第6話 鬼の恩返し


 座敷。二十畳ほどある和室の部屋。


 真ん中には、木彫りのテーブルがあり、座椅子が二つ。


「自己紹介がまだでしたね。私はナナコ。ライバー兼ここの社長をやっています」

 

 座椅子に足を崩して座るのは、鬼龍院みやびの中身、ナナコという女性だった。


「……ど、どうして、わたしのことを」


 今は自己紹介どころじゃない。


 身バレしてしまっていることが問題だった。


「港神社で起きた滅葬志士と鬼の全面抗争。止めたのはあなた様のはずです」


 言われて、思い出す。


 あの青い鳥居がある神社で起きた惨劇を。


 ◇◇◇


 別室。


『今より千年ほど前。帝国は骸人と呼ばれる『特定外来種』に支配されておった。そこに反旗を翻した人間。後に滅葬志士と呼ばれる隠密部隊の活躍により、骸人を掃討することができたが、その代償はでかかった』


 ツバキの口から語られるのは、知らない歴史。


 もし、本当なのであれば、口外されていい話じゃなかった。


「……何があったんです?」


『骸人との力量差を埋めるために作られた薬。鬼導丸。それが鬼を生んだ』


 待て、待て、待て、待て。


 今、とんでもないことを聞いてるんじゃないか。


「どうして、それをツバキさんが……」


 だって、その事実を知っているってことは、恐らく――。


『わらわは滅葬志士の創設メンバーの一人。鬼導丸を作り出した者じゃ』


 当事者。切っても切れない因縁の渦に巻き込まれてしまっているんだ。


 ◇◇◇


 座敷。

 

「滅葬志士は鬼になった側と鬼にならなかった側で二分されました」


「……わ、わたしは、鬼の、肩を持った」


「はい。あなた様が加担してくれなければ、私たちは葬られていたでしょう」


「で、でも、どうして、わたしだって」


「伊勢神宮ちゃんが配信する前日に出てきた人。それが、鬼に加担し、殺人罪により、死刑になったはずの私たちの英雄。千葉薊様の顔と酷似していたのです。ですから、探りを入れるため、無名のあなたとコラボをさせていただきました」

 

 納得がいく説明だった。


 死刑になった時、顔は大きく報道されたはず。


 それで、不用意に顔を見せた配信で、気付かれてしまった。


 だから、コラボできたんだ。普通では絶対に釣り合わないあんなすごい人と。


 ――でも、気付かれたのが、もし。もし。


「……」


 考えつくのは、最悪の予想。


「どうされました? 顔が真っ青ですよ?」


 勘違いかもしれない。でも。


 悪い予想をさらに巡らせようとした時。


 ――天井が軋む音がした。


「危ないっ!!」


 直感だった。体は飛び出し、ナナコを押し倒した。


「……っ!?」


 直後、天井の一部が切り取られ、現れたのは刀を持つ女性。


 長い紫髪は後ろで編まれ、目つきは鋭く、青いセーラー服を着ている。


「あぁ、心より感謝します。ここで鬼を葬れることを!!!」


 隠密部隊――滅葬志士。


 その隊員の一人が威勢よく口上を述べた。

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