第5話 結晶の洞窟

とある切り立った山岳の麓に、綺麗な魔鉄鋼の結晶がはみ出ている洞窟を見つけました。まだ日が落ちるまで時間があり、何かお金になるものはないかと思ったので、少し覗いていこうと思いました。


中に入ろうと洞窟の入り口に手をかけると、触れた場所から結晶が青く光り始めました。


「わあ、綺麗…」


そんな言葉を思わずこぼしてしまうほど、それは綺麗でした。私の魔力に反応したのでしょうか?、私には専門知識がないのでわかりません。


「あ、ランタンつけなきゃ」


私はランタンに火をつけ、中へと一歩踏み出しました。

洞窟の中はキラキラと様々な色で光っており、ランタンの火がなくても歩けるほどだったので、私はランタンの火を消してみることにしました。

ランタンの火を消すと洞窟の光はホワホワと優しく光り輝き、より綺麗に見えました。

そのまま、私は息を飲むようなその光景にうっとりしながらどんどん進んで行きました。そうやって奥に進むにつれて、結晶の量はどんどん増えていき、だんだん光の量も増え、ギラギラとしていました。


「ん?何か聞こえる」


カーンカーンと微かに小さな音がどこからか聞こえます。

私はその音のする方へと、アリの巣のような洞窟を進んで行きました。

その音が大きく聞こえる頃、分かれ道がありました。私は聞き耳を立てて、よく聞いて、こっちだ!、と進みましたが、進んだ方は行き止まりでした。


もう片方の道を進んでいくと少し開けたところにでました、そこは床も天井も壁も大量の結晶で埋め尽くされていました、そして、その中央に私の背丈ほどの大きさの結晶があり、ランタンを地面に置いてその結晶を一生懸命ツルハシで叩く人物がいました。炭鉱夫の方でしょうか、いやしかし、炭鉱夫というより街の鍛冶屋さんのような格好です。私がその人に話しかけようとした時、ぴたりと手をとめ振り向き、私の方を見ました。


「なんか明るいと思ったらあんたか、光るって事は魔術師さんかい?」


そう言って、茶色い髪を束ねた彼は、額の汗を拭いて、私に笑いかけました。


「あ、そうです、魔術師のマチと申します」


「そうかい、マチさんか、あんたはここで何を?」


「旅の途中でたまたまここの洞窟を見つけて、入り口の魔鉄鋼の結晶に触れたら光って綺麗だったので、なんとなく入って見た次第です」


「そうかそうか、あ、自己紹介がまだだったな、俺はナニス、ここから結構離れたデンゾルって街があってな、そこで鍛冶屋をやっている、今はお偉いさんの依頼で魔鉄鋼を練り込んだ魔剣を作れって言われたんだが、材料も用意してくれねえから、こうして自分で採取に来たってわけだ」


「それは、大変ですね…」


やはりこの方、鍛冶屋さんだったんですね。

ナニスさんはそう言い終えると、ツルハシを持ち採掘を再開しました。

しばらく少し離れたところに座って、彼が採掘をしてる様子を眺めていると、彼が作業をしながら話しかけてきました。


「あんた便利だな」


「?」


急にそう言われ私は思わず首を傾げました、すると彼が続けて話します。


「いや、魔術師だから光るからよ、ランタンいらずだ」


確かに、彼はいつの間にかランタンの火を消していました。

彼がいうのに続いて私は気になっていたことを尋ねました。


「これ、なんで光るんですか?」


「なんだお前、魔術師なのに知らないのか」


失礼な。


「知らないです」


「そうか、じゃあ教えてやろう」


彼がそう言った後、大きく振りかぶり、一つの結晶のかけらを拾い、私の方へと寄ってきました。


「ほらこれ、俺が持っても光らねえだろ」


「そうですね」


「次はお前が持ってみろ」


「え、はい」


そう言って、私の両手が埋まるほどのかけらを受け取ると、それは煌々と光り始めました。


「すごい、壁や床のものより光る…」


「そりゃあそうだ、今はあんたが直接触れて、それに直接魔力を注いでいるからな、魔鉄鋼は魔力に触れると光るんだ、それに種類によって光る色も変わるんだ、ほらここらカラフルだろ?」


「そうだったんですか、魔鉄鋼にあまり触れた事はなかったので、知りませんでした」


「はっはっ、そうだったのか、ちなみにな、ウリチム鋼は白で、ブリムン鋼は黄緑、それでそれで…」


そして彼の話が続きました、要するに、鉱石がいろいろあって、それによって光る種類も多いとの事です、混ぜればより濃くなったり、薄くなったり。そして私の周りにある結晶がなぜ手に持った時より明るさが落ちるのかにつても教えてくれまして、服を通して魔力の伝導率が落ちてるんじゃないかとのことでした。

彼の話を聞いていて少し眠くなってきた頃、私は帰りの道を覚えていないことに気づきました。私は焦って彼に帰り道を聞きました


「あ?帰り道?わかるぞ」


「そうすか、よかったです…」


私はほっと胸を撫で下ろし安心しましたが、次の彼の言葉で私は驚愕しました。


「そこらへんにいる宝虫が少ない方へ進めば出れるぞ、こいつら外には出ないから」


「へ?」


それは頭を殴られたような衝撃でした、宝虫といえば、ダンジョンなどの宝箱に金貨や宝石などに擬態して冒険者を襲う魔物のことです、危険度で言えばかなり危険な方に入ります、しかもそれが今私たちの周りにいるなんて。


「し、死にますよ、今すぐここから出ないと!」


そう言って逃げようとする私の腕を掴んで彼は話し始めました。


「大丈夫だってここの虫はここの魔鉄鉱を食って成長しているだけだから、ほら、俺だって襲われてないだろ」


確かにそうです、ですが冷静になればなるほど不思議で頭がいっぱいでした。

すると彼は今までツルハシを振るっていた大きな結晶を少し押しました、すると根本から、カサカサと大きな虫の足が出てきたのです。


「な?すごいだろ、こいつら魔鉄鋼をずっと食ってるからなのか、純度がすごい高かくなるんだ」


「え、いや、それより…」


そんなことより、カサカサとその足を見て鳥肌が立っていました、そんな私に彼は、壁から一つの宝石虫を取ると、細い蠢く裏側を見せてきました。


「きゃー!何してるんですか!やめてください!そんなもの見せないでください!」


「あ、ごめんな、虫苦手だったか…」


そういうと彼はその手に持っていた虫を後ろにぽいっと投げ捨てました。


そして彼は掘り出した結晶をカゴにいれ、それを背負い、ツルハシを手に持ち、私の方を見ました。


「いや、すまんかったな、俺についてこれば帰れるからこいよ」


そう言って少し気まずそうな表情で、私を案内してくれました。分かれ道になるたびに、周りの宝虫を手に取り確認するのですが、本当によく触れるなと思います。


久々の外の空気です、空気がおいしく、とても明るく感じます。

私が深呼吸をしてると、後ろからナニスさんが私の肩を叩きました。

振り向くと彼はまだ、気まずそうな顔をしています。


「これ、さっきは悪かった、受け取ってくれないか」


「え、これって」


そう言って彼は魔鉄鋼の結晶の欠片を一つ差し出していました。

こんな、貴重なもの受け取れない、そのことを伝えました。


「受け取って欲しいんだ、せっかく友達になれたのに、仲直りしてから、どうせなら別れたい」


そう言う彼の手から、私はそれを受け取りました、それをカバンにしまっていると、彼は「それじゃあ」と言ってトボトボと帰ろうとしました。

その姿を見て私は思わず大きな声を出してしまいました。


「いつかまた!絶対会いましょう!」


そう私が叫ぶと、ナニスさんが振り返りました、その顔にはもう暗い表情はなく、こぼれそうな笑顔でした。するとナニスさんは手を振りながら叫びました。


「ああ!女同士の約束だ!」


「はい!女同士の…って、ナニスさん!女性だったんですか?!」


驚きのあまり、私は思わず駆け寄ってしまいました。


「マチ!あんたまさか俺のこと男だと思ってたのか!」


「ごめんなさい!」


そう言って、私たちは笑い、少しナニスさんに小突かれ、ナニスさんの街への道の途中まで一緒に行きました。別れ際にまた絶対どこかで会おうと改めて約束をして、私たちは別々の道へと進みました。

後ろを振り向くと、同じタイミングで振り向いたナニスさんと目が合い、お互い手を振って、また前を向いて、歩き始めました。

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