第7話 火山とドワーフと青い炎
息をする度に肺が焼けるように熱い、今すぐに氷水にでも飛び込みたい、そんな気分で私は火山地帯ゲゲレオを歩いていました。
この辺りにドワーフの方々の集落があると前の宿で聞いたからです、しかしどれだけ歩こうが集落どころか家すら見えません、周りに見えるのは岩と珍しいだけの青い炎だけです。本当にあるんでしょうか、まさか騙されたんじゃと思うこともありましたが、諦めず私は歩みを続けました。
心が折れ、立ち尽くすこともあり、その度に周りに見える青い炎を見て、何をやっているんだろうと思ったりしていました。そんな時、後ろからガラガラと音が聞こえ、馬車が近づいてきました。馬車は私の前で止まり、男性が私に声をかけました。
「嬢ちゃん!こんなとこで何やってるんだ、干からびちまうぞ」
私はその時助かったと心から思い、馬車へと縋りつきました。
「あの、この辺りに、ある、はあ…、ドワーフさんの集落を探してて…」
すると彼は私を片手で軽々と持ち上げ、自分の横に私を座らせました。
鍛え上げられた太い腕、小さな身長、そして立派な髭、そう彼はドワーフでした。
「そりゃよかった!ちょうど今帰ってる途中だったんだ!乗せてってやるよ!命拾いしたな、嬢ちゃん!」
「あ…ありがとうございます」
声が大きい…、頭へとビリビリと響くその声は、とても熱がこもっているように感じました。しばらく馬車に揺られ、私がはあはあと息を切らしていると、彼が私に竹製の水筒を差し出してくれました。
「いいんですか?」
「あと少しで家だからな、全部飲んじまっていいぞ」
私は彼に感謝を述べて、水を一気に飲み干しました。
「ぷはぁ、生き返る気分です!」
「それはよかった、ところで嬢ちゃん、なんでこんな辺境のドワーフの集落に用があるんだ?、とても武器やら鉱石目当てってわけには見えねぇが…」
彼はそう私に質問をして、干し肉を噛みちぎりました。
「人探しです」
「人探し?まさかこんな所に居るとは思えねぇがな」
そう言って彼は、干し肉をもぐもぐと咀嚼しながら馬に鞭を打ちました。
「誰を探してるんだ」
「え?いや、その…」
私が戸惑うと、彼は気まずそうな顔をしました。
「いや、言いたくないならいいけどよ…」
「その…、私の師匠です…」
きっと彼は私が答えるとは思わなかったのでしょう、とても拍子抜けした顔をしていたのを覚えています。すると彼はまた髭を撫で、フーンと息を吐きました。
「ところで嬢ちゃん名前は」
「あ、マチです」
「マチか、俺はカボイだ、まあ、見つかるといいな」
そう言ってカボイさんは頭をポリポリと掻きました。
〜
「ほら、見えてきたぞ」
「あれが、集落…」
それは集落というより岩の塊でできた砦のように私は見えました。
岩で出来た門を通り、そのまま私達は厩舎へと向かいました。
「ここで荷を下ろして俺の仕事は終わりだ、あとは嬢ちゃんの好きな所にいきな」
「はい!ありがとうございました」
「おう、元気でな、ここは広いから迷子になるんじゃないぞ」
そして私はカボイさんに手を振り、集落の奥へと入ってきました。
ここの家は大きな岩をくり抜き入り口に目隠しで布を掛けてあるだけでした。暑い地域なので風通しを良くするための工夫でしょうか、防犯面が気になります。
しばらく歩きましたが一向にこの集落の奥が見えませんでした、やはりここに入る時にも思いましたが、集落というにはここは広すぎると思います。
「あ、食堂…」
数件ごとに酒屋さんがあるドワーフの集落の商店街には普通の食堂はほぼありませんでした。私はかなりの距離を歩いてお腹がかなり減っていたので、そのやっと見つけた食堂で食事をすることにしました。
中に入ると、ガヤガヤとドワーフの方々の喋り声が響いていて、想像より人が多く、どこに座ればと狼狽えていると店員さんらしき人が声をかけきました。
「いらっしゃい!あら、旅人さんかい!珍しいねぇ、飯かい?酒かい?」
その人の声もビリビリ鼓膜をカボイさんのように揺らしました。
私は耳を塞ぐのは失礼だと思い、我慢しながらご飯を食べにきたと伝えました。
「了解!席に案内するからおいで!」
そう言って店員さんはついてこいと手でジェスチャーをして早足で歩き始めました、私は小走りで店員さんを追いかけました。
「ここにどうぞ!今メニュー持ってくるから待ってて」
私は指定された席に座りメニューが来るのを待っていると、隣から大きな声で話しかけられました。
「ほー!、こりゃぁ珍しい!、エルフの旅人さんかい!」
急に耳元で大きな声で言われたので、耳がキーンとしていました。
耳を押さえながら声のした方を見ると、顔を真っ赤にしたドワーフさんが笑いながら私の方を見ていました。
「エルフの耳だ!ちょっと触らせてくれよ!」
「や、やめてください」
そう言って私の耳を無理やり触ろうとする彼の手が触れようとした時、バシッという音と共に怒号が響きました。
「アンタ!そうやってせっかくの旅人さんにちょっかいかけて!ここが嫌な思い出になったらどうするんだい!」
その音は店員さんが酔っ払いのドワーフさんの手を叩いたでした。その時私には彼女が神様のように見えました。
「まったく」と小さく呟くと彼女は私にメニューを差し出しました。
「いやー、すまなかったね、ここの男どもは本当に礼儀ってもんがなくて」
「いえ、全然大丈夫です、助けていただきありがとうござます」
ニコッと笑う彼女からメニューを受け取り、私がメニューを選んでいる間も彼女は私のテーブルの近くに立ってくれてました。
「じゃあこれで」
「はいよ!すぐ作るから待ってな」
そう言って彼女はカウンターの中へと入っていきました。
〜
「はいオムライス!」
「あ!ありがとうございます」
デミグラスソースのかけられた半熟のオムライスが私の前に運ばれてきました。
スプーンで半熟の卵を割ると、中にはケチャップライスではなくガーリックライスで、デミグラスソースと合わせて食べると、いつの間にか食べ終わっていました。
席を立ってお会計のためにカウンターへ向かいます。
「あら、随分早かったね!おいしかったかい?」
「はい!とても絶品でした!」
「そりゃぁよかった!」
「あの、それでお会計を…」
「ああ、えーっと1シルバーでいいよ!」
「え!随分安いんですね」
そう言って私はカバンの中に手を入れた時、青ざめました。
「さ…財布が…ない!」
すると店員さんも驚きの表情を浮かべてカウンターから身を乗り出しました。
「なんだって!ほら、もっと奥の方を…」
「いえ、ないです…」
「まさかあんた!、どっかで落としたんじゃ!」
「かもしれないです…」
「探してきな!」
「え、でもお会計が…」
「どっちみち、財布がねえと金も払えんだろ」
「そうですね…」
私は肩を落とし落ち込みました、すると彼女が息を大きく吸い始め叫びました。
「男ども!この…えーっと名前なんだっけ」
「マチです」
「このマチちゃんが財布どっかで落としたってよ」
すると、さっきまでお酒を飲んで騒いでいた彼らは次々と私に詰め寄りました。
「そりゃー大変だ」
「どこで落とした?心当たりは?」
「かわいそうに、肉食うか?」
「エルフだ、珍しい」
「マチちゃんが通った道を探せばあるんじゃ…」
「今日の風向きはこっちだからきっと…」
「肉食うか?」
「えっ、えっ、」
私が驚いていると、彼女が私の肩を叩きました。
「ここの奴らはおせっかいな奴らばっかりだからな、多分見つかるよ」
その後、私が使ったテーブルや、通った道やその道にあるお店などを隅々まで探しましたが見つかりませんでした。
いつの間にか食堂にいた人以外もわらわらとたくさん増えていて、一緒に探してくれていました。
もう探す場所がなく、みんなで途方に暮れていると見覚えのある人が私に声をかけてくれました。
「よう嬢ちゃん、探し物してるんだってな」
「カボイさん!そうなんです、財布を無くしてしまって」
「これだろ?」
そう言って彼は、私の財布を差し出しました。
「あ!私の財布!」
「やっぱり嬢ちゃんのだったか、いや厩舎に落ちててな、それで探してたんだが、気づいたら夕方になっちまった」
「ありがとうございます!」
「いいってことよ」
その後私は食堂へ戻り、オムライス代を払って、近くの商店で食料や水を買い、そのままここで一泊していきました。
〜
次の日の朝、私はカボイさんが「街に行くなら乗っていけ」というのでそれに甘えることにしました。
「忘れ物はねえな?」
「はい、ないです」
「それじゃあ行くぞ」
ガラガラと馬車が動き始め、集落の人たちに「気をつけてねー」と言われながら、ここから出発しました。
しばらく走ると、カボイさんが口を開きました。
「嬢ちゃん、一つお願いしてもいいか」
「なんですか?」
「もしその、師匠ってやつを見つけたら、ここに連れてきてくれねえか、こんな小さな嬢ちゃん一人にして、心配かけて何やってんだって、ぶん殴ってやりてえんだ」
笑いながらカボイさんは相変わらず大きな声でビリビリと響く声でしたが、どこかあったかくて、優しい声に感じました。
「いいですよ」
私が笑いながらそう言うと、彼は「約束だぞ!」と言い、馬に鞭を打ちました。
「私も一つお願いいいですか」
「ん?なんだ」
そして私はカバンから一つの魔鉱石を取り出しました。
「数年前友人から頂いたものなんですが、これで私にナイフを作って欲しいんです」
「いきなりだな」
「あなたもいきなりじゃないですか」
笑って私が悪態をつくと、私の手から魔鉱石を取りました。
「なんだこれ…」
「何か変ですか?作れませんか?」
「いや、変どころか、とんでもねえ純度だ…、こりゃあすげぇ魔剣が作れるぞ…」
「そうなんですか!よかったです」
するとカボイさんが見たことのない真剣な顔で私の方向きました。
「本当にいいのか、こんなもの、俺なんかに預けて…」
「あなたはいい人そうなのでいいです」
すると彼は驚いたあと、笑い始めました。
「はっはっは、そりゃぁ随分信用されたもんだな、よし嬢ちゃん、最高の物作っといてやるから、絶対にまたあそこにこいよ」
「ええ、楽しみにしてます」
次ここに来るのはいつになることやら、数年、数十年、数百年。
おそらく寿命が尽きるまでこの人は待ってくれるでしょう、いい人なので。
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