第14話 無情なる人
こんにちは、マチです。
私達は今、とある商人さんからの依頼で、村から町への護衛を終えて積み荷を下すのを手伝っています。
「荷下ろしまで手伝ってもらって、本当に助かったよ、ありがとう」
商人さんから荷下ろしと護衛の報酬を頂き、軽く挨拶をした後、私達は町の中へと進み始めました。
黙って私の前を歩くグイードさんに、何か目的があるのか聞いてみると、彼は胸を張り、笑みを浮かべながら口を開きます。
「もちろん困ってる人を探しているんだよ」
どこまで行ってもお人好しというかなんというか、その前に自分が強くなったほうがいいと思いました。
「人助けするより、聖剣を早く手に入れたほうが良いんじゃないですか?」
「確かにそうだが、勇者として人が困ってるなら見過ごせないさ」
そして私達は町の中へと入り、困っていそうな人を探しに、商店街や住宅街をうろうろとしていると、一人の御婦人に声をかけられました。
「困ってること?そうねー、じゃあ裏庭の雑草を抜いてもらおうかしら」
「はい!任せてください!」
そして私達は御婦人の案内で裏庭へ向かうと、そこはまるで森のように葉が生い茂っていました。
動きたくなかった私は近くで座り、勇者が雑草抜きか…、などと思いながらグイードさんの背中を眺めていました。
「勇者のやることじゃなくないですか…」
私が思わずそう口にすると、彼は黙々と雑草を抜きながら喋り始めました。
「確かに違うかもしれないが、困っていて、頼まれたなら、見過ごせないんだ」
彼のその言葉に、懐かしい名前も忘れた誰かの顔を思い出しました。
どこまでもお人好しなこの人は、やはり生まれながらの勇者のようです。
「じゃあ、早く終わるように、私も手伝います」
私は重い腰を上げて、グイードさんのそばで一緒になって、雑草を抜き始めました。
そんな私を見て、グイードさんは嬉しそうな顔をしています。
「ありがとう、マチさん、二人でやれば終わるのも早い」
「うん、ん…?」
抜いた雑草に違和感があったのでよく観察するとほとんどが薬草でした。
これだけの量を買えばかなりのお金がかかる量です。
「グイードさん!これ薬草ですよ!」
「本当か!少しもらっていこうか」
「いえ、少しと言わず全部…」
私は、カバンを地面で広げて、雑草と薬草を分けながら鞄へと入れていきました。
「グイードさん、それ雑草です」
「え?本当か?僕には全く見分けがつかないよ…」
気付けばあっという間に作業は終わり、依頼主の御婦人の方に少しお金を貰い、薬草を頂いてもいいかの確認をすると、全部持って行っていいとのことだったので、有り難く持ち帰りました。
そして、宿屋へ向かっている時、グイードさんがふと問いかけてきました。
「そういえばマチさんって、いっつもなんでもカバンに入れるが、中身どうなっているんだ?とてもそのカバンに入る量ではないと思うのだが…」
そこで私はこれでもかとカバンの自慢を始めました。
「ふふん、これは生活魔術である、収納魔術をこれでもかと使った、私お手製のカバンです」
「ほお、すごい、無限に入るのか?」
「無限ではないですがほぼ一生分くらいの荷物は入るはずです」
「すごいな、しかし、それだけ物を入れたら取り出せなくないか?」
彼がそう言うので、私は実演しながら説明をしました。
「収納魔術は、出したいものを考えながら手を入れると、それが出ててくるんですよ、ほら、食べかけのパンです」
「いや、食べかけのパンは入れない方が…」
「うるさいです」
私はグイードさんを軽く肘で突きました。
「しかし、それは便利だな、僕も欲しいくらいだ」
「私も、貴方に作ってあげたいのですが、素材が大体高級すぎて、無理ですね…」
私は目を逸らしながら言いました。
「ちなみに、いくらくらい…?」
「安く見積もって、500ゴールドはいくかと…」
それを聞いて、グイードさんは驚きの表情をしながら、私の顔とカバンを交互に見ています。
「宿屋…いこうか…」
「はい…」
宿屋に行き、部屋を取った後、グイードさんが宿屋の店主さんに何か困っていることはないか聞きました。
「困ってること?うーんそうだな、うちの猫が何日か前から消えちまってな、諦めてたんだが、探してもらえるか」
「ああ、見つけて来るよ、任せてくれ」
グイードさんはそう言って、宿屋を出ようとしました。
「ちょっと、グイードさん!猫ちゃんの特徴を聞かないと」
「あっ、忘れてた…」
「まったく…」
そして私達は、宿屋の主人さんから猫ちゃんの特徴を聞いて、街の中へと向かいました。
生垣や路地裏の隙間、用水路の中、食堂のゴミ箱、聞き込みなどもしましたが、どれだけ探しても猫ちゃんは見つからず、気付けば日は落ちかけていました。
「もう夕方なので、別々で探しませんか?」
「そうしよう、そっちの方が効率がいい」
私達はその場で別れ、私はもしかしたら街の外に行っているのかもと思い、街から出て一番近くの森へと向かいました。
「猫ちゃーん、いませんかー、って返事する訳ないですよね…」
そんな風に、一人でぶつぶつと良いながら歩いていると、つんと血の匂いがしました。
「血の匂い…、一応グイードさんも連れてきましょうか」
一応、万が一のことを考え、一度街へ戻ってグイードさんと合流し、血の匂いの話をして、森の中へと入りました。
「確かに血の匂いがするな…」
「こっちの方ですね、あっ」
「どうした、マチさん」
私は視線の先のそれに指を指しました。
「あそこ、魔物がいます」
血の匂いを辿ると獣型魔物がいました。
「血の匂いはこいつか…」
目が合うと、魔物は襲いかかってきました。
「毒牙を持っている可能性があるので気を付けてください!」
「わかった!」
突進してくる魔物を、グイードさんは剣で受け流し、重い一撃を入れました。
「離れてください!」
彼が離れた瞬間、私は魔術で魔物を凍らせました。
「すごいな…」
そう言ってグイードさんは凍った魔物を手で触ろうとしたので、私は急いで止めました。
「手も凍りますよ!」
「えっ!?」
私がそう叫ぶと、サッと彼は手を引っ込めました。
「あ…危なかった…」
「まったく…グイードさん、これ、剣で叩き割れますか?」
「ああ、出来ると思うぞ」
グイードさんは剣を鞘に収めて、そのまま叩きました、すると、魔物は粉々に砕け、怪我することなく戦闘が終わりました。
「あっ…」
そして私は、魔物が最初にいた場所に横たわる、それを見つけました。
「ね…猫ちゃん…」
「ダメだったか…」
それは、店主さんに言われた特徴とまったく一緒の猫ちゃんでした。
「どうしましょうか…この子」
「とりあえず、宿屋の店主に報告しよう」
そして私達は宿屋に戻り、全てを報告しました。
「あー、そうだったんだ、しょうがないね、ありがとう」
「へ?」
私は店主さんのあまりに無情な反応に、変な様な声が出てしまいました。
「はい、それでは」
そう言って、グイードさんは部屋へと早足向かっていくので、戸惑いながら駆け足で彼について行きました。
部屋に入った瞬間、私は思わず声を荒げてしまいました。
「どう言うことですか一体!飼い猫は家族みたいなものでしょうに…なんですかあの反応…」
私がそう言い終えると、グイードさんが少し悲しそうな目をして私を見ました。
「そういう人もいるんだ、今日はもう寝て、明日は早く出よう」
そう言って彼はさっさとベッドに入りました。
「そういう人もいるって…」
そのまま、モヤモヤとした気持ちで私はベッドに入りました。
〜
次の日、私達は朝早く宿屋を出ました。
「行きたい場所があるんですが良いですか?」
「ああいいよ、魔道具屋?それとも保存食でも買い足しにいく?」
「違います」
そして私は、グイードさんを連れて昨日の森へと行きました。
「昨日の森?」
グイードさんは不思議そうにしています。
「はい、昨日のあの子を、弔ってあげようと思いまして」
昨日のあの子が居た場所に行くと、綺麗なままでその場で倒れていたので、小さな穴を掘って、猫ちゃんを埋葬しました。
「あとはこれを立てて」
木の棒でつくった不恰好な十字架を立てると、グイードさんが不思議そうな顔をしました。
「墓は、石を積むんじゃないのか?」
「昔私が訪れた村でそういう風習があったので、それの真似事みたいな感じです」
しっかり十字架の固定が出来たのを確認してから、二人でお墓に祈りを捧げました。
「この子の魂が浄化されますように…」
そして私達は、森の中から出て次の場所へと、歩き始めました。
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