見習い魔術師コレットの奮闘記

シャオえる

第1話 その日、運命の分かれ道

 チュンチュンと小鳥の声が聞こえる森の中でゴトンと木を切る音が響く。音のする場所で、小柄な女の子が体に似合わず大きな斧で冬支度のための薪を作っていた。無言でひたすら木を切る女の子の後ろから駆け足で男の子が一人近づいてきた

「おい!コレット!」

 大声で名前を呼ばれ薪を割る手を止め、少し赤みがかった短い髪の毛をなびかせつつ、声がする方に振り向くと、最近コレットよりも背が高くなった同い年の男の子、ノニアが息を切らしてコレットの側に来ると、ドスンと斧を地面に突き刺し不機嫌そうにコレットが返事をした

「……なに?」

「お前一人で何してんだ?」

「何って、薪割りだけど……」

 と、コレットの周りに散らばった割った薪に目線を向ける。数時間で割ったとは思えない程、無造作に置かれた薪の量にノニアが呆れた顔で側に落ちていた薪を一つ取った

「今日、進級試験練習がてらにグループのみんなと狩りに行くんじゃなかったのか?」

「先に行かれた。もう会う気もないから今回の進級は諦めた」

 そう言うと、斧を持ち薪を割り始めたコレット。ガコンと一発で真ん中を打ち抜き薪が綺麗に二つに割れた

「諦めたって言っても、明日はグループ全体での進級試験だろ?お前も行かないと、試験に響くだろ?」

「そんなことないよ。どうせ狩りに参加もさて貰えないだろうし」

「そんなこと……」

「グループになってから一度も魔法なんて使ってないし」

 ノニアの言葉を遮るように、少し言葉強めに言い返すと、力強く振り上げ下ろした斧が少し強めに薪に当たり、少し中心から外れて斜めに薪が割れた

「はぁ?もう大分立つだろう?なのに一度もか?」

「そ。割り込みされるんだよね。全員、クスクス笑ってさ。それでもちゃんと進級試験受けれるのなら私はいらないよね」

 また言葉強めにノニアに言い返すと、最後の一つの薪を割った。ガコンと音をたてコレットの足元に落ちた薪が、突然ふわりと浮かびだし、あちらこちらに散らばっていた沢山の薪もコレットの周りにふわふわと浮かんで集まりだした

「てなわけで、私はもう行くけど」

「ああ……。じゃあ明日は……」

「私一人だけ留年かなー」

 そう笑って答えるコレットに、ノニアが険しい顔でコレットに一歩近づいた

「あいつら……。今度、言いつけておこうか?」

「いいよ、私のグループの皆さん、主席での卒業を狙う気高き方々ですからねぇ、問題を起こすと後々面倒ですから」

 イラついた声で話すノニアに、コレットが淡々と返事をするとノニアの顔を見ることなく浮かんだ大量の薪と一緒にスタスタと歩き始めた。段々とコレットの姿が遠くなっていくのをノニアが呼び止めるが、コレットは振り返ることはなく、あっという間に姿が見えなくなった



「おや、クローネ様。どうかなさいましたか?」

 コレットがノニアと話している場所から少し離れた森の中の獣道では、木々の間から眩しい日差しが差し込む中、黒く長いローブを着た数名の大人達がぞろぞろと一列に並んで歩いていた

「声が聞こえないか?」

「声ですか?」

「ああ、甲高いうるさい声だ」

 列の一番前を歩いていたクローネと呼ばれた男性が、機嫌の悪そうな顔つきで空や周りを見渡し、後ろについて歩いていた初老の男性に問いかける。その初老の男性の後ろで並び歩いていた大人達も、その問いかけに答えようと周りを見渡し耳を傾けるが、甲高くうるさい声は聞こえないのか、全員首を横に振る

「いえ、何も……。ですが、ここの近くに小さな町があるそうなので、その住民かもしれませんね」

「町か。なら少し休息がてらに寄ってみるか」

「ええ、構いませんが……」

 急なクローネの提案で一行が目的地とは違う道を歩くことになり、クローネの後ろから少しざわつく声が聞こえ始めた




「はーあ。それにしても本当どうしよう」

 その頃、ノニアと別れ一人家路へと向かっていたコレットは、困った顔で腕を組み足取り重く歩いていた

「来年分の学費あるかなー。休みの間にノニアを誘って、どこかで薪でも売ってお金でも稼ぎに行くかな」

 そう呟くと、周りに浮かぶ薪を見て、いくらになるかと適当に思い付き、はぁ。と深いため息をついて、コレットの足取りが更に重くなった

「おいっ!止まれ!」

「えっ、なに?」

 突然どこからか大声が聞こえ驚き足を止めたコレット。浮かぶ薪の間からキョロキョロと辺りを見渡し声の主を探すが、見当たらず首をかしげまた歩こうとした時、またどこからともなく声が聞こえた

「止まれと言っている!」

 明らかにコレットに向かって言っているような叫び声に、怯えつつも歩こうとした足をゆっくりと下ろし、また辺りを見渡してみようとした時、コレットの前に、突然足まで続く黒いローブを着た見知らぬ男性が一人立っていた

「お前か。さっきの甲高いうるさい声の主は」

「……はっ?」

 ローブの中から黒く長い髪をなびかせ苛ついたような言葉で問いかけられ驚くコレットを、見つめたまま動かない男性。すると、その男性の後ろからバタバタと沢山の大人がコレットと男性の方に走ってきた

「クローネ様、どうしましたか?急に走り出して」

「声の主を見つけた。名を聞け」

 着いてすぐ息も絶え絶えで話しかける初老の男性に、また苛ついた声で聞く男性に、コレットも苛ついた様子で、クローネと呼ばれたその男性に向かって言い返した

「名前?私の名前はコレットだけど、あなた達は?」

 言葉が分からないと思っていたクローネ達は、コレットが自分達の言語を突然話し始め驚きざわめきだした

「こちらの言葉が分かるのか?」

「私が前に住んでた所は交流の町で、他国の言葉か分かるように、言語変換の術がいくつもあって、その術を覚えているから、この世界の言葉の大半は分かるの。悪い?」

 クローネの問いかけに、コレットが少しムッとしたよう感じ返事をすると、クローネが後ろにいる初老の男性の方に問いかけた

「リマス。それは本当か?」

「ええ、確かにそのような町はあると存じていますが……」

「そうか」

 リマスの返事を聞いて小声で呟きコレットを見るクローネ。すると、やっとコレットの周りに浮かぶ薪に気づいて、不思議そうに指を指した

「では、その浮かんでいる木はなんだ?」

「薪割りした木だよ。持って運ぶと面倒だからこうやって浮かせてるんだよ、これも悪い?」

 クローネの再び問いかけられ、コレットがムスッとした声で話していると、クローネの後ろでは、リマスやその部下であろう大人達が、何やらヒソヒソと話をしていた


「名をコレットと言ったな」

「そうだけど。というか、あなた達は何なんですか?それに、クローネとかいうあなた。特に失礼じゃないですか?」

 と、ぶっきらぼうにクローネに聞いてきたコレットの声を聞いたリマスの側にいた一人が、コレットに近づき大声で叫んだ

「そこの娘!本来ならば、こんな小娘ごときが気安く話しかけて良い方ではないのだぞ!口の聞き方に気を付けろ!」

 捲し立てるように言われ、驚いて一歩下がり狼狽えるコレット。すると、クローネがその男性を睨みつけ、リマスも慌てて男性を後ろに下げると、コレットに謝るように一度頭を下げた

「……ついてこい」

「は?」

 コレットを見下げながら呟いたクローネに、コレットが少し苛ついたような声で聞き返すと、先ほどコレットに叫んだ男性がまた何か言おうと険しい顔で一歩近づこうとして、周りの人やリマスに止められている

「我々についてこいと言っている」

「……なんで?」

「命令だ。案ずるな、お前を悪いようにはしない」

「偶然出会っただけな上に、お前呼ばわりするような失礼な人についていくなんて嫌ですよ。それに、この薪をどうするんですか?」

「そこらに放っておけ」

 コレットの言葉に薪を見ながら捨てるようにそう言うと、その言葉に苛ついたコレットがクローネをキッと睨む。すると、その視線に気づいたクローネが、はぁ。と一つため息をついて、後ろでまだコレットに対し騒いでいた男性を呼んだ

「代わりの者に運ばせよう。それなら良いか?」

 クローネの提案に驚きつつ不満そうな男性と同じく不満そうなコレット。男性はクローネの指示に逆らえず仕方なくコレットに運ぶ先を問いかける。薪を盗まれないかと思い、運ぶ先を言うのを躊躇うコレットにリマスが話しかけ、クローネを睨みつつも何とか納得して運ぼうとしていた場所を教え、薪を浮かべた術を解くと、大量の薪がバラバラと音をたて地面に落ちた。男性もコレットと同じように薪を浮かべて運ぼうとするが、術が上手く安定せず、ほんの少ししか浮かべ運ぶことが出来ず、追加で三名ほど手を貸し一緒に薪を運んでいった



「では、早々に出るぞ」

 薪がちゃんと届くか不安そうに見ているコレットに背後から声をかけるクローネに、コレットがムッとした顔で振り向いた

「どこに連れていく気ですか?」

「モノグロフ城だ」

「えっ、モノグロフ城?」

 コレットが驚いた表情で聞き返すと、それを聞いたクローネがフフッと笑った

「ほう、知っているのか」

「知っているも何も、この世界で最高峰の魔術師達が集まる場所と聞いてます。なんで私が?」

 と、コレットが聞き返かえすが、クローネはリマスとヒソヒソと二人で話し始め、何度かコレットを見ては話を繰り返し、しばらくするとリマスが少しため息をつくと話し終えたのか、コレットの側に来てじーっと顔を見たかと思えば、クスッと笑ってコレットに話しかけた

「リマスも納得したようだし、そろそろ行くぞ。はぐれないように、ついてこい」

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