男性……なんだけど……。

　うーんこの人どこかで見覚えが……。

　まぁ気のせいかな……？

「夏音、好きな席でいいみたいだけどどこにする？ やっぱり窓側？」

「ん、そうしよっか」

　店内を見渡すとちらほら他のお客さんがいる。

　当然だけど私達みたいな学生はいない。

「よいしょっと、さてさて……メニューは……」

　ここでのメニューはタブレット端末で注文するようだ。

　最近いろんなお店でこうなっているらしいんだけどあんまり外食しないからピンと来ない。

　よし、流石にちょっと値段が気になるところだけど。

　うん？ 意外と高くない……とゆうか安いくらい……。

「想像の斜め上……いや下なんだけど……」

「確かにそれ僕も思った。味によってはここ中々の穴場になりそうだぞ……！」

　うーんでも安いなら安いで余計悩むなぁ。

「よーっし僕はバニラのワッフルコーンを注文リストに……へぇこれ便利だなぁ」

　……優斗はやっぱりもう決まってるし。

　あー早く決めないと悪いしなぁ……。

　するとメニューの中の抹茶アイスが目に入る。

　よし、これだ！

　さっきお茶ソーダ見てちょっと抹茶ラテ飲みたいと思ってたし丁度いいしね。

　バニラは……優斗に貰うか。

「あたしはこれ！ じゃあ注文しちゃうね～」

　――――――――――――――――――――――――――

　注文を済ませた後、五分くらいで品物が運ばれてくる。

「おまたせしました～バニラと抹茶アイスでー……ってあら？」

「あぁっ!? 陽織のお母さん!?」

「は？ 噓でしょ!?」