『誰もいない首都』 2
リニアモーターカーは、無人のホームにゆっくりと停車した。
見事なくらい、誰もいない。
もちろん、車内放送もなく、ぼくに付き添ってきた3人は、なにも話さない。
しかし、話せないわけではないらしい。
途中で、猛烈にお手洗いの近いぼくは、トイレに行きたいと申し出た。
叱られるかな、と心配したが、ただひとりの、女性の付添人が立ち上がりながら、丁寧に言った。
『どうぞ。』
それは、むかし、ある映画で見た、かなり世俗的に現されていた、『天使』、らしき人の動きに似ていた。上半身だけかくっと折り曲げ、片手を前に差しのべる。
というよりも、映画の動きが、はるか昔の絵画を参考にしていたようには思うけれども。
だから、ぼくは、ますます、この小さなリニアモーターカーの中の世界が分からなくなった。
これも、むかしテレビで見た、死者を送るバスの中に重なって見える。
ぼくは、天国に送られているのだろうか?
ひとりだけで?
それも、また、おかしな話だが。
なんの重要性も、意味もないだろうぼくを、わざわざ一人で、なぜ、謎だらけの、幻の首都に招くのか。
護衛(看守?)つきでだ。
謎だらけ、というなら、このリニア線自体が謎だ。
最終戦争になるのだけは、なんとか回避した、先の核戦争だが、このリニア路線の開通は、それより後になった。
たくさんの揉め事や反対もあったし、世界中が核汚染されてしまい、中止になって、全くおかしくなかったし、利益も上がるかどうか危なかったろうに、なんだか、ごり押しみたいに、開通にこぎ着けたらしい。
最初だけは、予約が一杯になったらしいが、すぐに下火に陥ったみたいだ。
世界環境が、どんどん悪化したことと、無縁ではないだろう。
しかし、時を平行にしながら、国民には良く分からないうちに、総隔離時代になっていってしまった。
歴史が、ついに、雲隠れしたのだ。
🚝🚝🚝
一両だけの、しかもかなり小さな車両だけれども、後方には、ちゃんと、お手洗いと、洗面台が用意されていた。
りっぱなものだ。
汚れひとつなく、洗面台には、水滴ひとつ、飛んでいなかった。
きちんと、整備されているに違いない。
ビジネス・ジェット機など、今もあるのかどうか、ぼくには分からないが、勿論、乗ったこともないが、どことなくそうした雰囲気があるように思った。
妄想に過ぎないが。
とはいえ、名古屋から首都駅までにかかった時間は、わすかに、30分ほどだった。
話しに聞いた、途中の分岐点というものがどうなっているのか、わりに興味があったのだが、さっぱり分からなかった。
尋ねれば良かったのだが、そういう雰囲気ではなかったのだ。
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