第34話 〝一縷の望み〟
シスが目を覚ます頃、フレアベルゼは自称魔王ヨツンと激しい戦いをしていた。怒りのあまり攻撃が単調になっているフレアベルゼの攻撃は、自称とはいえ魔王のヨツンが避け躱せるものだったフレアベルゼは自称魔王ヨツンと激しい戦いをしていた。怒りのあまり攻撃が単調で雑になっているフレアベルゼの攻撃は、自称とはいえ魔王のヨツンが避け躱せるものだった。
「〝魔王の槍〟よ、我が意のままに戦場を駆け巡れ」
「全距離攻撃だというのでありんすか?」
槍が遠距離にいるフレアベルゼを攻撃し、中距離ではヨツンの魔法攻撃、近距離ではまほの刃との打ち合い。血が頭に上っているフレアベルゼには、一つ一つ冷静に潰していく算段が立てられなかった。
「魔王フレアベルゼ――――愛した人間に裏切られ、ワルプルギスの凶炎を起こした張本人……そんな魔王を俺は超えるんだ」
「わっちが燃やした理由がちょっと違いんす」
「なんだと?」
「一方的に、スケベな元竜王に言い寄られて、切れて燃やしんした」
「魔王には威厳と風格がなきゃいけないのに……俺は認めない……俺は認めないぞ‼」
「何を認めないんでありんすか?」
ザンッという音がして、ヨツンの魔法による岩の弾丸を切り伏せるフレアベルゼ。冷静に戻ったのを見て、ヨツンは一瞬地上を見た。神骸宮殿の最上階で死んだはずのシスが立ち上がろうとしているのを見て激昂する。
「たかが人間の分際で……〝魔王の槍〟の必中必殺の能力を無効化しただと?!」
「わっちが愛した主――――シス・バレッタは大器で運がいい男でありんすからね」
「まずはお前だ……魔王フレアベルゼ……手も足も出なかった。〝魔王の槍〟で殺してやる‼」
サンッとフレアベルゼが顔面に刺さるはずの必中必殺の槍の攻撃を避けた。ヨツンは驚き、一筋汗を垂らす。フレアベルゼの燃えるような色の髪が数本落ちる。フレアベルゼは獰猛な肉食獣を思わせる好戦的な笑みを浮かべた。
「確かに髪も身体の一部、必中だけは当たっているんでありんすね」
「な、なぜ見切れるんだ。〝魔王の槍〟だぞ?」
「わっちも魔王でありんすが?」
瞬間、ゴオオオォォォオオオッという音がして、ヨツンに竜魔法による砲撃が直撃する。放ったのは父との死に咽び泣きながら、怒るマグナスからだ。
爆発炎上により、白眼を剥いて落ちていくヨツン。
『私が見てない間に色々と様子が変わっているわね』
気まぐれな黄金の軌道を描き、シスに質問するリンドベル・ベルリリー。
『竜王グレンを殺したのはシスなの?』
「違うよ、新たな魔王を自称する半人半魔の子供だよ」
リンドベルはクンクンと匂いを嗅いだ。そしてシスの周りを検査するようにして見て回る。シスはくすぐったくってやめてほしかった。
『シス……一度死人の列に連なったでしょう?』
「なぜ分かるんだい?」
『因果が逆転した匂いがするわ』
「例えばどういうところが?」
『刺されて死んだが刺されて生きた、に変わっているのよ』
「そう言えば……もう灰になっちゃったけど不死鳥のスカーフが守ってくれた気がする」
『ルプスに感謝しなさいね』
「ああ……ああ……――勿論だよ」
シスは何故かリンドベルと話すことでようやく堰を切るようにして涙が零れ落ち始めた。リンドベルもルプスと面識があったなとシスは思い出す。三人で夜中に談義するのは楽しかった。リンドベルが酒を飲むのを笑いながら見てたっけ――――
「――――汝、〝魔王フレアベルゼ〟の根源たる力を呼び覚ます。我が命を糧に更なる力を呼び起こせ‼」
『シス……あなた、何やっているの? フレアベルゼに寿命を捧げているの?』
「ベル……――半年ぶりにイヤな感じがするんだ」
シスは真上の、フレアベルゼとヨツンの戦いを見つめる。丁度、フレアベルゼがヨツンの魔法を「高貴なる炎よ――――――我が意を示せ‼」と言い吹き飛ばしたところだった。ヨツンは泣きそうな顔をしながらフレアベルゼに槍の連撃を喰らわせようとする。
『シス……あんたの心配のし過ぎって言いたいけど、宵闇に隠れたくなる前兆を感じるわ』
「それは死に近い黄金妖精の勘かな?」
それをじっと見つめている者がいたフィオ・バレッタとホロウ・アストレアの二人だ。特にホロウ・アストレアは黄金妖精の描く軌跡を見つめている。
「本当に……黄金妖精なのですか?」
『正真正銘……シスに憑いている黄金妖精よ』
「黄金妖精の話なら聞いたことがあります。人を破滅の道へと進ませる存在だと」
『それどこの話よ‼ 最初にウソ吐いたやつをぶん殴るわ‼』
瞬間、ズドドドーンッという白一色の神骸宮殿を破壊する音が鳴った。ヨツンが〝覚醒〟を解き、子供の姿に戻っている。そこに燃え上がる火焔に包まれるフレアベルゼが〝火焔の錆剣〟で止めを刺そうとした。シスはそれを押しとどめる。
「わっちの主を……シスを殺そうとした者でありんすよ?」
「骸人族が外の世界から……――攻めてくるんだろ? その尖兵にされているような気がする」
「お兄さま……――魔法で記憶を読み取るのがいいと思うわ」
「理を紐解く我が命ずる――――其の記憶を暴き出さん――――マインドスキャン‼」
シスは記憶の黒い奔流の中を泳いでいる感覚だった。魔族の母が死に、父である人族に虐待される毎日。父親を殺した白いマントを被り、仮面を被った集団から戦闘方法や〝魔王の槍〟の使い方を叩きこまれたこの一年。そして最後に読み取った記憶では、肉と骨の比率を逆にしたような異界の住人が現れた。朱殷色の骸骨のような存在だということが分かったところでシスはマインドスキャンをやめる。
「シス……何か見えたか?」
「この半人半魔の少年は敵の尖兵に過ぎません」
「もうしばらくしたら骸人族が現れるでしょう。恐ろしくて手の震えが止まりません。あれはこの世界には来てはいけない存在です」
『骸人族がやって来るのね?』
「長生きしているベルなら知っているんじゃないか?」
『何もかもが分かれていなかった世界でそういう名で呼ばれていたらしいわね』
そこに空震が起こる大器がビリビリと震え出す。遥か遠くの地平線に赤い魔力を纏った何か大きな者が近づいているのがシスは分かった。
――汝、シス・バレッタに告げる。
――――我が名は、パトゥ・ルツィフェーロ。
――――――ようやく我が力を解放する時が来たれり。
――――――――異世界からの蹂躙者をことごとく倒すべし。
「〝魔王の書〟いやパトゥ・ルツィフェーロに訊きたい。歴代の魔王を召喚するだけじゃないのか?」
『…………』
「答えてくれ、ノア・フランマとこの日の為に仕組んだんだよな」
『…………』
「一度でいいから返事をしてくれ……納得したい」
『左様、歴代の魔王を全て召喚する力が託された』
「分かった。答えてくれて決意がついた。ありがとう」
シスは――――――命を懸ける覚悟が決まった。
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