第6話 妻のお仕事
吉治は秘密を抱えていた。
そしてその秘密は妻に暴かれた。
では妻──藍──の秘密は?
妻に秘密が存在することは吉治は知っている。
しかし秘密の内容までは知らない。
わざわざ暴こうとまでも思わない。
それでも吉治の秘密が暴かれた時のように妻の秘密も暴かれる。
☆
それは草木も眠る時刻の、藍の部屋の前にて。
吉治は藍に些細な用があり彼女の部屋をノックしたが返事がない。
眠っている可能性なら普通ならあり得たが藍はどちらかといえば夜型人間なのでそれはないと決め「藍さん?」とノックを続ける。
しかしそれでも返事はなく吉治は心配になる。
──いつもならこの時間は起きててもおかしくないはず。
不安がよぎりドアを開ける。
そこで、藍の部屋で、吉治の目に映ったものは──。
「あ、藍さん!? それは!?」
藍は無事だったが、藍の机にはB4の漫画原稿用紙にそれを彩るための多くの画材があった。それ自体はなにもおかしくはないが原稿に描かれている内容、それは。
男の娘がアレでコレな内容だった。
「そうね……フェアじゃなかったわ……秘密には秘密を、ね」
「私、アナログ派なの」
「あ。うん……」
もっと他に言うことがあるのでは見られてしまったのだからと、吉治は言いた気にする。
「あと私、男の娘マンガ家なの。内容は、あっち路線」
「そう……だね……不可抗力だけど原稿が見えた」
「大丈夫。貴方にはこんなことはしないけど」
「……けど?」
吉治は先程とは異なる嫌な予感がした。
「この男の娘キャラは貴方がモデルよ」
原稿を見せつける藍。キャラクターはデフォルメが効いているので本人にはそこまで似てはいないが、特徴は確かに捉えている。
「みるくにゃんが可愛くて、とても原稿が捗るの!」
恍惚とする藍は深夜特有のハイになる現象に陥っているようだ。
「ソレハヨカッタデスネ」
──逃げよう。
吉治がそう決めた瞬間、いつの間にか藍は自作かつ多量の漫画を取り出して吉治に押し付ける。
「読んで?」
「えっ……」
吉治は『男の娘になること』は趣味だが『男の娘に萌えること』は正直言って趣味ではない。
なので斜め読みしようと決めたところで。
「なりきるように朗読して? みくるにゃん?」
「…………は?」
夜は更けていく。地獄の朗読と共に。
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