『誰もいない首都』 7


 紫色の玉のような生物は、転がりながら移動していた。


 大きさは様々で、1メートル半くらいのもいれば、1メートル程度の個体もいた。


 地面を直に転がるから、早いのは早いかもしれないが、止まっているときはどうやって安定しているのか、身体中、傷だらけにならないのか。


 だいたい、視角、臭覚、味覚、会話、食事や排泄など、どうなっているのか?


 実は、御徒町氏も、良くは知らなかった。


 彼らは、現在の地球の管理者の代理である。


 様々な、交渉ごと、視察、研究、争い事、パーティー、なんでも、ござれであるらしい。


 しかし、彼らの主という連中は、かつて、地球人の前に、一度も現れたことがない。


 御徒町氏は、そのように、認識していたし、御徒町氏が、彼らを担当するのは、これが、始めてである。


 聞けば、彼らにとっては、アンドロイド、複製人間、ロボット、気体生命、液体生命、シリコン生命、炭素生命、その他、何れも平等の存在らしい。


 しかし、それでも、この、オリジナルな地球人については、なぜだか、関心が高いようだった。


 彼らは、自分達を『使者』と、呼ぶ。


 彼らのボスである存在は、『基準者』と呼んでいる。


 それが、ひとりなのか、複数なのかも、未だに分からない。


 けれども、現在の地球の支配者は、人類ではなくて、『基準者』になっていた。


 『おかげを持ちまして、労働力はよく、確保されました。基準者の管理地に、適切に配置されましたから。まだ、繁殖地で、教育中もたくさんいる。また、研究材料の人間たちは、みな大切に扱っていますからね。』


 『そうですか。で、なぜ、あの、最後の未捕獲個体に興味があるのですか?』


 『それは、つまり、確率的な結果ね。なぜ、地球のこの地区で、最後まで捕獲も、処分もされず、普通に生活することになったかの、その確率的な理由を知りたいね。』


 『ま、何に興味がおありなのかは、あなたがたの自由ですが、確率的な理由? そんなもんに、意味があるのですかな。』


 『たとへば、優秀でも、天才でも、なんでもないのに、最後まで、相手にされなかったというのは、きわめて興味深い。ぜひ、観察したいね。』


 『すでに、ここに到着してます。ただ、首相から、ぜひ、大切にしてほしいと、要望がありました。』


 『わかっちます。手は出さないね。見るだけ。見るだけ。触らない。』


 紫色の玉たちは、50体以上はいたが、非常に行儀良く並び、また、勝手な行動は取らない。


 『では、こちらにどうぞ。』

 

 この、御徒町氏は、先ほどのエレベーターとは違う場所にある、もっと大きな エレベーターに、玉たちを案内したのであった。



        🚪


 


 


 

 


 

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