『誰もいない首都』 5

 

 『最後の、完全な、生きた人間? なんでしょうか、それは。』



 確かに、考えてみれば、ぼくは、長らく生きた人間には、直に、会っていない。


 みな、映像である。


 とは言え、レンタル医療装置で、医療も受けているし、お腹の中のステントの交換もできる。


 食糧も、ちゃんと届けられる。


 多額ではないが、年金も入る。ただ、しばらく、現金は、ほとんどみたことがない。


 幻の通貨だが。


 ぼくの、大切な御守りのなかには、かなり昔の五千円札が入っている。


 遥かな昔、ある方から頂いたものだ。


 これが、自宅にある唯一の現金だ。


 なんでも、法律上は、まだ、使用はできるらしい。

 

 それにしても、『最後の、完全な、生きた人間。』とは、なにか?


 ぼくは、首相さんの回答を待っていた。


 『核戦争と、パンデミック、さらに、地球の大環境変化は、知られているよりも、遥かに重大な影響を、人類に及ぼしたのです。もちろん、地球上の人類が、全て滅亡するまでは、まだ、行っておりません。生き延びている人々が、中央アジア、アフリカ、南米に、2万人強、程度残っておりますが、我が国は、ご存じのように、日本海溝超大震災や、姶良カルデラの、最大の破局噴火や、富士山の噴火もあり、原発についても、政府の対応の、つまり、結果的に言えばですが、失敗もあったと、認めざるを得ないのですが、大部分の国民、つまり、人間は死滅しました。』


 『死滅した?』


 『そうです。あってはならない、最悪のシナリオになったわけです。でも、それが、事実です。貴方も使用していらっしゃる医療装置は、非公表ですが、非常に多様な使い方が可能です。臓器のコピー、再生ができることは、知られていますよね。しかし、さらに、すでに死亡したかたの、細胞をコピーして、いわゆる、コピー人間や、アンドロイド、クローン人間、事実上のロボット人間まで、作成ができます。あなたの知っている人間は、みな、アンドロイドや、クローン人間、または、ロボットなのです。』


 『わたくしも、複製であります。』


 御徒町さんが、右腕をお腹に当てて、頭を下げながら言った。


 『もちろん、様々なタイプがありました。少なくとも、脳だけがオリジナルならば、まだ人間の範囲です。そうした方々も、暫くは、かなり、いらっしゃったのですが。いまや、人間の種としての生命力が、もはや、限界に達したのでしょう。次々に、このところ、亡くなりまして、結果的に、あなたが、多少、ステントなど入ってはいますが、オリジナルな人間としては、我が国、最後になりました。これは、もちろん、偶然であって、意図されたものではないのですが、あなたは、非常に重要な存在になったわけです。』



         🌋🌋


 

 


 


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る