第31話 活力の源
アミスターが消えました。
町の中を歩きながら後ろの彼女にどんな防具がいいか話しかけていた時、急に彼女の声が聞こえなくなり振り返るとそこには誰もいませんでした。
どこに行ったのかと焦りながら辺りを見渡すと、大人の男性とお店に入っていくアミスターを目撃し、急いで彼女を追ってお店の中に入りました。
店内は商品棚に大量の小さな瓶が並んでおり、とても涼しく、外が暑かったことも相まって天国のように感じながらお店の中を進むと、奥でアミスターが店主さんから瓶を受け取り、躊躇なしに栓を開けてグビグビと飲み始めるので急いで止めに行きました。
「アミスター!お金を払っていないのに商品を飲んではいけません!」
「でも…」
「でもじゃなです!」
私がアミスターを叱りつけていると、後ろから肩をトントンと叩かれたので振り返ると、店主さんが笑いながら私に、試飲で渡した物だと言いました。
「ああ…そうだったんですね、話を聞かなくてごめんなさいアミスター」
「んーん、大丈夫だよ」
店主さんにお礼を言ってお店を出ようとすると、アミスターが上目遣いで私を見つめ、美味しかったから買って欲しいと言い始めたので、私は一本だけだと言って店主さんに値段を聞きました。
「1シルバーだよ」
「え…」
想像していた値段より高く、少し躊躇ったのですが、アミスターがまだ上目遣いで見つめてくるので、後で拗ねられても困ると思い、渋々購入しました。
「毎度あり!」
お店から出て、町中の道を再び歩き始めるとアミスターは瓶の栓を抜きゴクゴクと飲み始めました。
「歩きながら飲むのは危ないですよ」
「うん!」
さっきのお店の店主さん曰く、この飲み物はエナジーポーションと言って、疲労回復、眠気覚まし、代謝を上げて血行促進などの効果があり、この町の人ならみんな毎日一本は必ず飲んでいるほど必要不可欠な飲み物らしく、町の中を歩けば大工さんや荷物を運んでいる商人さん、さらには洗濯物を干している主婦なんかも作業の片手間に飲んでいるのが見えます。
◇
これはアミスターには重すぎる、これは腕が動かしにくそうだ、などと一人でぶつぶつ言いながらアミスターの防具を選んでいる私の後ろで、アミスターはムキムキの店主さんと世間話をしていました。
「アミスター、ちょっとこっちに」
「はーい」
トタトタと小走りで私の元に来たアミスターに防具を着せ、動きづらくないかと聞いていると、彼女が中身の入ったエナジーポーションを手に握っているのに気づきました。
「アミスターこれはどうしたんですか?」
私がアミスターにそう聞くと、彼女はニンマリと笑って店主さんからもらったと言うので、盗んだわけではないと安心して防具の話に戻りました。
「防具はこれでいいですか?」
「うん、動きやすいからこれがいい」
決めた防具を店主さんの元へ持っていき、エナジーポーションのお礼をすると、店主さんは、この町以外の人がこれを好きなんて言うのが珍しかったらしく、それで嬉しくなりストックを一本渡したと言っていました。
「お嬢さんも一本どうぞ」
「あ、ありがとうございます」
優しい笑顔の店主さんからエナジーポーションを受け取り、防具の代金を支払った後にもう一度お礼をして、防具屋さんを出ました。
素材の買取や保存食の購入などの用事が全て終わり、宿屋へ向かっている時にあんなに食べ物にはうるさい彼女が不思議なほど美味しい美味しいと言って飲み続けるエナジーポーションの味が気になり、私も防具屋でもらった一本を一口飲んでみました。
「っ!うへぇ…」
エナジーポーションの味は一言で言えば私の口には合いませんでした、砂糖水で薬を煮詰めたような味がして、鼻に抜ける薬臭と少しとろみ、横でアミスターがこれを美味しそうに飲んでいるので自分の舌がおかしいのかと少し疑いました。
「アミスター、これ、残りあげます…」
「いいの!」
「はい…」
「やったー!」
その後、宿屋に到着し、私が体を拭いている間アミスターはベッドの上で跳ねては私に叱られを繰り返し、どれだけ注意してもやめないので、諦めて放置し、ギッシギッシギッシという音を聞きながら眠りました。
◇
「マチ…マチ…」
私を呼ぶ声と共に体を揺らされ、開かない目をこじ開けるとアミスターが私のベッドの横に立っていました
。
「もう朝ですか…?」
「ひっ…んっ…」
「ん〜?」
目をこすり、もう一度アミスターのことを見ると彼女が泣いていることに気づき、一気に目が覚めました。
「どうしました!」
アミスターの頭を撫でながら、なるべく優しく声をかけ続けると、彼女が小さく何か呟きました。
「ね……い」
「ん?」
「眠いのに寝れないの…」
「そうだったんですね」
ポロポロと涙を流すアミスターを優しく抱きしめ、背中をさすり、落ち着いてきた頃に私のベッドに寝かせ、彼女が眠るまで雑談をし、彼女が寝たのを確認してから私も眠りました。
◇
鳥の鳴き声で目が覚め、伸びをしてからアミスターにおはようと言いましたが返事がなく、彼女のベッドを見ますが誰も居らず、あれ?と思いましたが、昨日のことを思い出して自分のベッドをめくりました。
しかし、そこにもアミスターの姿はありませんでした。
そこで目が覚めて背筋が凍りつき、どこに行ったのか、まさか連れ去られたのかもと考え、急いで着替えている時、部屋の扉が開き、真っ青な顔のアミスターがお腹を押さえて入ってきました。
「アミスター!どこに行ってたんですか!心配したんですよ!」
「うう、お腹痛くてトイレに行ってた…ごめん」
「ああ…そうだったんですか、よかった…」
「それよりマチ…今日は起きるの早いんだね…」
アミスターは小言を言って、自分のベッドに倒れ込みました。
「ふうぅ…ふうぅ…」
「昨日のあれの飲み過ぎですね」
「うん…」
結局、アミスターの腹痛が治るまで半日かかり、夕方頃に町から出ようとすると、エナジーポーションのお店の店主さんが私達を呼び止めました。
「どうしました?」
「旅のお供にと思ってね」
そう言う彼の両手には瓶が握られていました。
「ありが…」
「申し訳ないのでお気持ちだけ受け取ります」
私が受け取ろうとした時、アミスターが前に出て遮り、断りました。
「えっ、本当にいいのかい?」
「はい、お気持ちは嬉しいのですがもらってばかりは申し訳ないので」
「そうか…」
そして、少し残念そうな店主さんに手を振って、私達はその町から出発しました。
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