第15話 ディスティニールーレット


 超VIPルーム、待合室。


 広さはワンルームほどの白と黒のモノクロ部屋。


 中央にルーレット台。部屋の隅には休憩用のソファが置かれている。


「まだっすか、エレナ。結構待たされてるんすけど」


 そのソファに寝転び、占領しているメリッサは退屈そうに語る。


 その反応も無理はない。支配人を呼び出し、一時間ほど経過していた。


「う~ん、たぶん、そろそろのはずなんだけど」


 ソファの横に立つエレナは、困り顔でそう答えた。


(話が通じない『怖い人』だったら、嫌だな……)

 

 そんな想像を頭の中で浮かべていると、右手の扉が、バタンと開いた。


「お待たせしました。わたくしが当カジノの支配人、セレーナ、と申します」


 現れたのは、メイド服を着た、赤髪ツインテールの可憐な女性。


 以前、前世で知り合った武器商人――セレーナが恭しくお辞儀をしていた。


「せ、セレーナさん!?」


 想像とはかけ離れた人物に、思わず声が漏れる。


(……『超』VIPルームって、そういうことか!)


 自分にしか分からないパズルが、頭の中でハマった瞬間だった。


「あちゃー、これはまた、めんどくさいのがきちゃったっすね」


 と同時に、メリッサは、不機嫌そうに、眉をひそめながら言った。


「……」


 そして、対するセレーナは無表情のままメリッサを見つめ、固まっている。


「え? 二人って知り合いだったの?」


 尋常ならざる反応を見て、ジェノは問いかける。


「知り合いというか、因縁の相手っすね。殺しにくるんじゃないっすかね」


 それに答えたのは、メリッサだった。


「いや、いい大人が殺してくるなんて、さすがに――」


 と、言いかけた時。


「お前はぁぁ――ッ!!!」


 血走った目で、セレーナはメリッサに迫る。


(……まずいっ!)


 なんとか割って入ろうと考えるも、間に合いそうにない。


「お止めください、セレーナ様。遺恨があるなら勝負でつけてはいかがでしょう」


 そこに、エレナは黒色のチップを見せ、冷静沈着にそう言った。


「…………ちっ」


 その言葉に、放たれていた蹴りが、メリッサの眼前でぴたりと止まっている。


「ごほん。これより、メリッサ様の二次試験の内容を説明させていただきます」


 咳払いをし、黒いチップを受け取ったセレーナは、話を進行していく。


 どうやら、今の一言が思ったよりも効いたみたいだ。ありがとう、エレナさん。


「……謝罪はなしっすか。調子いいっすねぇ」


 ただ、あまりの切り替えの早さに、メリッサは苛立ちを隠しきれないでいた。


「お願いします」


 空気の悪さに胃を痛めながらも、今は会話を円滑に回す。


 それだけに意識を集中し、メリッサの代わりに、説明を促した。


「内容は単純。全三回のルーレット勝負をしていただき、プレイヤーであるメリッサ様が、同伴者であるジェノ様が二つまで指定できる番号に、一度でもポケットに入れば勝利。三回以内に指定した番号に入らなければ、敗北となっております」


 聞く限り、普通のルーレットと、ルールはさほど変わらなそうだった。


 気になるのは、番号を指定するのは、プレイヤーのメリッサじゃない、ところか。


(ん? 俺が番号を指定するってことは、今、さりげなくヒントを出せば――)


「ただし、これより武器の使用と、同伴者様の発言と不審な行動を禁じます」


 ルールの穴を突こうとするが、先手を打たれてしまう。


「……むぐ」


 舌を噛んでしまった。すぐに考えつくような策は当然読まれてるみたいだ。


「口裏を合わせようとしたら、一発アウトってところっすね」


「そう思っていただいて構いません」


「了解っす。数字とか間違っても口にしちゃ駄目っすよ。ジェノさん」


「……」


 こくりと頷き、返事をする。


 どうにか、ヒントを出せればいいんだけど。


「それで、うちは何をすればいいんすか」


「まずは、こちらをご覧いただけますか」


 そう言って、セレーナは懐からリモコンを取り出し、スイッチを押す。


 すると、目の前の壁が透明になり、その先には、巨大なルーレット盤が見えた。


「……っ!?」


「……なんすか、これ」


「ひぇ……ここって、こうなってたんだ」


 予想外の光景に、一同がそれぞれ驚きを示す。


「通常のルーレットと異なり、プレイヤーはそちらの巨大ルーレット盤に入り、投下されるボールに介入しても良いルールとなっております。……当然、試験官であるわたくしも、中で妨害させていただきますが」


「技術介入ありのルーレットっすか。……面白い。受けて立つっす」


 勝負は成立し、ヒントを考えているうちに、二人は舞台へ降りていく。


「あーそうそう、相手の立場で考えれば答えは見えてくるっすよ、ジェノさん」


 すると、メリッサはこちらに振り返り、意味深な言葉を残していった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る