第8話 形勢逆転①


 娼館内、二階、個室。


「これで、全員っすか?」


 娼館を制圧したメリッサは、糸で簀巻きにされたカモラに問う。


 中には数人の取り巻きが糸で縛られ、解放された娼婦や男娼が集められていた。


「――んんっ、んんんんっ!」


「あぁ、そう言えば、口も縛ってたっすね」


 口を縛られているカモラを睥睨し、メリッサはわざとらしく言った。


「……はぁ、はぁ、死刑囚の分際で俺に手を出しておいて、ただでは済まんぞ」


 メリッサとは見知った仲なのか、見上げるようにしてカモラは恨み言をこぼす。


「いいっすねぇ、いかにも三下っぽい台詞で。――ただ」


「――ぐっ!」


 メリッサは、手を握ると、糸が締まったのか、カモラは苦痛で顔を歪める。


「質問を無視したのは、あんまり褒められたものじゃないっすねぇ」


 今まで接していた彼女とは想像もつかないほど、その声音は冷たかった。


「全員だ。買収した元プレイヤーたちは間違いなく、ここにいる」


「本当っすか? 報告されていた被害者の数と合わないんすけどねぇ」


 メリッサは拳を強く握り、カモラの糸を締め上げ、問いただしていた。


「――くっ! 隠しても無駄か……。もういい、出てこいサーラ」


 カモラは、諦めたように指示すると、ベットの床下から物音が鳴る。


 そこから現れたのは、白いワンピースを着た首輪のない金髪碧眼の少女。


「――エリーゼっ!?」

 

 よく似ていた。行方不明になった妹と。


「……」


 その反応とは裏腹に、少女は手を後ろに回し、視線をそらしている。


「んえ? ジェノさんの知り合いなんすか?」


 地獄みたいな場所。マーレボルジェ。試験。


 在りし日の会話。繋がる。繋がる。繋がる。辻褄が合う。


(なんで、忘れていたんだ……。妹が、ここにいることを!)


「……ご主人さまに手を出すな」


 期待に胸が膨らむ中、少女は冷たい声音で、後ろ手を露わにする。


 その手には古式拳銃――ルガ―P08が握られ、引き金に指がかかっていた。


「待って! 落ち着いて、話を――」


 カモラと同様に、こちらに、気付いていないのかもしれない。

 

 冷や汗をかきながら、両手を前に突き出し、戦う意思がないことを示した。


「うるさいっ! 死んじゃえ!!」


 けど、少女は引き金を引き、銃弾は放たれる。


 あろうことか、防弾性の薄い、こちらの頭部に向かって。


(駄目だ、このままじゃ――)


 銃口の向きから、弾道を予測し、悟る。


 銃弾に、頭を貫かれ、あっけなく、死ぬ未来を。


「危ないっす!」


 その時、鬼気迫る声が響く。


「――ッ!?」


 体を強く押される中、見えてしまう。


 身代わりになった女性が、頭を撃ち抜かれる光景を。


「メリッサっ!!」


 見間違いであってくれ。そう心の底で願いながら、抱き留める。


「……うそ、でしょ」


 しかし、現実は甘くない。眉間を撃ち抜かれ、血を流し、瞳孔が開いている。


 ――即死だった。

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