第5話 鬼の都、京都
京都府内。775プロダクション事務所。
出で立ちは純和風の旅館。広い敷地。庭園。長い廊下。
時刻は昼。黒服にサングラスをかけたオールバックの男に案内されていた。
「長旅、ご苦労であった。付き人は別室で待機しておれ」
座敷前。襖越しに聞こえるのはみやびの肉声。
後ろには、ジェノと鏡のツバキも当然、同行している。
服は袴のままだった。伊勢神宮を少しでもアピールするためだ。
『あやつ、わらわとキャラかぶっとらんか?』
「ん? どっから、声が……」
ツバキの声が漏れ、勘づきかけた黒服に対し、
「気のせいですよ! それより、別室に案内してもらえますか」
ジェノはあたふたとしながら、必死で話題を変え、去っていく。
今はそんなの、どうだっていい。奥にいる人のことで頭はいっぱいだった。
「行ったようですね。ここからのことは他言無用でお願いします」
すると、聞こえてきたのは、ものすごく低姿勢な言葉。
「……え?」
思わず耳を疑った。というより、間違いなく聞き間違いだ。
鬼龍院みやびが下手に出るなんて、天地がひっくり返ってもあり得ない。
「肯定と見ます。ささっ、早く入ってください。足も痺れてきちゃったので」
天地がひっくり返っていた。
間違いない。鬼龍院みやびが下手に出ている。
(……ふへっ。足痺れてきちゃったって。絶対言わんやん)
ものすごいギャップに、笑ってしまいそうになる。
まさか、天下の鬼龍院みやびが、裏ではこんなに性格が違うなんて。
「し、失礼します」
とはいえ、まだ分からない。
緩みかけた気を引き締め、襖を開いた。
「初めまして、私たち鬼の一族を救った主――千葉薊様」
そこにいたのは、伊勢神宮ちゃんとそっくりの人物。
金髪サイドテールに赤い瞳。紅白の袴に、額には黒い角が二本ある。
加えて、語っていない名前と過去を知っている。これは長い話になりそうだった。
◇◇◇
775プロダクション事務所、別室。
六畳一間の茶の間には、ぽつんと一人の少年が座る。
『鬼という存在をお主は知っておるか?』
人がいないことを良い事に、懐にいるツバキは唐突に語り出す。
「だから、喋っちゃ――」
『それどころではない。知らねば、最悪、ひねり殺されるぞ』
その言葉に空気が一変する。なんだか、嫌な予感がした。
「それって、どういう意味ですか?」
『鬼は実在する。ここは、人の血を喰らって生きる鬼の巣窟じゃ』
「……ッ!?」
血の気が引いていき、頭が冷えていくのを感じる。
そのおかげか、すぐさま思考は戦闘モードに切り替わった。
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