第17話 思い出のアンクレット
その日、私達はとある街でいつものように人助けとして作物の収穫を手伝っていました。
「マチー、こっちは終わったぞー」
作物を載せた荷車を引きながら、畑の向こうの道をグイードさんが歩いています。
「待ってください…もう少しでっ…」
かと言う私は、ぶどうの収穫を手伝っていたのですが、私の身長では微妙に届きそうで届かず、作業が停滞気味でした。そんな私を見て農家のお婆さんが「少し休憩したらどうだい」と言って私にお茶を入れたコップを差し出しました。
私は垂れる汗を拭いて、彼女の差し出すコップを受け取り、一息で飲み干します。
「いい飲みっぷりだな、マチ」
「あ、グイードさん居たんですか」
いつの間にか作業を終えたグイードさんが横で立っており、私と同じようにお茶を飲んでいました。
「よし、じゃあこっちも終わらしちゃうか」
彼はそう言って私に飲み終わったコップを渡し、次々と葡萄を収穫し始めます。
そんな彼の背中を見て、最初会った時は私より背が低かった彼が、気がつけば私が見上げて話すほどの身長になっていて、人間の成長は早いなと思いながらうとうとしていました。
※
「おーいマチ、起きろー」
顔をペチペチと叩かれ、重い瞼を開きながら起き上がると、目の前にグイードさんがいました。
「気持ちよさそうに寝てたな」
どうやら私は疲れで眠っていたようです。
「ご、ごめんなさい!作業中に寝ちゃって!」
私は急いで立ち上がり、作業をしようと思いましたが、ぶどうは全て収穫されていました。
「あれ、グイードさん、もしかして終わりました…?」
私が冷や汗をかきながら振り向くと、彼は不思議そうにしながら口を開きます。
「もう終わったぞ?」
「ああ、ごめんなさい…」
私は申し訳なさから彼に何度も謝ると、彼は大丈夫と言って言ってくれました。
その後農家さんから報酬を頂き、一旦宿に戻ることになりました。
※
グイードさんは宿に着くなり、買い物に行くと言って部屋から出ていってしましました。
いつもなら一緒に行くのに、と思いながら私は彼を見送りました。
「どうしましょうか…」
そのまま部屋に取り残された私は久しぶりの1人に少し戸惑いつつ、取り敢えず宿から出ました。
しかし、特にどこか行きたい場所は無かったので、目的もなしに歩くことにしました。
しばらく歩くと噴水のある広場に出て、あちらこちらに出店があり、たくさんの人々がわいわいと話をしながら串に刺さったお肉や野菜、飲み物やアイスをベンチや噴水の縁に座りながら飲み食いしていました。
もう少しでお昼時だったので、ここで食事を済ませようかと思いましたが、せっかく1人ですし、どうせならいい感じのカフェでも探そうかと思いましたがさすが屋台、いい匂いが私の食欲を刺激します。一本だけ…、そう思いながらお肉と野菜がツヤツヤのタレに絡まった串を一本だけ買いました。
柔らかく大きなお肉は噛むたびに肉汁が溢れ、少し焦げ目のついたホクホクの野菜はとても甘く、どちらも甘辛い香辛料の効いたタレとの相性が最高で、結局3本食べました。
これはグイードさんにも教えようと思いながら、流石に串料理だけではお腹は満たされなかった私は、再びいい感じのお店を探すためにまた歩き始めました。
今度は商店街に足を踏み入れました、流石にここなら私の理想のお店が見つかるはず、そんなことを考えながら期待を胸に足を進めていくと、これまたいい匂いがします、その匂いに釣られて歩いていくと今度はパン屋さんが現れました。
流石に今パンを食べてしまうと昼食が入りそうになかったので、血の涙を流しながらそのお店の前を通り過ぎました。
小麦の焼けたいい匂いの残り香を嗅ぎつつ、パン屋を無視したことを後悔しながら歩いていると、気が付けば商店街の端へと着いており、角にカラフルな小さなお店があったので、なんとなく最後にここに入ってから商店街を出ることにしました。
扉を開けるとベルの音が鳴り、ムワッと甘い匂いが私を包みました。
店内を見渡すと、天井まである棚に、大きな透明の瓶が並べられていて、その中にカラフルな丸いガラス玉のようなものが色で分けて詰められていました。
体格のいい優しそうな店主のお爺さんにこれは何かと聞くと、ポーションキャンディという物で、どうやら効果は薄いが色ごとにポーションの効果がある飴だそうです。
何か気になるものはないか店主さんに聞かれたので、いくつか指定すると、試食として一粒づつ貰えました。
どうやら、美味しかったら買いに来て、と言うことみたいです。
早速その場で緑色の飴を舐め始めました、味は爽やかなりんご味でした。
結局、緑の飴の小袋を購入し、他の味はまた歩きながら食べるとして、美味しかったらまた来ますと言ってお店を後にしました。
オレンジ色の飴をコロコロと舐めながら歩くと、立派な教会が現れその隣ではバザールが開かれています。
教会の中を覗くとポツポツと人が座っており、祈っていたり寝ていたり、本を読んでる人もいました。私は今後の旅の無事を祈り、少々のお金をを司祭さんに渡し教会を出て横のバザールを少し見ることにしました。
街の人たちの手作りのお守りやアクセサリー、色々な種類の魔鉱石の結晶なんかも売っており、胡散臭そうに「このアンクレットを付ければ魔術の威力が上がる!」なんて看板を掲げているお店もあり、少し笑いながらこんな物買う人がいるわけないだろうと心の中で呟き、この小さなバザールを抜けました。
バザールの抜けると、そこは教会裏の大きな花畑で、沢山の子供達が走り回っています。私がそんな平和で微笑ましい光景を眺めていると1人の女の子が私の方へと走ってきて、私を見るなり他の子に「この人エルフだ!」と言ってはしゃぎ始め、そのまま私は子供達に花畑へと引き摺り込まれました。
追いかけられ逃げては捕まり、その度に何故か子供達は私の上に積み重なり高い声で満足そうに笑います。
走り回り疲れた私は魔術を使って大きな花を咲かしたり、花吹雪を起こしたり、花で冠を作ってみたり、そんな風に子供達と戯れていた時、私の腹の虫が鳴りました。
そうです、何か忘れていたと思ったら、いい感じのカフェを探しているのを忘れていました。
私は立ち上がり、ご飯を食べに行くと子供達に伝え、また遊ぶ約束をして花畑を後にしました。
歩く度に私の腹の虫は昼食を要求し続けています。
青い飴を舐め、暴れるコイツを制御しつつ早足で路地を抜けると、川沿いに沢山の飲食店が並ぶの人通りの多い道へと出ました。
ここならきっと私を満足させてくれる場所がある、そう確信し、ジロジロと一軒ごとにしっかりとどんなお店なのかを確認しながらゆっくりと歩みを進め、沢山のお店の中から私は、オムライスの専門店を選びそこで今日はお昼を過ごそうと決め、ニコニコでお店の扉を開けました。
しかし、満席で入れませんでした。
オムライスに未練を残しつつ、再び歩き始めると、他のカラフルなお店とは違い、なんだかとっても雰囲気のある渋いカフェがありました。
表にメニューはありませんが、雰囲気が気に入ったのでここで昼食を取ることに決めました。
正直もう空腹が限界です。
中に入ると、全ての席が人で埋まっているように見えたので、諦めて出ようとした時、店員さんに呼び止められ、店前に今からテーブルを出すから少し待って欲しいと言われました。
私はやっと食事にありつける嬉しさと一刻も早く食べたい気持ちで、テーブルと椅子を出すのを手伝いました。
全て出し終わり、やっと椅子に座ることができ、メニューを見ながら、葡萄ジャムのサンドイッチにしようか、いや、無難にプレーンなサンドイッチにしようかと、ぶつぶつ言いながら悩んでいると、先ほどの店員さんがお水を持ってきてくれて、そんな悩んでいる私を見かねておすすめメニューを教えてくれたので、せっかくなのでそれとコーヒーを注文しました。
ふんふんと鼻歌を歌いながら通り過ぎていく人を眺めていると、すぐに料理が運ばれてきました。
私が頼んだのはとてもボリューミーなチーズとサラミのサンドイッチです。
こんなにも美味しそうな物を目の前にして、私はまるで数週間何も口に出来なかった冒険者の如く齧り付きました。
香ばしいバスケットがザクっと鳴り、少し塩気の少ないクリーミーなチーズがサラミの塩辛さを調整し、それを包み込むようにシャキシャキのレタスがスパイスの効いたソースと一緒に私の口の中で舞踏会を開いていました。
そのまま黙々と食べ続け、そのまま半分ほど食べ終わりコーヒーを一口飲むと、満腹感と沢山歩いた疲れで、だんだんと微睡んできました。
うとうとしながら、なんだか一人だと物足りないなと思いながら、ぼーっと周りの流れていく風景を眺めていると川を跨いで対面の道にグイードさんが歩いています。
「あ、グイードさんだ……グイードさんっ!?」
彼を見つけ、一気に微睡んでいた気分が冷めた私は、サンドイッチをハンカチで包み、カバンに投げ入れ、残りのコーヒーを一息で飲み、お金を置いて急いで彼を追いかけました。
近くの橋を渡り、なんとなく隠れながら彼を追いかけていると、彼はおばあちゃんの大きな荷物を持ってあげたり、迷子の子供の親を一緒に探していたりと、いつも通り人助けをしていました。
そのまま後をつけていると、なんだか尾行が楽しくなり、通路を曲がった彼を追おうと隠れていた木箱の裏から立ち上がってそろりと通路を覗くと彼がこちらを見て不思議そうな顔をしながら立っていました。
「マチ、さっきから何やってるんだ?」
どうやら彼はずっと気づいていたようです。
「あ、いやその、下心はありませんから!」
「何言ってんだ?」
焦りのあまり意味のわからないことを口にしてしまいました。
「せっかく合流したんだから、一緒に宿に戻ろうか」
そして私達は、横に並んであれこれ話をしながら歩き始めました。
「あ、そうだグイードさんこれ」
私はそう言って、残った色のポーションキャンディーを彼に差し出しました。
「綺麗な色の飴だな」
「美味しいので一つどうぞ」
「じゃ、お言葉に甘えて」
彼は私の手の中から紫の飴を取り、口の中へ入れました。
「ぶどう味か、濃くて美味しいな!」
「美味しいですよねこの飴!」
私はそのまま、ポーションキャンディの説明や、他の色は何味だったかを話しました。
「りんご味にオレンジ味、ミントの味まであるのか」
「はい!どれも濃くて美味しかったです!」
そして私達は、彼の提案で他の味を求めてポーションキャンディのお店へと向かい、いくつかの気に入った味の小袋をを買っていきました。
「意外と安かったな」
「はい!値段に合わない美味しさですよね!」
ポーションキャンディの詰まった小袋をカバンに入れ、歩いていると、あのいい匂いのするパン屋さんが見えてきました。
「グイードさん、夕食にパンでも買って行きましょうか」
「そうだな、いい匂いもするし買って行こう」
パンの袋を抱え、雑談をしながら歩いていると噴水の広場が見え、あの串料理のことを思い出し彼に伝えました。
すると彼はぜひ食べたいと言うので、その屋台へと案内しました。
「二本くれ」
「あれ、グイードさん二本も食べるんですか?」
「いや、マチの分だよ」
彼はそう言いながら、串料理を袋に入れてもらい、私達は宿に戻りました。
※
部屋に到着し、鞄を置いて買ってきたパンや串料理の感想を言い合いながら食べていると、グイードさんが急に「あっ」と言って立ち上がり、自分のカバンを漁り始め、何か箱を取り出し、それを渡してきました。
「なんですかこれ」
「開けてみて」
疑問に思いながら微妙に装飾された箱を開けると、中には見覚えのあるアンクレットが入っていました。
「これ、魔術の威力を高めてくれるんだってさ!」
「これを、私に?」
「うん!」
グイードさんは少し興奮気味で話しています。
贈り物なんかをもらえるとは思ってもいなかったのと、まさかのこれを買う人がいるという二つの驚きが同時に私を襲ってきました。
「あははっ!」
「どうした?」
「なんでもないですよ」
思わず笑ってしまいましたが、私は慎重に箱の中からアンクレットを手に取り、手首につけました。
「ありがとうございます、大切にしますね」
正直、加護については信じていませんが、とても立派な装飾がしっかり作り込まれています、私がこれからずっと大切につけると言うと、彼は喜んで小躍りして喜んでいました。
「さあ、残りを食べて明日に備えて寝ますよ」
その後、私達の声は夜遅くまで止まることはなく、次の日のお昼に慌てて宿を出たのでした。
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