第17話 第二投
別室。黒い壁掛け電話の受話器を取るメリッサは、
『指定の番号は――0か1。指定の番号は――0か1。ね』
親番の特権として、エレナの口から番号を伝えられていた。
「え? 0と1じゃなくて、0か1っすか?」
『言葉通りの意味よ。それ以上は言えない』
「いや、でもそれって――」
ぷつんと、回線が切れた音が聞こえる。
「切れた……。どういうことなんすか、ジェノさん……」
一度しかない、せっかくの有利な親番なのに、この仕打ち。
何を伝えたかったのか分からないまま、とぼとぼと部屋をあとにした。
◇◇◇
超VIPルーム前、待合室。
「本当に良かったの? 一応、ルールには違反してないけど」
思惑を知るエレナは、その是非を問うた。
「大丈夫です。きっと、メリッサなら気付いてくれますから、俺のヒントに」
不安はない。彼女ならきっと気付いてくれる。
そんな確信を持ちながら、ジェノは力強く言い切った。
◇◇◇
巨大ルーレット盤上。
(0か1……。真に受けるなら、どっちか一つが正解ってことっすよね……)
ジェノが伝えてきた番号に、メリッサは頭を悩ませていた。
「どうしたの? 小難しそうな顔をして。もしかして、味方に裏切られでもした?」
思考を妨害したいのか、セレーナは顔色をうかがいながら、煽ってくる。
「うっさいっす。いいから、静かにしてろっす!」
いちいち気が散る言葉を並べられ、無意識に反応してしまう。
『お待たせしました。これより、スリーカウント後、第二投を投下します。3――』
そこに、アナウンスが流れ、投下までのカウントダウンが始まる。
「くっ、もう時間っすか」
未だに答えが出ない焦燥感から、言葉が漏れる。
「そんな様子なら、このゲームも、あたしの勝ちね」
そんな弱気な姿を見て、調子づいたのか、セレーナは饒舌に語る。
『――0。投下』
と同時に、外周上には白いボールが投下された。
(恐らく、問題は0か1の二択っすけど、ここは、一か八か――)
そこまで考え、今度は、セレーナに背を向ける形でボールの方へ向かった。
「なるほど、そう来るのね。ここは、お手並み拝見といきましょうか」
一方、相手は、一投目とは真逆。傍観する体勢を取っていた。
(よし! これはチャンスっす!)
後ろ目で確認しながら走り抜け、ボールが転がってくる進行方向に立つ。
「ばっちこいっす!!」
両手を叩き、目の前に迫ってくるのは、一回り大きい白いボール。
ゴムなら弾力で反発する可能性もある。力を入れ過ぎるのも、良くない。
手はそっと添える程度の力の配分で、メリッサは両手を突き出し、待ち構えた。
「――――っ!?」
直後、接触。受け止めた手に衝撃が伝わってくる。そこで、気付いてしまう。
(――重い……っ!? さ、支えきれないっすっ!)
想定外の異変。ボールの圧倒的重さに。
(まさか、このボール……ゴムじゃ――)
気付いた頃には、すでに足元のバランスは崩れていた。
「…………う、くっ」
巻き込まれるよう形で、ボールがメリッサの体を蹂躙していく。
「――――――――――――ッッッッッッ!!!」
ぐちゃりと肉が音を立て、ばきりと骨が砕けた音が鳴る。
痛い。痛い。痛い。死にたい。殺して。生きたくない。助けて。
全身の神経が悲鳴を上げ、頭が沸騰したように熱くなり、目の前は暗い。
普通の人間ならここで死ねる。楽に死ねる。あっけなく死ねる。潰されて死ぬ。
「――あぁあっぁあああああぁぁああああああああああああああああっ!!」
だけど、死ねない。死ぬことができない。
それを証明するように、痛みを伴う再生が始まる。
壊れた骨と筋繊維が再生し、痛覚と神経が再び悲鳴を上げる。
これがたまらなく嫌いだった。再生するまで終わらない、この痛みが。
「超滑稽。死ねないってのも考えものね」
悶え苦しむこちらをよそに、澄ました顔をで皮肉を言うのはセレーナだった。
『出目は12。ベットは0。よって、ただいまの勝負、セレーナ様の勝利です』
そして、為す術もないまま、アナウンスが流れ、第二投の勝敗が決まる。
有利である親番が流れ、ジェノがもたらした意図も掴めずじまい。
まさに、絶望。万事休す。八方塞がり。絶体絶命の状況。
「……そういう、ことっすか」
しかし、メリッサは掴む。一筋の光明。勝利への道筋を。
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