第4話 みるくにゃん

「鍵よし、新しい服よし、スマホの充電よし」

 逢坂吉治はセーラー服で自撮りする。

「クックックッ…。非常にバズっているが、新しい服がこれだけだと思うなよ…!」

 逢坂吉治はブレザーでも自撮りする。

 二種の学生服という相乗効果でどちらの画像もとてもバズる。

 だがネットには、良心的な者もいれば、悪質な者もいる。


『みるくさんって女性にしか見えない』

『たしかに』

『いや乳なくて喉仏あるし』

『乳ないのはよくあること。喉仏は何とも言えん』

『みるくにゃん脱げば良くね?』

『それナイス! みるくにゃん男なら上半身だけでも一目瞭然だし運営に規制されないし多分』

『みるくにゃん脱げー!』

『脱げ脱げー!』


 ──なんかヤバイことになってきた!!

 ──誰が脱ぐか!!

 取り敢えず吉治はスマホを切り女装を解いて書斎から出ることにした。


 ☆


 夫妻は三時にはコーヒーを飲み、お茶菓子を食べる習慣がある。因みに千春はカフェインの都合でコーヒーではなくココアだが、現在は間が悪かったのでお昼寝中である。


「それで、脱ぐの?」


 コーヒー噴き出しかける吉治

「そういえばアカウント知っていたね……。大丈夫、脱がないよ。ただ、どうやって納得させるか悩んでいてね。無視してもいいけど今後の人気に関わるからね丸くおさめねばと」

「良かった。これで脱ぐって言ったら血を見たわ。──あなたの」

「俺の血」


 ☆


 吉治──みるく──は生配信動画をアップした。

『みんな要望とはいえさすがに脱げないけど、この声で信じてくれたかな?』

 それは地声。男としての声。


 そして一息入れてワンクッション。

『──でも、いつもありがとう! みんな、これからも応援よろしくね!』

 地声の後に続いたのは女性だと言い張っても違和感のない声だった。


 この声は吉治の女装癖による訓練による成果。

 そしてこの配信によりコメントは──。

『女声カワイイ!』

『男声はない』

『正真正銘の男の娘!』

『ヒクわ』

『どっちの声も好きだな!』

 配信を切って様子を見る。

 意見は二分した。しかし吉治にとっては成功だと見なせる結果だった。

 脱げと言ったマナーの悪い者は次々と去っていく傾向が見受けられたからだ。

 吉治はプロの芸能人ではない。趣味で、ストレスの発散で、自撮りをしている。だったらそんなことで苛立つ必要性などない。


 ☆


「にしても」

 この日の三時もまた千春はお昼寝だ。少し時間などを検討した方がいいかもしれない。

「少しもったいなかったか。折角ファンになってくれたのにな」

「そうね。パラレルワールドでは脱いでたことにするわ」

 藍はコーヒーを音もなくすする。

「じゃあ裏アカ作って脱ぐとか? なんて、なまじネットでは有名だからな」

 冗談のつもりで笑った吉治に、藍も口もとは笑うが目は笑っていない。

 そして藍は自身の筆入れからあるものを取り出す。

 それは先の尖った付けペン。それを吉治へ向ける。

「これはGペンって言ってね先が鋭いのよ。刺してみたことはないのだけど──」


 本気で謝ったら許してくれた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る