旅の小話 地下都市ラノーラ
地下都市ラノーラ。
人の言葉を喋る虫人族が住むこの場所は薄暗い地下とは違い、中央部に設置された煌々と光る大きな魔力灯を光源として、魔力灯の光を地下都市全体にある宝石の家が反射し昼夜問わず常に昼間のような明るさを保っている。
本来虫人族は地下に造られた大きな宝石の周りを洞窟のように掘り進めコロニーごとに言語を作り、宝石の周りにある粘度質の軟鉱とよばれる鉱石を好んで食べ、他種族と交流を一切せず静かに暮らしている。
彼らは昔、地上でも生活をして人間と同じように服を身に付け国を築き、他種族に対して好意的に交流をしていた。しかし、この地上で最も多かった種族がこの虫人達の硬い外骨格に目を付け、大規模な狩が始まった。跳ねれば地面は抉れ家を2つは軽々と飛び越し、その強靭な顎でひと齧りすれば大きな木は一瞬で倒れていく、その力を使えば抵抗できたはずなのに虫人達は争いを好まなかったせいで地下へと追いやられていった。数は減り、言葉をまともに喋ることの出来ない者も現れ虫人族は衰退していき気がつけば惨めにも地下で柔らかい石を齧るだけの生活を送ることになった。
何に仲間を殺されたかも思い出せないほどの時間が経った頃、あるコロニーに一人の放浪者が現れた。
「虫人か、もう滅んだと思ったが…」
そう言う放浪者はリーダーである、一際大きな虫人の前に物怖じせず歩いてくると手を前に出した。
「リストだ」
自分の名前を伝えたが言葉を理解していない様子の虫人達を見て放浪者は彼らの言語を理解しすぐに話し始め、数年かけ人の言葉をこのコロニーの全ての虫人達に教えた。
人の文化を教え、明かりの作り方を教え、通貨の意味を教え、繁殖の仕方を教え、約10年ほどでそのコロニーは大きな都市となった。人口も増え、放浪者が呼び込んだ客で賑わいそこらの国より大きかった。
そしていつしか、この大きなコロニーはこの場所の管理者であり一番初めに人の言葉を教えてもらった虫人族の長老の名前を取って人間達にラノーラ、地下都市ラノーラと呼ばれるようになり、今日も平和に様々な他種族と交流をしている、同じ歴史を繰り返さぬように武装をして。
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