第23話 獣人少女と魔術の本 その2
「初級なら詠唱がちゃんとできればあなたでも使えるはずです、やってみましょう」
「わかった!」
アミスターは魔術大全を開き、前の方のページの詠唱を何度も確認し、前に手をかざしました。
「炎よ、その木を燃やし尽くせ!」
アミスターは威勢良く詠唱しました。
どれほどの規模で出るか内心ワクワクしていたのですが、どれだけ待っても魔術は発動せず、辺りは鳥の声が聞こえるほど静かです。
私が何故だろうかと考えていると、アミスターは耳をたたみ眉をひそめて私を見つめてきました。
「マチぃ…でないよ…?」
期待通りの結果にならなかったせいか、アミスターの目に少し涙が浮かんでいました。
「もっもしかしたら適応属性じゃなかったかもしれません!ほっ他の属性も試してみましょう!」
「うん…」
しかし、他の属性でも魔術は発動せず、最終的にアミスターに「嘘つき!」と言われ叩かれてしまいました。
「できるって言ったじゃん!」
その場で泣きながら暴れ始めました。
「ああ…お、落ちつてください」
「嘘つき!嘘つき!嘘つき!」
暴れる彼女をなだめながら、どうしようか考えていると、彼女の魔力量を見ていないことに気づきました。
「まさか…」
そう思いながら彼女の魔力量を確認すると、とても小さく濃い魔力が彼女の中にありました。
「よかった…」
使いこなせていないだけで魔力はちゃんとあることに安心し、彼女にある提案をすることにしました。
「アミスター、私と契約しませんか」
私がそう言うと彼女はピタリと動きを止め、鼻水を垂らしてこちらを向きました。
「けいやく…?」
「そう、契約です」
彼女の鼻水を拭いて、目線を合わせるためにしゃがみました。
「まず、あなたの中には魔力がちゃんとあります、とびっきり濃いのが」
「そうなの?」
「はい、でも初めて使うには濃すぎて難しいんです」
「どういうこと?」
アミスターは完全に理解ができていない表情をしていました。
「じゃあ、簡単に説明しますね」
「うん」
「魔力を紐だと思ってください」
「紐…」
「そう紐です、その紐を使って魔術という服を作るんですが、魔力が濃い状態は紐が絡まって玉になってる状態なんです。アミスターは絡まってる状態で服を作れると思いますか?」
「思わない…」
「そうですね、でも魔術師さん達はみんな濃い魔力なのにちゃんと服を作れます、なんでだと思いますか」
私がそう質問すると、アミスターは腕を組んで首を横に傾けながら考え込みます。
「服の作り方を知ってる…?」
「それは、アミスターも知ってますよね」
「え…、あっ詠唱!」
「そうです、よくわかりましたね」
その頃にはアミスターはすっかり泣き止んで真剣に話を聞いていました。
「じゃあ答えです、正解は解いて綺麗な毛糸玉にするんです」
「毛糸玉?」
「この前行った村でおばあちゃんが編み物をしていた時のやつです」
「ああ、あれか…」
「そうです、何回も魔力を使ってあの玉を作ればすんなり魔術が使えるわけです」
「うーん?うん」
「まあ、大体そういう事です」
「うん?わかった!」
「では、本題に…」
私は鞄から一枚のスクロールと小さな針を取り出しました。
「これが契約のスクロールです」
「うん?」
「アミスターと契約して私の綺麗に玉になった魔力を使えるようにします」
「えっそんな事できるの?」
「はい、可能です、でもその代わりあなたも自分の条件を出さなければいけません」
「私が?」
「はい、なんでもいいですよ」
「なんでも…」
すると彼女はその場に立ったしばらく悩み始め、急に尻尾をビンと立てて口を開きました。
「私、マチを守れるくらい強くなる!」
「本当にそれでいいですか」
「うん!」
「それじゃあ、まずお手本を見せるので見ててください」
「わかった!」
そして私は自分の指に針を突き立てました。
「いいですか!見ててください!」
「うん!」
「今から血を出してスクロールにつけますからね!」
「うん」
「こうですよ!見ててくださいね」
「うん…」
「さあ!刺しますよ!」
「………」
「今やりますからね!いきますよ!」
私が震えながら針を指に突き立てているとアミスターが私の手首を掴み、物凄い蔑んだ目で睨んできました。
「マチ、長いよ」
獣人の風格が見えた気がして、彼女の成長を感じました。
「あ、はいすいません…」
その後、アミスターに針を刺され、彼女も自分であっさりと終わらしお互いの血をスクロールに垂らしました。
「はい、これで契約完了です!」
「え、これで終わり!?」
「はい、そうですよ?」
するとアミスターは自分の体を舐め回すように見始めました。
「どうしました?」
「なんか、力がブワーって湧いてくるものかと思ってた」
そう言いながら彼女は腕をブンブンと振りました。
「ははは、そんな急になるわけないじゃないですか」
「針も自分の指に刺せない人に言われたくないよ」
「言うようになりましたね…」
その後、森を抜けるために歩いている間、アミスターはずっと魔術大全を両手で持ちながらぶつぶつと詠唱をしては転びそうになるので、私は彼女が転んでも受け止めれるように彼女を見ながら歩き、転びました。
結局森を抜けれず、その日は野営をすることに。
二人で保存食を食べた後、私は魔術大全を読む彼女に早めに寝るように言ってから眠りました
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