第14話 カジノバグジー


 カジノバグジー。ルーレットテーブル。


 赤と黒に色分けされた、0から36の数字がテーブルに刻まれている。


 ルーレットのルールは単純。


 ルーレット盤に投げ入れられたボールが、どこの数字に止まるか当てるもの。


「んがぁぁあぁ。うちのVIPルームへの道がぁぁぁああああああああああああ!」


 しかし、当てるのは難しい。


 メリッサのチップは吸われ続け、破産寸前。


 住民税のために置いていたへそくりは、水の泡になっていた。


「はぁ……なんとなく、こうなる気がしてたよ……」


 惨劇を隣で見ていたジェノは、ため息交じりに語る。

 

『VIPルームに入る条件は一つ。100ヴィータ相当のチップ一万枚を自力で獲得し、実力を認められること。作戦は、うちの職業『賭博師』によるEXスキル『幸運』を信じて、ルーレットで稼ぎ続けてやるっす!!』


 そんな中、思い出すのは、メリッサの無謀な作戦だった。


「いったん、帰って出直そう。ね? メリッサ」


 借りたお金を渡せば、まだ勝負できないことはない。


 だけど、ここは引き時だ。ぽんと肩を置き、諭すように言った。


「うぐぐぐ。まだ、うちにはまだ切り札が……」


 悔しがるメリッサは、胸元に手を突っ込もうとしている。


「メリッサ、悪いことは言わないから、もうやめといた方がいいんじゃない?」


 止めたのは赤髪ポニーテールの大人びた女性ディーラー。


 黒のバニースーツを着たメリッサの同僚――エレナだった。


「くっ、止めてくれるなっす。最後にもう一勝負お願いするっす」


「はい、はい。正直、そう言うと思ってた。――で、どこに賭けるの?」


「……待ってくださいっす。ジェノさん。好きな数字ってあったりするっすか?」


 すると、突然メリッサは、こちらに話を振ってくる。


「――好きな数字だと、俺は1かな」


「理由はあるんすか?」


「人ってさ、生まれた時点で1でしょ? 前向きな数字だから好きなんだ」


「……うちと、真逆の考えっすね」


 神妙な面持ちで受け止めるメリッサとは対照的に、

 

「話し合いもいいけど、結局やるの? やらないの?」


 エレナはディーラーに徹し、勝負の選択を急かしていった。


「……やるっす。こいつにうちの全てを託すっす!!」


 すると、メリッサは胸元から黒色のチップを取り出し、ある数字に叩きつける。


「結局、それか……」


 選択した数字は『0』。メリッサが賭け続けていた場所だった。


「はぁ……懲りないわねぇ。まぁいいわ。確率は0じゃないしね」


 エレナは呆れながら、白いボールをルーレットの盤上に転がしていく。


「泣いても笑っても最後の勝負。どうなるかは運次第――ってこのチップ……」


 棒状のものでベッドされたチップを回収していくエレナだったが、手が止まる。


「なんすか? 今さら何言われても遅いっすよ」


「なんで、これをもっと早く見せないのよ、バカ!」


「へ?」


「このチップ――超VIPルームへ入るための入場許可証よ」


「「超VIPルームぅ!?」」


 二人の声が同時に重なり、白いボールは『0』の場所にゴトンと落ちた。


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