第4話 廃村にはならない村

森を抜けると広い丘に出ました、そこにはいくつもの建物があり、奥に麓から見えたであろう大きな風車が見えます。看板がありますが、ボロボロになっており、村の名前はわかりませんでした。

村の中に入ると、不思議なことがありました、一つは人の気配が全くしません、もう一つは、民家の物干しの横に十字架があるです、少し気になりましたが、無視して先に進むことにしました。

しばらく進むと噴水の広場のような場所に出ました、そこには、噴水を囲むように十字架がまたありました、それと、周りにあるベンチにも十字架が立てられていました、一体なんでしょうかこれは、宗教などで、家の上に十字架を立てる地域や、十字架を身につける風習は聞いたことがありますがこれは聞いたことがありません。不思議に思い奥へと進むとお店がありました、元々ここへ寄った理由は食料品の買い出しだったので一応お店へ入ってみました。


「こんにちわ…」


カランカランと乾いたベルの音が薄暗い店内の中に響き渡りました、やはり、中には人はおらず、ただ陳列棚に綺麗に商品が並べられているだけでした。その中のジャムの便を手に取り開けて見ると、中身は腐っていました。他の商品も同様に調べましたが、全て腐っていましたが、陳列棚には埃が一つもなく、不気味に感じました。


お店を出て、私はさらに奥へと向かうと大きな風車小屋が建っていました、そしてその下に不気味なほどに大量の大小様々な十字架がありました。その光景に異様な感覚を覚えたので私は足早にその場所を離れました。


風車小屋から離れ、噴水の広場に出た頃にはすっかり日が落ちていたので、私はここで一晩泊まることにしました。幸いなことにここは廃村のようですので、宿泊費はタダです。


手頃な家を見つけ、一応ノックしましたが、当然返事はありませんでした。一晩だけ使わせてもらうことにしましょう。キッチンやソファ、テーブルや机、家具がしっかりありますが、やはり埃はなく、どこか不気味です。


体を拭いて、顔を洗い、歯を磨いて、ふかふかのベッドに入り毛布を被りました、

一応ランタンもつけたままにして寝ます、怖いわけではないです、一応です。


ウトウトとし始めた頃、外から、ざっざっと誰かが歩く音が聞こえました。

私はすぐ体を起こし、ランタンの火を消して、扉に目を向けました。

足音が私がいる家の扉の前で止まると、ゆっくりと扉が開き、隙間から光が漏れていました。私はその光景を見ながら心臓が爆発してしまいそうなほどバクバクしていました。


「誰かいるんかー」


その声と共に立派な髭を蓄えた細身の男性が中に入ってきました。私は彼を見て思わず声を荒げてしまいました。


「きゃー!誰ですか!」


するとその男性は目をまん丸にして私の方を指差さしました。


「お前こそ誰だ!ここはメニ婆さんの家だぞ!ベッドから出ろ!」


私はここで、今一番の不審者は私だと悠長に考えながら、彼にベッドから摘み出され、そのまま家の外に出されそうになりました。


「待ってください!私はマチです!麓からここが見えて!食料品を買い足そうと思って寄ったのですが、廃村だと思って…」


私が焦りながら喋ると鬼のような顔をした彼から優しい顔へと変わりました。


「なんだそうだったのか」


彼はそう言って中に戻り、私をソファに座らせ、私の前に座り、話し始めました。


「廃村じゃない」


「え?」


急にそう言われ先程のこともあり、脳みその処理が追いつきませんでした。


「ここは廃村じゃない、まだ俺がいる」


「あ、これは失礼しました、申し訳ありません」


「ああ、別にいい、責めた訳じゃない、ただ訂正したかっただけだ」


「そうですか…」


なんだか少し不機嫌にさせてしまいました。どうしましょう…


しばらくピリつく空気で沈黙が続きましたが、彼がその沈黙を壊しました。


「俺はボレグ、風車小屋に住んでいてこの村をの管理をずっとしている、話しを聞かないで手荒な真似をしてすまなかった…」


「いえ、私こそ勝手に入ってしまし申し訳ありません、あ、私はマチです、旅をしていて、食料品を買うためにここにきました、管理をしているということは、村長さんなんですか?」


私がそう尋ねると、彼は大笑いし、ヒイヒイと涙目になっています。私、何か面白いこと言ったでしょうか…


「はっはっは、俺がアイツみたいにってか、いやぁ久しぶりに笑ったよ、別にそんなに話す気はなかったんだが、笑わせてもらったお礼に特別に話してやろう」


「あ、ありがとうございます」


そして彼は、村長のこと以外にボレグさんの奥さんのことやお子さんのこと、村のことをたくさん話してくれました。しばらくして彼の話が切れた時、私は一番気になっていたことを聞きました。


「あの、そこらにある十字架ってなんですか」


「ああ、あれは人だよ」


「人…」


「そう、人、その人間が一番居た場所に立てるんだ、メニ婆さんは料理が好きだから、キッチンにあるぞ」


「えっ!」


私が驚き振り向くと、またボルグさんはヒイヒイと笑いながら涙を浮かべています。笑い終わると彼は急に立ち上がり家の入り口の方へと向かって行きました。


「ちょっと待ってな」


そう言って彼は出て行きました。


袋を持って彼が戻ってきたのは私がソファに座ったままうつらうつらとしている時でした。


「よおし、マチ、これを持ってけ、元々これが目的だろ」


ほぼ寝ていた私は投げつけられた袋で、驚くと、また彼は笑いました。

笑い終わると、「今日はもう寝る、じゃあな」と言って、手をひらひらとさせながら、去って行きました。せめてお礼をと思いましたが、彼は風車小屋にいるので、明日の朝にでも言いにいけばいいでしょう。さて、私も寝ることにしましょう。

ベッドに入り毛布を被った時、彼の言葉を思い出してしまいました、そう、キッチンの十字架です。気になった私はそろりそろりとキッチンに向かいました、ゆっくりとキッチンを覗くと、十字架はありませんでした。壁を一発殴り、騙された複雑な気持ちのまま、ゆっくりと毛布をかぶりました。


私は朝早くに部屋の掃除をし、家に向かってお礼をしてから風車小屋に向かいました。通る道で見える十字架は昨日と違って見えて、賑やかな村だったんだなと思いました。


風車小屋に着き、大量の十字架を改めて見ると、ここだけどうしても禍々しく見えて仕方がありませんでした。まあそんなことはさておき、私はその十字架の大群を避けて風車小屋に近づきました。そして扉を叩いて声をかけました。


「ボルグさーん、おはようございます、マチです」


少しドキドキしながら待っていましたが、全く出てくる気配がありません、まさか何かあったんじゃ、私はそう思いさらに扉を叩きます。


「ボルグさん!大丈夫ですか!」


返事はありません。

私は意を決して扉を開けました。中からむわっとカビ臭い匂いがします、中には作業台がありその上に作りかけ十字架がありました、そしてその左側にベッドがあり、毛布に膨らみがあります、もしものことを考えながら私は毛布をめくりました。


そこには、ボルグさんが身につけていた服を着た骸骨がありました。


〜〜


穴を掘るのはいつ以来でしょうか、ずいぶん疲れたのでここでまた泊まって行きたいのですが、彼の仕事を増やすわけにはいけません。私製十字架を風車小屋に立てましたがやはり彼が作ったものからすればかなり見劣りしますね。


「ありがとうございました」


私は振り返り、この決して廃村にならない村から発ちました。

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