第2話 初配信
伊勢神宮、月に照らされる鳥居前。
背後には大きな木造の橋が架かり、辺りは樹木で囲まれている。
『ダンジョン世界で入手した、破邪の指輪じゃとぉ!?』
橋を渡り、鳥居前に座るのは、ジェノとアザミと鏡。
事情を説明し、鏡の中にいるツバキは驚きの声をあげている。
「ええ。魔や呪いに結構強いみたいです」
『で、では、鏡に指輪を当てて戻してもらえんか?』
「む、無理です。の、呪いにかかる前、じゃ、ないと……」
『殺生な……。これから、わらわはどう生きていけばいいんじゃ……』
正直、可哀想でしかなかった。
彼女はただ、鏡を守ろうとしていただけ。
一方的な被害者だ。助けられるならなんとかしてあげたい。
「あの、呪いを解く方法はないんですか?」
『あるにはあるが……これを人に頼むのは気が引けるのぅ……』
どうやら、方法はあるらしい。
ただ、なんとなくだけど、嫌な予感がした。
「て、手伝います。で、できることなら」
すると、アザミは責任を感じているのか、率先して尋ねていく。
『……なら、聞かせてもらうが、お前さんたち、ライブ配信の経験はあるかの?』
ツバキが語り出すのは、予想もしていなかった申し出。
「「は、配信!?」」
まさかの展開に、今度はこちらが驚きの声をあげる番になっていた。
◇◇◇
伊勢神宮内、ツバキの宿舎。
三十畳ほどの畳で構成された和風の部屋。
畳の上にはモニターとデスクトップPCが置かれている。
『呪いを解く方法は一つ。チャンネル登録者を1000万人集めることじゃ!』
画面に表示されているのは、『伊勢神宮公式チャンネル』だった。
チャンネル登録者は、2万6324人。目標の数字までは遠く及んでいない。
「本当なんですか。また騙す気なんじゃ……」
正直、かなり怪しい。説得力がまるで皆無だった。
『八咫鏡は元より、神の機嫌を取るための物。機嫌を損ねたから、罰を受けてこうなった。だからこそ、再び機嫌を取り戻せば、元に戻ると踏んでおる。つまり! 神の機嫌を取るためには、信者が大量に必要なんじゃ!!』
鏡の中にいるツバキは力説する。
一応、さっきよりは説得力があった。
「……で、でも、1000万人は、お、多過ぎです」
「10万人ぐらいでもなんとかなるんじゃないですか?」
ただし、やっぱり納得はいかない。
口数の少ないアザミも不服気味だった。
『わらわは鏡の一部になっておる。神のお告げが聞こえるんじゃよ!』
怪しい新興宗教の教祖のように、ツバキは語る。
「「……」」
沈黙が流れる中、アザミと目が合った。
どちらが何を言ったわけでもなく、互いに頷く。
こうして、流されるような形で初めてのライブ配信が始まった。
◇◇◇
ぎこちない正座をする男女が、カメラを通して全世界に配信される。
「――というわけで、伊勢神宮をお願いします」
「お、お願いします」
:結局、お前ら誰?
:つまんな
:神様馬鹿にしてませんか?
:神宮を映像で感じることができ、心より感謝します
この回の最高同時接続数は、29人。
チャンネル登録者数はマイナス46人を記録。
何気なく初め、当然のように失敗に終わった配信。
それが後に大事になるなんて、この時は知る由もなかった。
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