第8話 妖精の国

清々しいほどに気持ちい空の下、そこでは澄んだ空気が流れていまいた。足を止めて大きく深呼吸をして、大きく息を吐きました。そして、さて進もうと一歩踏み出そうとすると、急にざーざーと雨が降り始めました。

急な雨に私は走って近くの森の中へと入りました。


あんなに天気が良かったのに…と急に降る雨に苛立ちを覚えながら濡れた髪を拭いて、このままでは先には進めないと思い、私はそのまま森を通ることにしました。


暗い森の中、雨が葉っぱに当たる音と私の足音だけがなってます。


「なんだろうあれ…」


魔物に警戒をしつつ、かなり奥まで進んでいくと、小さな光がふわふわと飛んでいるのが見えます。

その光はだんだん私の方へと近づいて来ました。

ゆっくりと近づくそれの形が見えてきた頃、私はそれが何か知っていました。


「妖精だ…」


小さな人に羽が生えたような見た目、それに光り輝く鱗粉、そうそれは紛れもない妖精でした。

その一匹の妖精は私を見つけたのか真っ直ぐ向かってきました。


「あら…エルフだったの、珍しいわね人間以外が居るなんて、こんなところで何してるの?」


思ったよりフレンドリーな妖精に驚き、一瞬言葉を失いましたが、急いで返事をしました。


「あっ、森の外を歩いていたら雨に降られてしまって、それで仕方なくここを通ろうと思いまして…、決してあなた方の森を荒そうだなんて気持ちはこれっぽちも…」


「あらあら、そんなに焦らなくたって大丈夫よ、あなたからそういう気配も感じないしね」


その後この妖精の話を聞くと、この辺りは妖精の森らしく、私はたまたま迷い込んでしまったということらしいです。


「そうだったんですね、それでは私はこの辺で失礼させていただきます…」


と言って私が振り向くと、妖精が私の肩を掴みます。


「いいじゃないせっかくだし、どうせ戻っても外は雨なんだから〜、そうだ!この先に私たちの住んでいる町があるの、寄っていきなさい」


そう言って妖精はどこからそんな力が出るんだと思うほどの力で私の腕を引っ張ります。


「いや、私は…」


「いいからいいから〜寄っていきなさい」


そのまま妖精に手を引かれ奥へと進むと、妖精が一匹、また一匹と増えていきました。


「あの、本当にもう帰りますので…」


「ほら、そこの茂みを抜けた先よ」


言われるがままに茂みを抜けると、そこには不思議な光と小さな建物がたくさんありました。

私が中に入った瞬間そこに居た妖精達がぐりんっと私の方を見てきます。一瞬怖い顔をしていましたが、すぐに優しい表情になり私を歓迎し始めました。


「あら、エルフさん?」

「可愛いわね、耳触ってもいい?」

「こっちに座って、今食べ物持ってきてあげる」


「その、私はもう…」


「「「いいから!」」」


「はい…」


妖精達の気迫に負けて言われるがままに、なぜかある人間サイズの椅子に座らされました。

今すぐにでも帰りたいです…


私が座ると、妖精達は次々と果物やお肉を私に運んできます。


「さあ、食べて、美味しいわよ」


「あ、お肉はちょっと…」


「あらそうなの?じゃあ、果物はいかが?」


「えっと、この果物は嫌いで…」


「あら、好き嫌いが多いわね」


「ごめんなさい…」


そのまま妖精が運んでくる食べ物を選り分けながら食べて、食べて、食べ続けたのですが…、一向にそれは止まる気配が無く「このままでは…」と思った私は、賭けに出ることにしました。


「皆さん」


「なあに?」

「どうしたのエルフちゃん?」

「なになに?」


「私のいう事をよく聞いてください…」


そして私は詠唱を始めました。


「月の妖精達よ、今ここに現れ、この者達を眠らしたまえ」


すると私の周りにいた妖精は次々とその光を失いながら地面へと落ちていきました。

そして私は茂みを抜けてこれでもかというほどの魚の影を走りながら後ろに召喚し、その場から急いで逃げました。


森を抜けると、すっかり雨は止んでいました。私は思わずそこに座り込み、腕を広げて横になってしまいました。


「はあ…はあ…、危ないところでした…」


魔物である妖精は先程のように人を巣へと誘い込み、獲物に食べ物を与え、その中に麻痺効果や睡眠効果のあるものを混ぜて、それを少しずつバレないように食べさせ、状態異常になったところを襲う知らない人だと厄介な魔物です、気性も荒く、少しでも機嫌が悪くなると襲ってきます。今回は気を損ねないように立ち振る舞ったのが良かったのか、無事に生き残れました。


「もう…妖精には、ついていきません…」


私は汗を拭きながら森から離れました。

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