第3話 テコ入れ
伊勢神宮内。ツバキの宿舎。
『うーん、控えめに言って、終わっとるのぅ』
十段重ねの座布団の上にいる鏡。
その中にいるツバキは苦言を呈している。
「……ご、ごめんなさい」
耳が痛い。できないのは分かっていたけど、謝るしかなかった。
「いきなり人を集めろって言っても、無理がありますよ」
『言い訳は聞かん。……お前さんたちにはテコ入れが必要じゃ!』
そんな中、ツバキの出した提案は予想外のものだった。
◇◇◇
「ば、バーチャルアイドルに……わ、私が?」
目の前のモニターに映るのは、もう一人の自分。
カメラに連動して表情が動く、二次元のキャラクター。
紅白の巫女服を着た、金髪サイドテールの明るそうな女の子。
自分とは真逆の存在。伊勢神宮ちゃん。それが、彼女の名前だった。
『お前さん、吃音症じゃろ』
「……は、はい。いけませんか?」
どきりと心臓が跳ねる。
(どうせ、治せって言われるんだ……)
嫌な予感しかしないまま、回答を待つ。
『それは天からの授かりものじゃ! 一度その状態で配信してみよ!!』
「……へ?」
しかし、返ってきたのは、まさかの肯定的な反応だった。
◇◇◇
「あ、あの……も、もう、今日は、終わります」
恥ずかしい。頭の中は真っ白だった。
何を喋ったか、思い出せないくらいに。
:お疲れ様~またくるね
:噛み噛みで可愛い
:まぁ、これならアリかも
:神宮ちゃんを拝めた今日という日に心より感謝します
この回の最高同時接続数は、102人。
チャンネル登録者数はプラス78人を記録。
テコ入れの結果、さっきより確実に前進していた。
「すごい、ちょっと増えた!」
『がっはっは。わらわの目に狂いなしじゃったな!』
二人は楽観的な雰囲気で事態を受け止めている。
「……あ、あのー」
確かに嬉しいのは嬉しいけど、どうしても言いたいことがあった。
『なんじゃ? 褒めても何も出んぞ?』
「こ、このペースだと、さ、30年は、かかる……」
『「あ……」』
言わない方が良かったかな。
二人は気まずそうに、声をあげる。
「このままじゃまずいな……。そうだ! 俺にもテコ入れを――」
『お前さんは策を考えろ。伊勢神宮ちゃんを最強のアイドルにするんじゃ!』
こうして、伊勢神宮ちゃん登録者1000万人計画は、本格的に始まった。
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