第26話 恩人 その1

目が覚めると知らない部屋のベッドで寝ていました。

体を起こし、部屋の中を見回すとカラフルな置物が沢山置いていて、私の寝ていたベットの横のサイドテーブルでお香が焚いてあります。


「ここはどこ?」


異様な空間が少し不気味に感じ、混乱しつつもここがどこなのか手がかりを探すためベッドから降りようとした時、部屋の扉が少しだけ開きました。


何か異様な気配を感じて固唾を飲み込み扉の開いた隙間を見ていると、眼鏡をかけた誰かが静かに覗き込んできました。


「……」


しばらくその人物と見つめ合い、だんだん恐怖心も薄れ「何んだこいつは」と思い始めた頃、急に扉が開きその人物が入ってきました。


「やっと起きたか、エルフよ」


黒髪の眼鏡をかけた女性は澄まし顔でそう言いながら私に近づき、顔に手を当ててきました。


「うん、顔の傷も治っているようだな」


私は鬱陶しかったので私の顔をベタベタと触る彼女の手を払いのけました。


「あなたは誰でここはどこですか…」


私がそう聞くと、今度は包帯が巻かれている私の腕を持ち上げ、ベタベタと触っています。


「私はリスト、そしてここは私の家、安全な場所だから安心してくれていい」


「は、はい…」


「腕の抉れてた部分治ってるな…」


そのままリストは私の体のあちこちをベタベタと触りながら怪我が治っているか確認していました。


「あの、私一体何があったんですか…」


私がそう聞くとリストは不思議そうな顔をしました。


「何って、覚えてないのか?」


「え、何をですか…」


「魔力を暴走させて国吹き飛ばしただろ?」


その言葉で鈍器で頭を殴られたほどの衝撃を受け、全てを思い出しました。


「覚えてないのか?その後私に拾われて三日ほど寝てやっと起き…」


ああああああああああああああああああ


〜〜〜〜


「……フ…、エ…フ…、エルフ!」


リストが呼ぶ声で私は目を覚ましました。


「あっはい!」


「大丈夫か?」


「え、何がですか」


私が不思議そうに彼女の顔を見ていると、リストは大きなため息をつきました。


「まったく…お前のまともな反応を見たのは一週間ぶりだ」


「一週間?」


「ああ、話しかけても反応しないか、発狂して暴れるかのどっちかだった」


そう言いながらリストは私の寝ているベットに座りました。


部屋のを見渡すと私が前見た時の整理された部屋とは違い、壁の所々に血が飛び散っており、テーブルは倒れ置物もぐちゃぐちゃになっていました。


「あ、あのごめんなさい…部屋が…」


申し訳なさに耐えきれなかった私がリストに謝罪をすると、彼女は「気にするな」と一言だけ言って部屋から出て行きました。


部屋に取り残された私がいてもたってもいられずベットから出て倒れたテーブルや部屋に散らばる置物を拾っていると、リストが瓶を持って部屋に入ってきました。


「あ、別に片付けなくてもいいのに」


「我慢できなくて…」


「そう、じゃあ…はいこれ」


リストはそう言って手に持っていた瓶を差し出してきました。


瓶の中は濁った黒と濃い緑の層が混ざり合っていて、妙にキラキラとしています。


「んっ」


「あ、はい」


その禍々しい液体の入った瓶を受け取り栓を抜くと、とんでもないほど臭い薬と生臭い匂いを混ぜたような香りがしました。


「うっ」


私が鼻を押さえて怯んでいるのを見て、リストは優しく微笑んでいます。


せっかく持ってきてくれた薬だし、飲まないのは失礼だと思った私は意を決して飲み始めました。


「っ!」


それは、この世の苦い物を全て集めて煮詰めたような味がして、瓶の外から見ただけじゃわからなかった、どろっとした食感が微妙に飲み込めず、何度も吐きそうになりながらどうにか飲み干しました。


「こっこの薬っなんのくすっうっ、ですかっ…」


私は、あまりの苦さに痙攣しながらリストにそう聞くと、リストは不思議そうな顔をして喋り始めました。


「そこら辺に生えてるすごい苦い草と魚の切り身を煮詰めた液体」


「え、薬じゃないんですか?」


「薬じゃないし、飲めとも言ってないよ」


何を言ってるんだこいつ

こんな状態の人に微笑みながら渡す瓶に入った液体は薬でしょう


と思っているとリストが部屋を出て行こうと振り向きました。


「元気になっただろ、ご飯食べるからおいで」


リストが部屋から出て行き、その場で立ち尽くしていると、リストが顔だけ出して部屋を覗いてきました。


「早く来い」


そう言いながら睨みつけてくるリストにとりあえず従うことにして私は部屋を出ました。

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