第2話 聞こえた足音は、誰かの合図

 その頃、コレットと別れたノニアは暇を持て余し町へと続く広く整備された道を歩いていた。時々顔見知りの人と出会い、会話をしたりしながら、夕御飯までどうしようかと思っていた時、ノニアの後ろからバタバタと忙しく駆け寄る足音が聞こえてきた

「ノニア!」

 大声で名前を呼ばれ、声がする方に振り向くと、コレットと同じグループの一人がノニアに向かって走ってきた

「あれ?クリスタ、どうしたの?練習は?」

「なあ、コレットを見なかったか?」

 ノニアの側に来るなり息を切らして問いかけると、付近にいる人達が何事かとノニアとクリスタに視線を向けている

「コレットならさっきまで薪割りをしてて、薪を持って、どこかに行ったけど」

「今すぐ呼び戻してくれ!一秒でも早く!」

 ノニアの肩をつかみ大きく揺らしなから叫ぶクリスタ。グラグラ揺らされ答えれないノニアが、クリスタの腕をバンバンと叩き、やっと揺れが止まった

「なんで急にコレットを?それに、コレットはどこに行ったか分かんないし……」

「日が暮れる前に、コレットと学園に行かないと行けないんだ!そうじゃないと、明日の試験に受けれないんだよ!」

 グイッとノニアの顔に近づきながら言うクリスタに、ノニアが不思議そうに首をかしげた

「えっ?そんなのあったっけ?」

「さっき先生に言われてさ……。どうやら、ずっとコレットのことを見てたみたいで、今すぐコレットと一緒に学園に来ること、明日もちゃんと参加させて試験に受けないと不合格って言われたんだ!だから……」

 騒がしい声が段々と小さくなり顔もうつ向いていくクリスタを見てノニアが呆れたように、はぁ。とため息をついた

「自業自得だろ。それに本当にどこに行ったか知らないから自分で探しなよ」

 そう言うと、クリスタを残しまた歩き始めたノニア。その後ろではクリスタが苛立ったように地団駄を踏んでいた



「はぁ、コレットも気高き人達は大変だねぇ……」

 クリスタと別れた少し後、また一人宛もなく歩き続け町から少し離れた場所に来たノニア。続く道の先に小さく建物が見えて、思わず足を止めはぁ。とため息をついた

「あれ?あの人達は……」

 少し離れた森の中から突然現れた見知らぬ男性が数名現れ、何やら喧嘩腰に言い争いをしている。うまく言葉が聞き取れず、恐る恐る男性達に近づいていく

「あのー、何しているんですか?」

 ノニアの声に男性達が一斉に振り向く。ビクッと一瞬後退りしたノニアに、困った顔で話しかけるが、話す言葉が分からずノニアも困った顔で首をかしげる。すると、男性達が時折ノニアを見たりしながら話しはじめ、しばらくするとノニアも分かる言葉で話しはじめた

「あの薪を運ぶように言われたんだか、どこに持っていくか迷ってしまってね」

「えーと、薪……ですか?」

 男性達もノニアも辿々しく話していると、男性の一人が来た森の方を指差した。ノニアがその指差した方を見ると、大量の薪が乱雑に置かれていた。ノニアがその薪のある場所に行くと、見覚えのある薪の切り口を見つけた

「あれ?これってコレットの薪?」

「ああ、薪を持ってたあの子は、そんな名前だったな」

 薪を見つめ不思議そうなノニアの言葉に男性がそう答えるとノニアが斜めに切れている薪を一つ取り、また首をかしげた

「なんでコレットの薪を?」

「まあ色々訳ありだ。それで、この薪どこに持っていけばいい?」

「……はぁ」

 男性の言い方に納得がいかないノニアが不満そうにため息をつきながら森を抜け、歩いていた道に出ると道の先に小さく見える建物の方を指差した

「薪ならあの先にあるコレットの家に運んだらいいと思いますけど……」

「分かるか?」

「ええ、まぁ……」

「教えてくれ。運ばないと置いていかれるんだ」

「はぁ、まあ構いませんけど……」

 あまり乗り気がないまま返事をすると、薪を持ったまま歩き始めたノニア。その後ろを男性達が周辺に薪を浮かべ後を追いかける


「ところで君、名前は?」

 歩き始めてしばらくした頃、男性がノニアに話しかけた。少し後ろを振り返り面倒臭そうに答えた

「ノニアですけど、なにか……」

「いや……。ただ後でクローネ様に報告せねばならないからな」

「クローネ?」

 と、ノニアが首をかしげながら呟くと、後ろからガシッと立ち止まるような足音が聞こえ振り向くと、男性達がノニアを見ながら、ため息混じりに話をしていた

「この村の人は、クローネ様を知らない無礼な者しかいないのか?」

「さっきの子も教養のなさそうだったからな、仕方ないだろう」

 と、ノニアにも聞こえるような声で話し、それを聞いたノニアがムッと少し怒った顔で男性達に話しかけた

「さっきの子って、コレットのこと?」

「ああ、そうだが?」

 呆れた様子で返事をする男性に、ノニアがまたムッとした顔で少し声を荒らげ叫んだ

「コレットはああ見えて、この街の学園でそこそこ優秀な方だ。僕よりも教養はある」

「いや……。クローネ様を知らないのなら、それはないな」

 そう言いながら、男性達は呆れたような顔や鼻で笑った顔でノニアを見た

「そこまで言う、そのクローネ様って誰なんだよ」

「クローネ様はだな……」

 グイッとノニアの顔に近寄りながらクローネの事を話そうとした時、近くからガシッと足を踏ん張る音が聞こえ、全員がその音の方に振り向くと、うなだれ歩くクリスタがいた

「ノニア……」

 か細い声で呟きながらノニアの隣に来ると、はぁ。と深いため息をついた

「コレット見つけたの?」

「いや、もうダメだって。全員留年だってさ」

 ノニアに言いながら更にテンションが下がり肩を丸めるクリスタ。その様子に男性達も少し困った顔で二人の話を聞いている

「じゃあコレットも留年するの?」

「いや、コレットだけは後日追試するって……」

「そっか、まあ君達は仕方ないね」

 ノニアの返事にクリスタがムッと怒った顔で睨むが何も言い返せず顔を背けた


「それよりコレットは見つけた?」

「コレットは……」

 クリスタの問いかけを聞いてノニアが男性達の方を見ると、男性達が顔を見合わせ、ふぅ。と一つため息をついてクリスタを見た

「その娘は、クローネ様とモノグロフ城に向かった。しばらくは帰って来れないな。残念だが、追試は中止だな」

「ええっ!コレットがクローネ様とモノグロフ城に行った?」

 男性の言葉を聞いて食いぎみに大声で言うクリスタ。その声に驚いたノニアが少し後退りをした

「凄い。存在しているんだ……」

 嬉しそうな顔で体を震わせ呟くクリスタに、やっとクローネを知っている人物に会えて男性達が少しホッと安堵した表情をしている

「知ってるの?そのクローネ様とか、そのなんとか城とか……」

「もちろんっていうか、つい最近学園の授業で習っただろ?」

「あれ?そうだっけ?」

 クリスタの返事にエヘヘ笑って誤魔化すノニア。その様子にクリスタだけでなく男性達も呆れた顔をしている

「それで、その人とその何とか城って何なの?」

「それはなー」

 と、クリスタがノニアに近寄りながら説明をしようとしたその時、ゴホンとわざとらしい咳が聞こえて、ノニアとクリスタの会話が止まり、咳が聞こえた方を見ると、男性達が歩いていた方へと歩き始めていた

「すまないが、お喋りは歩きながらにしてくれないか。我々としても早くクローネ様の元へ行かないと行けないからな」

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