第9話 形勢逆転②


「なんで……なんで、撃ったんだっ!!!」


 ジェノは睨みつけ、銃を握る少女を責め立てた。


「ひっ……違う……悪くない。わたしは、悪く、ない……っ」


 ごとんと、持っていた銃が落ちる。明らかに動揺していた。


「――人を殺しておいて、悪くないわけ、ないだろっ!!」


 動揺してようと関係ない。ジェノは行為を否定する。


 どんな理由があろうと、殺人に正当性なんかないからだ。


「ご主人さま……殺そうとした……」


 少女は、びくっと肩を震わせながらも言い訳を語る。


「早とちりだ! 聞いてみろ、そのご主人様に!」


 妹かもしれないという事実を忘れ、ただ怒りをぶつけた。


 それほどのことが起きた。こっちは命を奪う気なんてなかったのだから。


「サーラ、今のはお前が悪い……。こいつらは俺を殺す気などなかった」


 ジェノの発言を後押しするように、カモラはバツが悪そうな顔で語った。


「そん、な……」


 膝を崩し、ようやく、サーラと呼ばれた少女は過ちを自覚する。


「俺が、もっとしっかりしていれば……くそっ!!!」


 でも、最終的には、自分が悪い。そのやるせない思いだけが、心に残る。


 ここにいた誰もが状況を理解し、黙る。声をかける資格なんて誰にもなかった。


「まぁまぁ、そんなに怒らなくてもいいじゃないっすか」


 当の本人である、メリッサを除いて。


「メリッサは黙ってて………………え?」


 耳を疑った。すぐに、声のした方へ視線を向ける。


「――心配してくれて、どもっす」


 そこには、気恥ずかしそうに語る、メリッサの姿があった。


「わ――っ!? ゾンビっ!?」


 ぞわっと背筋が凍り、気付けば、抱えていた体を突き飛ばしていた。


「ぐへっ。それはあんまりっすよ、ジェノさぁん」


 当のメリッサは、地面と抱擁しながらも、平然としている。


(どうなってるんだ……。これも、聖遺物レリックの能力なの?)


「なんで……生きて……っ!」


 軽く混乱していると、サーラは同じ疑問をぶつけていた。


「うちは限定的な不死っす。あの程度じゃ死んでも死ねないんすよ」


 どうやら彼女には、影と糸を操る能力に加えて、不死の能力があるらしい。


(ありえなくはない、か。俺も死んで、生き返ったことあるもんな……)


 詳細は分からないけど、状況と経験を踏まえたら、ひとまず、納得はできた。


「不死……? うそ……。そんな人、いるはずが……」


 しかし、一方のサーラは、納得がいかないのか、そう独り言をこぼしている。


「いるじゃないっすか。ドタマを抜かれて死ななかったやつが、目の前に」


 対し、メリッサは、すでに傷が塞がっている額を見せ、言った。


 ◇◇◇


 発砲騒動も落ち着き、先の少女は糸で拘束されている。


「殺されたくないなら、大人しく解放するっす。ここのキャスト、全員を」


 そこで、メリッサはようやく、ここに来た目的を切り出した。


「……なるほど。そういう魂胆か。――自警団の差し金だな」


 すると、カモラは何かを察したように、言った。


「情報協力してもらってるだけっす。うちが独断でやってることっすよ」


 そこで、ようやく、見えてきた。メリッサの背景と、その動機が。


(自警団……。メリッサは潜入捜査をしてるんだ、きっと)


 だとすれば、なおさら、口を挟まない方が良さそうだった。


 もし、話がこじれそうになったら、その時、介入すればいいだろう。


「ふっ、お前が正義の味方で、俺は悪徳商人か……」


「何がおかしいんすか。事実っすよね」


「だったら、聞いてみるがいい。ここにいるキャスト全員に」

 

 すると、カモラの提案に乗せられる形でメリッサの事情聴取が始まった。

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