『誰もいない首都』 4


 凍りつくような、無機的な、味がまったくしない廊下を少し歩き、ぼくは、広い部屋に案内された。


 連れてきてくれた4人の内、御徒町さん以外は、部屋から直ぐに出ていってしまった。


 椅子に座っていた、初老の女性が立ち上がった。


 席の後方には、国旗がある。

 

 左の壁には、かなり大きなディスプレイが嵌め込まれていて、今は、世界地図が表示されている。


 首相は、さすが、なかなか、良い身なりなのだが、上品で行きすぎはなく、ただ、静かに微笑んでいる。


 紫で統一したファッション感覚は、素敵だ。

 

 それは、そうなのだ。


 そうなのだけれども、つまり、何と言うべきなのか、曰く、表現しずらい、不思議な印象があった。


 人間には、第一印象というものは、かなり貴重なものである。


 それは、ここまで辿ってきた、ホームや、エレベーターや、廊下と同じようなイメージなのだ。


 一切の型崩れがなく、傷もなく、ホコリもなく、明るくも暗くもなく、評価のしようがないような完全さだが、無機的な冷たさが感じられる。


 これは、何なんだろうか。


 すると、そんなぼくの気持ちを、まさに読み取ったというタイミングで、御徒町さんが紹介をした。


 『こちらが、忍蔵首相であります。首相、こちらが、あなたが指名なさった方です。』


 『ありがとうございます。まあ、座りましょう。すべては、そこから、始まるのです。』


 首相は、大きな応接セットを、両手で包み込むように、案内した。


 『わざわざ、こんなところにまで、お呼び出し して、申し訳ありませんでした。しかし、ついにその時がやって来た、と言いますと、非常にエキセントリックですが。』


 首相さんは、自分を納得させるかのように、ちょっと話を中断させた。


 そうして、空中に投げ出したボールを、きちんとキャッチしたように、話を継続した。


 『わたくしから、このようなことを、申し上げるのは、慚愧に堪えないのですが、まず、端的に申しますが、貴方は、この国最後の、つまり、完全な、生きた人間なのです。』



          👨‍🦯



 


 


 


 







 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る