第3話 女装から墓場まで

 逢坂吉治には最近、悩みがある。

 娘こと千春に吉治自身の女装癖を──。

 その一、すぐに打ち明けるか。

 その二、もう少し大きくなってから打ち明けるか。

 その三、いっそ墓まで持ってくか。

 この三択だ。

 悩んでる間に月日は過ぎる。

「わーい! 今日はおばあちゃんちー!」

 吉治たちの近くに千春の祖母こと吉治の母の家があり助かったと思う。何故なら逢坂夫妻共々働いている身である上に加え、千春に女装姿を見られる危険性が減るからだ。


 ☆


 吉治は千春を連れて実家に向かう。電車で二人、隣合い座って親子としての時間を過ごす。

「千春はおばあちゃんが大好きだからね」

 吉治は頭をそっとなでてやりながら女装とは関係のないことを穏やかに告げる。

「うん。千春ね、今日は叔母さんの、お話聞かせてもらうのー」

 吉治は首を傾げて「お父さんとお母さんには姉も妹もいないぞ?」と返答する。

 今度は千春は不思議そうに、未だに覚えている話をする。

「えー? みるくさんがお父さんの妹だよー?」


「あ」


「いや、待て、それは──」

 女装のことを千春に何と説明すればいいのか。我が子の純粋な瞳を見れば見るほど何も言えなくなる。

 吉治は、そのまま黙り込み実家へ向かうのだった。


 ☆


 その晩、自宅へ実家から電話がかかってきた。来ると思った。

 出たらやはり吉治の母だった。

「アンタ最近、家に泥棒とか入ってない?」

「いや、そんな警察沙汰は無いが」

「でも千春の話だとみるくとか言うアンタの妹を名乗ってる、明らかに怪しい人が不法侵入したみたいで」

「あー……。うん……。戸締まり気をつけるから……」

「ホント、気をつけなね」

 それきり電話は切られた。


 ☆


 後日。

 帰ってきた千春は吉治の母による新品の防犯ブザーを首に掛けていた。

 ──女装のことは。

 ──墓場まで持って行こう。


 逢坂吉治は心の底から決意した。

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