『誰もいない首都』 13
なんという、広大で美しい風景だ。
このような、緑色の爆発したような自然が、まだ、残っていたとは、驚くしかなかった。
どちらかの大国は、先の核戦争で、使う意味さえよく分からない、コバルト・コーティングされた水爆を、積極的に使用したらしい。
使用後、現地を支配しようという意図さえ、放棄した、ひたすら世界に破壊をもたらすだけの爆弾と聴いた。
しかし、ここには、もちろん、放射線は見えないけれど、そうした深い陰や、傷は見当たらない。
『よい、景色でしょう。いずれ、観光地に戻せたらよいと、考えています。』
『考えています、は、良いですが、いったい、人類は、どのくらい残っているのですか。ぼくが最後なんて、信じられないですよ。あほらしすぎです。』
『はははは。まあ、あなたは、信じないと思いましたよ。あれは、つまり、アドバルーンです。しかし、多少言い過ぎだが、当たらずも遠からずです。ま、人口に関しては、秘密事項ですがね。ざっと、100万人というあたりです。ただし、それは、真人間についてです。あとは、さっき申し上げたように、複製人間、アンドロイドたち。ロボット人間もね。そちらが、2000万人以上くらいはいます。しかし✨ですな。』
『しかし?』
『ほら、あそこに、大きな団地があるでしょう?』
確かに、3階建てくらいの、薄いピンクの集合住宅が、森のなかに、うまく溶け込んで、多数並んでいる。
『首都は、さっきの、地中ビルだけです。あそこには、真人類は、まったく居ませんよ。いまや、この国を動かしているのは、アンドロイドや、ロボット人間なのです。で、ここは、つまり、首都ではありません。つまりは、これらは、人類の牧場です。食用人類の繁殖場所です。』
『なんと?』
ぼくは、あまりに、あっさりと言い切った、御徒町さんに驚嘆した。
『先ほど申しました、急な来客は、パープルスバール星の使節団です。食糧の調達に来たのです。すなわち、食用人類の、ですな。』
宇宙人が、存在していることについては、ぼくは承知していた。
以前、まだまだ、若い時分、市役所の職員だった時代のことだ。
ぼくは、九州南端の海上に忽然と現れた島に住む、幽霊宇宙人と、対峙したことがあるからである。
連中は、地球支配を企み、成功しかけたものの、ぼくらは、なんとかそれを阻止できたのだ。
彼らは、コロナウィルスを、拡大したみたいな身体を形成することができるが、実体は、人類には見えない、やっかいな生物だった。
この宇宙ではない、物理法則が異なる、他の宇宙出身の、非常に厄介至極な宇宙生物だったのだ。
しかし、この事件は、無かったことに成っている。
『あなたが、かつて、幽霊宇宙生物を退治したことは、分かっております。我々は、政府ですからなあ。はははは。幽霊宇宙人は、見た目、パープルスバール星人に似ておりますが。ま、だから、あなたは、英雄でありまして、ちょっと、特別なわけで、元から、殺す意図などありませんでした。ただ、コピーを採らせて頂きたかったのと、いささか、労をねぎらいたかったわけです。そう、首相は考えていました。』
『あの。労をねぎらっていただけるのは、結構な事ですが、その、殺す意図などなかった。コピーを採る、てのは、なんですか?』
ぼくは、当然に、かなり、いやな予感がしていた。
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