『誰もいない首都』 10


 このような、美味しいお菓子を、生きてる間にまた、食べられるなんて、夢みたいだ。


 昔は、そうでもなかった。


 その気になれば、簡単に買うことも出来た。


 専門店だって、近くにいくつも、あった。



 核戦争からあとは、まるで違った。


 世界的な核戦争だから、お菓子の原料も、水も、作り手も、みな、稀少になった。


 たいがいの都市は、どこも、クレーターか、荒野になってしまった。


 消費者も、少くなったわけだ。


 なので、一般人の家庭にある通信機構では、売ってさえいなかった。


 あんぱん、くらいが、最高級仕様だったが、それも、なかなか、買えるものではなかった。


 一部の、稀少階層は、どういうルートか知らないが、高級菓子を買うことが出来る、とは聞いていた。


 彼らには、特殊なインターネットが使えるらしかったのだ。


 あとから分かったのは、それは、かつては、誰でも使えていたものが、特殊なシステムに変わったものだそうだ。


 つまり、一般人の使うネットワークは、そこから切り離された、それこそ、特殊なものだったと言うわけだ。


 ここは、実際に首都ならば、だから、あって不思議ではないわけ。


 核戦争は、結局のところ、人類を完璧に、二分化してしまった。


 支配者側と、その他に。


 もっとも、もともと民主主義国と自ら呼ぶ国では、ネットワークによる、選挙などが、確かに残ってはいた。


 残ってはいたが、ほとんど、バーチャルの世界であって、実在なのか、フィクションなのかを、区別する術は、見当たらない。


 核戦争は、社会システムも、家族も、会社や、役所の機能も、一瞬に破壊した。


 みな、無くなった。



 そのあと、どうなったのか?


 真実を知っている人は、少いらしいとは、ぼくだって理解していたのだ。


 不思議な端末装置がやってきた。


 医療装置がやってきた。


 電気の配線も、電話線も、ガスも、水道も、みな壊れていたが、何故だか、やがて取りあえずは、使えるようになった。


 なぜだか、分からないが、直に転送されるらしいのである。


 まさしく、未来世界だ。



 

 御徒町さんが、再び現れた。


 『お菓子は、いかがでしたかな?』


 『いやあ、それはもう、再び巡り会えるなんて、予想もしてなかったです。』


 この、不思議な人物は、勿体ぶったりしない。


 政府の偉い人なんだろうけれど(もしかして、びっくり複製人間でも。)、好感の持てる人だ。


 『ははは。そうでしょうとも。ときに、次の行動の前に、お手洗いなどは?』


 ぼくにとって、お手洗いは、必要不可欠、絶対的必須の場所である。(これは、フィクションではなく、事実である。)


 だから、『ぜひ。』と、答えた。


 すると、御徒町さんは、壁の小さなキーボードを操作した。


 なんと、お手洗い🚻が、壁の一部に、姿を現したのである。


 いかなる、仕組みなのだろうか。


 扉はふたつあった。


 その、ひとつを開けながら、御徒町さんが、深々とお辞儀しながら言ったのだ。


 『どうぞ。』



         🚽


 


 


 

 


 


 


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る