第5話 部下の明日
基本的にハードワークを強いられる外資系IT企業『BLACK』の昼休憩の間にて。
「高須さん、なに見てるんです?」
人懐っこい新入社員の浪河は、スマホを眺めニヤついている高須に問いかける。
「女装ネットアイドルみるくにゃん」
──幻聴が聞こえたな。
「可愛いっすね、でも女装?普通の女の子のネットアイドルにしか……」
「それがこの間、女性疑惑が上がったから、喋ってる動画をアップしたんだよ。それが声がイケメンでさ、一瞬は萎えたけど。なんと、裏声は美少女なの!」
退く姿勢になった浪河に対し、ヒートアップする高須。
「まあ、高須さんがあっちの世界の住人になっても一緒にビジネスだけはしましょうね」
浪河が精神的のみならず物理的にも距離を取ろうとしたら──。
「お前が来い。ザ・ワールドに!」
がしっと両肩を掴み逃げられないようにした。
ザ・ワールドそれは男の娘の世界。
「い、嫌ですよー!」
そんなこんなで高須の勧誘はしつこく、浪河を狼狽させる他ない。
そこで。
「高須ゥ!! 人の嫌がることするなと幼い時分に習わなかったかッ!!」
キレ気味に怒鳴る吉治。
「ひいっ!?」
上司の怒りに怯える高須だが、その上司がかのみるくにゃんだとは彼はつゆほども知らない。
──まあ俺の嫌がることなのだがな。
☆
「ただいま」
鍵でドアを開けたら藍が真っ先にやってきた。
「ど、どうした……?」
聞くまでもない。でも一応は聞いておく。
「今日は天気、いいでしょ?」
「そうだ千春に助けを求めよう」
「千春はお義母さんの家よ。もう忘れたの?」
我が子に助けを求めようとしたら捕まった。そもそも我が子は母の家に泊まってた。
詰んだので恒例のデートすることになりました。
☆
この日は吉治の仕事終わりなので、二人は近場の公園を散歩するだけにした。
「あ、あ、あ、あ、貴方はみるくにゃん!?」
──高須!?
公園で独り缶コーヒーを飲んでいたのは紛れもない。吉治の部下、高須だった。
「みるくにゃーん!!」
などと叫び吉治の方へダッシュしてくる。
「ヒィっ!」
高須は女装姿の吉治のファン。そして今の吉治は女装姿。ヤバイ。
「口座の振り込み先を教えてください!!」
「嫌だ!!」
──口座とか、何を言ってるんだこの部下は。
「じゃあ、せめて住所を!!」
「もっと嫌だ!!」
「結婚しましょう!!」
「図々しさが増してないか!?」
そんなこんなのハタから見たらコントであろうやりとりをしていたら、高須にスルーされている藍がスマホでカンペを見せる。
『地声であまり喋るとバレるのでは』
──あ、やべ。
半ばキレ気味に会話していたらいつの間にか地声になっていた。
吉治はみるくとして笑顔を作り裏声で「気持ちだけで嬉しいな。その気持ちを今度の投稿をお気に入りにしてね!」と告げた。
「はいぃぃぃいっ!!」
抱きつき、すりついてくる高須
──ひいいいいいっ!!
人生で最も鳥肌が立った瞬間だった。
それから、いつの間にやら警察が来た。どうやら藍が呼んだらしい。
連行される高須を見て吉治は思う。
──明日、仕事に来れるかな……高須。
☆
翌日。
高須は仕事に来ました。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます