#12 意外な飲み物
「ふむ、この程度の火傷なら1週間ほどすれば治るよ。もう少し酷かったら残ってたかもだけどね」
病院の先生にそう言われると、僕は軽く安堵の息を吐く。
「そうですか……良かった、ありがとうございます、先生」
僕が軽く頭を下げ感謝を述べると、彼女は少し微笑みながら話し始めた。
「私も長いことこの病院にいるけど、毎度優斗くんの怪我にはひやひやされるよ」
この病院は小さい頃から行きつけの少し小さな病院で、昔からよく怪我をしていた僕はここによくお世話になっていた。
「あはは…いつもすみません、お陰様で僕はこうして元気に学校に通えてますよ」
僕がそう言うと、先生は嬉しそうに笑った。
「それは良かった、患者にそう言われると医師冥利に尽きるよ」
先生がそんな事を言ったあと、純粋な疑問の顔で尋ねてきた。
「そういえば、最近ご両親は元気にしているかい?」
「ッ……」
先生にそう聞かれた僕は、少しだけ顔を曇らせ、言葉を詰まらせた。
「……はい、2人とも元気にしてますよ」
「そっか、良かった。最近ここら辺で見かけなかったら心配していたんだよ」
「あはは……」
……僕は、嘘をついた。
――――――――――――――――――――――――――
時刻は11時を過ぎ、雲ひとつ無い青空から気持ちの良い太陽の光が指している。
「優斗、そろそろ来るかな?」
私は家から少し歩いたところにあるショッピングモールの入口付近にある長椅子に座って優斗を待っていた。
結局病院には一緒に行かしてくれなかったし……。
なにかやましい事でもあるのかなぁ?
私がそんなことを考えていると、遠くの方から見覚えのある茶色のショートな髪の少年が走ってくるのが見えた。
「ごめんお待たせー!」
それは優斗だった。
今日は日差しが強いのもあってか、彼の茶髪が光に透き通るように綺麗に見える。
無駄にカッコよく見える……けど――
「……遅いっ!!」
「ごめんて!?」
病院から優斗が来るまでちょっとだけ暇だったのもあるが、それ以上に駆け寄ってくる速度が遅すぎてついつい叫んでしまった。
「これでも、急いで、きたんだよ!?」
オマケに体力が無さすぎる、なんで肩で呼吸するレベルまで弱ってるのかなぁ。
「優斗はもうちょっと体力つけなよ、そのままじゃ将来奥さんに迷惑かけちゃうよ?」
ちょっと呆れ気味に言った後、私は「まったくもう、大丈夫?」などともはや倒れそうな彼に言いながら念の為持ってたタオルを渡した。
「……ふぅっ、ありがとう……ちょっと落ち着いたよ。それに、僕はダメダメでも夏音はいいお嫁さんになりそうだね?」
彼は一息ついた後、反撃をするかのように若干悪戯に微笑みながらそう言葉を返してきた。
「何言ってんだか、無駄口叩く余裕があるならまずは少し休みなよ!」
優斗に言われたことに私は少し照れながら、そんな様子の優斗を軽く睨んだ。
全く、私は今の所好きな人も居ない……はずだから! そんなこと考えてても意味無いっての!
「ごめん、ごめんって。それじゃあ少し言葉に甘えて休ませてもらうね」
そう少し笑いながら言うと優斗は私の隣に静かに座った。
「よいしょっと……ふう、僕って本当に体力ないなあ」
優斗がそう呟くと、私は少し申し訳なさを感じた。
体力ないってこと、気にしてたんだ……少しいじりすぎてたかな……?
……飲み物でも買ってきてあげるか。
そう思うと私はすくっと椅子から立ち上がり、「ちょっとあたし自販機で飲み物買ってくるね」と優斗に話してから、少し離れた所にある自販機に向かって歩き始めた。
「うん、行ってらっしゃい」
優斗はそう言って手を振ってくれたので、私も彼に向かって大きく手を振り返した。
……ところで、優斗の好きな飲み物って何だったっけ?
うーん、優斗は学校では水かお茶しか飲んでないからよくわかんないなぁ……。
そんな事を考えているといつの間にか自動販売機の前まで来ていた。
そこには自販機が五台ほど並んでいて様々な物が売られている。
「ん、通り過ぎる所だった……さてと、あたしは――」
ここは飲み物はもちろんお菓子からアイス、ジャンクフードまであるのだ。
何気にここのアイスは絶品なんだよね。
夏休みの時はよくここでアイス買ってたなぁ。
「うーん悩むなぁ、まぁこれでいっか」
こってりとした甘さが欲しいところだしあっまあまで有名なコーヒー牛乳にしよう。
「よし。これ一回飲んでみたかったんだよねー……さーてと優斗の分はーっと」
私は自販機の前をウロウロしながら品物を物色する。
すると見慣れないものを見つけた。
「うん? こんなのあったっけ?」
自販機の右上にでかでかと?マークが描いてあり、『何が出るかはお楽しみ!』と書いてある。
うわぁこうゆうのって本当にあるんだなぁ……。
しかも90円で滅茶苦茶安い。
田舎にはあるって聞いてたけどまさかこの目で見ることになるとは……。
「でもちょっと面白そう……よし」
私は自販機に100円を入れた。
――――――――――――――――――――――――――
「おーい! おまたせ!」
夏音が遠くから走って来るのが見える。
片手は後ろにあって何かを隠してるように見える。
「おぉ、おかえりーって何隠してんだコラ」
「い、いやぁ優斗って何が好きかわからないから『何が出るかはお楽しみ!』を買ったんだけど……」
そう言いながら夏音は恐る恐るといった様子で隠していた手を差し出す。
「お茶ソーダっていう明らかにヤバそうなのが出てきちゃって……」
夏音の手に握られていたのは炭酸飲料特有のツルツルしたペットボトルに抹茶色の液体が入っていた。
「うわぁマジかよ……てかランダム自販機って存在してたんだ」
「うん、あたしも興味本位で買ってみたんだけど思ったよりマズそ――ううん、はいこれあげるね!」
夏音は首をブンブン振りながら例のお茶ソーダを手渡してくる。
「ちょっと待って今マズそうって言いかけなかったかお前!? ――とゆうか僕が飲むのこれ!」
「だってこれ『優斗の為に』買ってきたんだし仕方ないよね」
「そんなわけないよ! そっちのコーヒーよこせって!」
夏音のコーヒーを奪おうと手を伸ばすが夏音に頭をグイッと押されて手が届かなくなる。
「ふふ、あたしから奪おうなんて100年速いよ!」
……まぁ僕の力じゃやっぱり無理だよね。
「はぁ、だよね……大人しくいただきます」
僕は力がない事をハッキリ理解させられて肩をガックリと落とす。
「あ……あぁごめん! そのこと気にしてるんだよね! それあげるから元気出して!」
そう言って夏音はお茶ソーダを指差す。
クソっ! こうなったらヤケだ!
そう思い、僕はお茶ソーダのペットボトルの蓋に手をかける。
「ふん! ……あれ? ふぬぬ………!!」
「……開けてあげようか?」
「……お願いします」
彼女は力を入れる様子もなくペットボトルの蓋を捻る。
「……よいしょ、はいこれ」
「ありがとう。よし、飲むぞッ……!」
夏音は期待するような瞳で僕を見つめる。
そして僕は抹茶色の液体に口を付けた。
えっこれ普通に美味しい……。
味はコーラなのだが後味がとてもさっぱりしている。
僕は恐らく驚いたような顔をしていたのだろう、夏音が意外そうに口を開く。
「うそでしょ……それ美味しいの……!?」
「……僕も正直びっくりしてる。これふっつうに美味いぞ……!」
夏音はゴクリと喉を鳴らし、恐る恐るといった様子で口を開く。
「あ、あたしも、飲んでみたい……いいかな?」
「もちろんいいよ! 騙されたと思って飲んでみて」
そう言いながら僕はお茶ソーダを手渡す。
「ありがとう……ふん!」
思い切った様子で夏音はお茶ソーダに口を付ける。
い、行ったぁーーーッ!
とゆうかこれ間接……。
そう意識すると急に顔が熱くなる……汗も出てくるくらいに。
「ふぅ……うんこれめっちゃ美味しい! とゆうかどうしたの? 顔赤いけど……」
「い、いやなんでもないよ……」
「そう? ならいいんだけど……」
そう言いながら夏音は勢い良く立ち上がる。
「よし、水分補給も終わったし、お買い物にレッツゴーだよ!」
「だねだね、まずはどこに行こうか……」
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