『誰もいない首都』 8
紫色の、大きめなボールのような生物は、御徒町さんについて、ころころと転がりながら、エレベーターに一挙に乗り込み、とある場所に着いた。
それは、首相さんが、ぼくと話していた階の、別の部屋の、別の側にある、飾り気の無い、がらんとした空間だ。
よく、刑事物で出てくるような、マジック・ミラーのような、かなりでかい窓か、あるいは、テレビのような、でも遥かに広い壁全体の画像面があって、その向こうには、ぼくが、首相さんから、ちょっと待つように言われた部屋が、全体、透けて見えていた。
そこに、居たのは、だから、ぼくである。
美味しいコーヒーと、お菓子が出されている。
きょうび、このような、高級菓子は、なかなか見ることがない。
せっかくだから、頂いていたのである。
『ほう。これが、噂に聞く、生きた地球人でしか。』
紫色の生命体が言った。
『はい。皆様方は、初めてご覧になるものかと。複製でも、アンドロイドでも、ありません。オリジナルな、地球人です。』
『危険ではないのれすかな。』
『これは、大人しいほうです。本人には、このあたりでは、あなたが最後の生き残り、と言ってあります。信じたかどうかは、ま、怪しいですな。』
『ばかではない、と?』
『はい。と言いますより、疑い深いのです。地球人類は。相手が、信用できると確信するようなことは、あまりありません。だから、大切な約束は、必ず、文章にして、お互いが保存します。それでも、しばしば、それは、破棄されます。』
『それでは、約束になら無いれしな。』
『必ず、理屈は立てますが、大概は、片方または両方が、守りたくなくなったからです。しかし、長く、維持する約束も、かなり、あります。互いの利益になっているか、なんらかの報酬が期待できる場合は。あるいは、共通の敵が、あるとか。』
『理解しがたいれすなあ。守られない約束なろ、する意味がないれしょう。守る約束なら、別れすが。』
『はい。しかしながら、この個体は、そういうことに関わったことの無い、無責任階層人です。こやしも、あまり、上等ではない、従って、おかしな物質は、たいして食べてないです。』
『なら、かなり、うまいれすか?』
『さて、わたくしには、すぐには申しかねますが。宇宙には、沢山の各種族さまがありますから。ただ、先般いらっしゃいました、ガラキチャン第二星系の方は、同様の個体を、いたく、美味と、おっしゃいました。』
『あやあ。彼らは、我々に近い種れすから。』
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