第16話 ダンジョンと金貨
ダンジョンとは、魔物達が作った洞窟や建造物状の巣のことを言います、彼らは財宝や上質な装備を溜め込み、それを求めてやって来た冒険者や旅人を襲って食料としています。
もちろん、魔物達を蹴散らしてしまえば、財宝は全て自分たちの物となるので、命を賭けてでもダンジョンに入る挑戦者は沢山います。
もし旅人や冒険者ならしばらくの間、路銀に困ることはないでしょう。
今日は私達もそんな挑戦者の一人でした。
「グイードさん!ちゃんと足元を見て罠には気をつけてって言いましたよね!」
ダンジョンの暗い通路に怒号が響きます。
「ごめんマチ…」
周りをちゃんと確認せず、「大丈夫、大丈夫」と言いながらすぐに感圧板を踏み、しっかり罠を発動させ、大量の水を食らったグイードさんを私は叱っていました。
「今回は水だけで良かったですけど!もし矢とか毒とかだったらどうするんですか!」
「はい…」
「はいじゃないですよ!もう!行きますよ!」
その後しばらく通路を進み、グイードさんの服が乾いた頃、私の前を歩いていた彼が扉を見つけました。
「マチ!扉があったぞ!中にお宝があるかも…」
「待って…!」
私が彼を止めようとした時には、すでに扉は開いていました。
「やけに真っ暗だな」
部屋を覗き込む彼を小突きながら、私も中を覗きました。
「だからグイードさん、少しは警戒をしてください」
「あ、すまん」
そう言いながら彼は松明に火を着けます。
「よしこれで中が…」
松明の明かりで部屋の中が照らされると、キラキラと無数の小さな目が、壁や床や天井で光り、黒い背中がテカテカと松明の光を反射しています。
そう、そこは暗い部屋ではなく大量の虫が居る部屋でした。
「ひぃ…」
「グイードさん!怯えてないで早く閉めて!」
私が声を出した瞬間、虫の大群が羽音を立て私達を目掛けて飛び始めました。
「うわぁあああ」
「は、早く早く!」
腕からゾワゾワと虫が這う感覚を感じながら扉を勢いよく閉め、急いで体に張り付く虫を払いました。
「うわああ、マチ!背中の虫取って取って!」
グイードさんは喚き散らしながら、装備を外して服をバサバサしています。
「今取りますから、動かないでください」
私は彼の背中から何匹かの虫を取って、地面に叩きつけ踏みつけました。
「ありがとうマチ…」
情けない声で私に感謝を言う彼は、メソメソとしながら装備を付け直します。
「これ、魔物ですね」
私がそう言うと、彼は嘘だろ?と言う顔をしていました。
「虫型の魔物です、松明で奥を照らした時、死体がありました」
「本当か…最悪死んでたって可能性も…」
「そうですね、奥に死体が見えたので恐らくそこから増えたのでしょう」
そして、扉を見ながら身震いする彼に、私は追い打ちをかけるように語りかけました。
「あの方みたいに穴だらけで虫のお家になりたくなかったら気をつけましょうね」
「気をつけます…」
怯える彼を少し笑いつつ、今の騒動で疲れた私は壁にもたれ掛かって休憩をしようと思いました。
「ふう」
そして体重をかけた瞬間ガコッという音と共にその壁が凹みました。
「ガコッ?」
なにかと思い凹んだ壁を見ようとした瞬間、グイードさんが叫びました。
「おいマチ!後ろ!」
彼の声に振り向くと、私達の来た通路の方から大量のスケルトンが地響きと共にこちらへ向かってきています。
「どうするマチ!」
「そりゃ、逃げるに決まってますよ!」
そして私達は死に物狂いで走り始めました。
「はあ、マチ、意外と早いな…」
「そんなこと言ってる場合ですか!あっ!扉です!」
「やった、助かる…」
急いで部屋へ入り、2人で扉を押さえました。
ガリガリガリと、ものすごい音と共に衝撃が扉越しに私達に伝わり、それだけでどれだけの数が追いかけていたか分かるほどでした。
「もう、大丈夫ですね…」
ゆっくりと扉から離れ安全を確認した後、2人ともその場に倒れ込みました。
「はは、死ぬかと思いましたね…」
「そう…だな…」
安堵して軽く笑いながら息を整え、体を起こして部屋の中を見渡した時、ある物を見つけました
「グイードさん、この部屋、あれがあります…」
「ついに、あれが…」
そう、そこには大きな宝箱がありました。
私達はそれにゆっくりと近づき、目の前で足を止めました。
「さて、開けてみるか」
「ええ…あっ、待ってください!」
宝箱を開けようとするグイードさんの手を掴みました。
「どうしたマチ?宝は目の前だぞ?」
「ごめんなさい、興奮でミミックの可能性を忘れていました…」
私がそう言うと、グイードさんは不思議そうな顔をして首を傾げました。
「え、ミミックってなんだ?」
「そんなのも知らないんですか…」
そんな彼に、少々呆れながらも説明を始めました。
「ミミックは宝箱や箱などに擬態する魔物です、見た目は大きな貝って感じですね」
「へー、どうやって見分けるんだ?」
「肉食なので干し肉などを宝箱の前に置いて、少し離れて反応を見るとかですかね」
「よし、やってみよう」
彼は早速鞄から干し肉を取り出して宝箱の前に置き、部屋の隅へと行って座り込んだので、私も彼の横に座り込みました。
それからしばらくして、少し退屈そうにグイードさんは口を開きました。
「出てこないな」
「なんですか、見たかったんですか?」
「少し…」
残念そうな彼を笑いながら、私は立ち上がりました。
「よっこいしょ、ほら、出てこないんですから、開けますよ」
そして私達は再び宝箱の前に立ちました。
「開けるぞ…」
「はい…」
ゴクリと唾を飲み込みゆっくりと宝箱を開きました。
「これは…」
「ああ…」
「「お宝だ!」」
中には、眩い金色の光を放つ大量の金貨とカラフルな宝石がキラキラと光っていました。
「やりましたね!」
「死にかけた甲斐があったな!」
この財宝を袋に詰めようと一枚手に取った時、それは異様に軽く、まさかと思いながら手に取った金貨の裏を見ました。
「あ、これ宝虫だ…」
「え…」
裏側にはわさわさと動く六本の足と小さな目。
そう、この宝箱は宝虫の巣でした。
稀に集めている人はいますが、まあ、お金にはなりません。
私は彼らが襲ってくる前にゆっくりと宝箱を閉めました。
「はあ…次いきますか…」
「うん…」
私達は落ち込みながら、その部屋を出てさらに奥へと進みました。
「扉ないですね」
しばらく通路を歩きましたが、一向に分かれ道や扉が現れません。
「どれだけ歩けばいいんだ…」
そう文句を言いながら頭の後ろに手を組んで前を歩く彼の頭上をふと見ると、大きな雫が落ちてくる寸前でした。
「ぐ、グイードさん上!」
「え?」
私は彼を突き飛ばし、落ちてくる大きなゼリー状の塊を避けました。
「なんだこいつ!魔物か?」
「スライムです!私が凍らしますから叩いてください!」
「わ、わかった!」
彼が剣を構えたのを確認してスライムを凍らせました。
「今です!」
「くらえ!」
私の合図と共に、彼が凍ったスライムに剣を振り下ろすと、スライムは粉々に砕けました。
戦闘が終わり、グイードさんが何か言いたげな表情をしています。
「グイードさんどうしました?」
「いや…今の魔物って…」
「スライムですよ、ああやって隙間などから落ちて人の頭を包みそのまま溶かしてしまう物理攻撃の効かないかなり厄介な魔物です。今みたいに凍らすか、燃やすくらいしか対処法はありませんね」
そう語りながら、私は一応凍ったスライムの破片を拾て鞄にいれました。
「じゃあ、もし僕1人だったら…」
「危なかったかもしれないですね」
私がそういうとグイードさんは青ざめた顔をして私を先に進ませます。
「いや、前衛はあなたでしょ…」
私を先行させる彼に愚痴をこぼしながら奥へと進むと突き当たりに一つの扉がありました。
「恐らくここで最後ですね、はいりますよ」
中に入ると、そこには本棚と机と椅子、おまけにベッドまであり、まるで人の住居のような空間でした。
「なんで、ダンジョンにベッドや椅子が?」
「わからないが、とりあえず何かないか探してみよう」
「そうですね、私は本棚を見てきます」
本棚の前に行き、並べられている瓶の中身や本の内容確認しましたが特にこれと言ってお金になりそうな物は無く、ため息をついてグイードさんの方へ向かいました。
「グイードさん、何かありましたか?」
「ちょっと待ってここになにか…」
彼はそう言いながら、肩までベッドの下に入り込んでいました。
「取れた!」
「そ、それは!」
埃まみれの頭の彼が手にしていたのは、小さな宝箱でした。
「た、宝箱!?」
まさかあるとは思ってもいなかったので、思わず変んな声が出てしまいました。
「さあ、早く開けよう!」
「はい!」
それを机の上に置き、期待に胸を膨らませて開けると、小さな宝箱の中にはびっしりと金貨が入っていました。一枚手に取り裏を確認しましたが、紛れもない本物の金貨でした。
「グイードさん!金貨ですよ!少ないですが本物です!本物!」
私は彼の肩をバシバシと叩きながら言いました。
「やったな!何を買おうか」
「私、靴がそろそろぼろぼろで、少し良い物を買いたいです!」
「じゃあ僕は、剣を新しくしようかな」
こんな感じに、何を買うか、どうしようかと二人で色々考えながら金貨の枚数を数えました。
「7…8…9…あれ?何でしょうこれ?」
金貨に紛れて宝箱の底に折りたたまれた紙が入っています。
「これなんだと思います?かなり上質な紙ですけど」
「魔物がメモをするとも思えないしな…」
「売れるでしょうか…」
そう二人でぶつぶつと考察しながら私は折りたたまれた紙を開くと、紙から光が溢れ、私を包み始めました。
「グイードさん!手を!」
「えっ!」
まずいと思った私はグイードさんの腕を掴み、そのまま二人とも光に包まれました。
次の瞬間、気が付くと私達はダンジョンの入り口に立っていました。
私の手に持っていた紙は灰のようにぼろぼろと崩れ落ち、そのまま風に飛ばされていきました。
「ま、まち?大丈夫か?」
プルプルと震えながら、彼は私の心配を口にしました。
「大丈夫ですよ、やらかしましたね」
「なんなんだ今の」
「転移の魔術です、おそらく罠として置いていたのでしょう」
「そう…なのか」
「はい、まあ…外に出れたし、この通り金貨も…ってあれ!?」
「どうした?」
「財布が、ないです…」
私はポケットを探り、鞄もひっくり返しましたが金貨を入れていた財布が無く、脂汗が出てきました。
「マチ、まさか…」
「さっきの部屋に置いてきたかも…」
「うそだろ!またダンジョンに潜るのか?」
「ごめんなさい…でも、行くしかないですね…」
そして私達は今度は財布を求め、小走りで再びダンジョンに潜っていくのでした。
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