第8話 実家にて心配される

「ちょっと真面目に心配だから都合の良い日に一人で帰ってきなさい」

 それは吉治の母こと晴子からの電話だった。

 吉治はその実家からの電話に冷や汗をかくが、反面に遅いぐらいだと思った。

 先月に吉治、藍、千春の一家──吉治は女装姿ことみるくとして──で遊園地に行った。

 そして更に電話が鳴った現在から三日前、千春を晴子の家に預けた。そうすれば千春が何を祖母に話すかは決まっている。


「行くか」


 メイクしない限り目つきが良くない吉治は、まるで歴戦の兵士が戦場に赴くようなのような顔をしていた。


 ☆


「吉治、おかえりなさい」

 帰るなり晴子が出迎えるので「ただいま、母さん」と平常心で返答する。

「とりあえず手を洗ってきてらっしゃい。──でも、お父さんが待ってるから急ぎでね」

 ──マジか。

 父──逢坂義雄──には非常に厳しく育てられた為に吉治にとってこれから先に起こるであろう場面ではやや苦手である。


 ☆


 三人が揃った。しかし義雄が圧と共に黙ったままで晴子も吉治も開口できないという状況だ。

 案の定、非常に吉治は緊張している。

 やがて義雄はおもむろに口を開く。


「俺はな女物の着物を着る趣味があってだ」


 ──は。

 突然の父親のカミングアウト。

「その趣味がお前にも遺伝していないかと──」

「知りません」

 反射的に敬語かつ早口で否定してしまった。

「歌舞伎の女形になりたかった頃があったんだがな」

 ──女形てあの。

「街では小粋な姐さんとか言われてた」

 ──嘘だろ。

「男女問わずモテてた」

 ──聞きたくない武勇伝。

「晴子と逢瀬する時も女装だった」

「知りませんて!!」

 またも反射的に敬語かつ早口で否定してしまう。


「とりあえず、この父さんが着ていた振り袖は吉治に譲ろう」

 義雄が取り出した箱をそっと開けると華美な振り袖が丁寧に折り畳み入っていた。それを吉治に差し出す。

「なんで譲るの!? いらな……」

 ──振袖なら、みるくにゃんとしてバズりそうだし将来的には千春にあげればいいか。曰く付きだが。

「いや、貰うよ。ありがとう。父さん」

「で? 吉治が着るのかね?」

「それはない」

 ──嘘だ。ある。

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