第33話 幸福と緩慢
最近、アミスターの独り言が増えた。
正確に言えば独り言というより精霊と話しているんですが、側から見れば心を病んだ人にしか見えません。
「あんまり人のいる所ではやめましょうね、それ」
少し肌寒い森林の中で、一生懸命に木に笑いかけるアミスターにマフラーを巻きました。
「ありがとうマチ」
アミスターは巻かれたマフラーの感触を確かめ、スンスンと匂いを嗅ぎました。
「その木にも精霊がいるんですか?」
「うん、この精霊は植物の成長を助けてるみたい、ほら」
アミスターの指差すを方を見ると、桃色の花が咲いていました。
「綺麗な花ですね、なんて花なんですか?」
「名前は人が勝手につけるからわかんないみたい」
◇
しばらく歩いた私達は川の近くで野営をすることにしました。
私が焚き火の準備をしている間、アミスターは川に語りかけています。
「火付きましたよ」
「あ、早いねマチ」
「ええ、それより、その川にも精霊が?」
「うん、水を作って、生き物に恵みを与えてるんだって、あの鹿の親子みたいに」
彼女の視線の先を見ると、暗闇の中に微かに二匹の鹿が見え、川の水を飲んでいます。
「私達も感謝しなきゃいけませんね」
「うん、ありがとう精霊さん」
アミスターが周りに笑いかけているその光景を私が微笑ましく眺めていると、アミスターが叫びました。
「マチ!後ろ!」
その声を聞いて反射的に自分の背中に二重で魔力障壁を張りました。
その瞬間、後ろからゴインッと魔力障壁に何かがぶつかった感触がして、振り返ると小さな土竜が気絶していました、おそらく相当の勢いで突進してきたのでしょう。
「また、精霊に助けられましたね」
アミスターが精霊と話せる能力を手に入れてから、敵対する生物が近くに居れば精霊が教えてくれるようになってました。
「はは…こんなのに気づかないなんてことなかったんですけどね…」
「確かに最近気緩みすぎじゃない?すぐ後ろ取られてるよね」
「そうかもしれませんね、気をつけます」
最近というより二人で旅を始めてからだんだん気が緩んでいるような気がします。
「ふぅ…よしっ」
私は自分の頬を叩きました。
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