第47話 世紀の大決戦
生徒会室のステンドグラスをぶち破って、清明先輩に決闘を申し込んだ日から三日が経った。
──今日はその決闘の日。
新調した袴に身を包み、戦いの場所である学校の武道場にやって来た俺は、目の前に広がる光景に思わず叫ぶ。
「夏祭りかよっ!?」
普段は人通りの少ない武道場周辺には、今や全校生徒が集まっているのではないかと思うほどに人が殺到していた。
辺りにはお好み焼き、かき氷、チョコバナナを始め、射的や金魚すくい等の屋台まで出店している――というわけで、もう一度言う。
「夏祭りかよッ!?」
何で? 俺、透花の将来を賭けた、一世一代の勝負のためにやって来たはずだよね?
夢でも見ているのかと、半信半疑のまま人混みをかき分け武道場に足を踏み入れる。
すると、信じられないことに一階は
だが、それよりも何よりも、最も衝撃を受けたのは、道場内に高々と掲げられた――
『世紀の大決戦~清明会長VS謎の金髪ロリ留学生ッ!』
――という垂れ幕。
……。
…………。
ああ、やっぱこれ夢だったわ。
だとしたらいつから夢だったんだ? もしかして清明先輩に喧嘩売ったのも、女に生まれ変わったのも全部夢っすか?
「夢ではありません。全て現実ですよ、ティアさん」
「うわ、出た!?」
背後から突然現れる白姫。相変わらず気配が読めない。
つーか、ナチュラルに他人の心を読むのは止めてもらいたい。
「出たって、失礼な……人をお化けみたいに……」
お化けの方がまだ可愛げがあるだろ。お化けは車で友達を置き去りにしないしな。
「で、どうです? 中々の盛況じゃないですか?」
白姫が興奮気味に語り始める。
「各部活、同好会に掛け合って私が企画したんですよ。名付けて『世紀の大決戦~清明会長VS謎の金髪ロリ留学生ッ!』」
「やっぱりお前の犯行か!?」
「犯行とは失礼な!」
「犯行じゃなかったら凶行だよ!」
それに何だよ、そのこてこてなタイトルは。
プロレスか? それとも怪獣映画か!?
「こっちは一世一代の大勝負だってのに。よくもまぁ、ここまでやるもんだ……」
「そんなの当たり前じゃないですか。大切なお友だちの人生を左右する大事な戦いなんですよ? 私、心配で夜も眠れなくて……だってこんな面白そうなこと、私だけで楽しむなんて許されないじゃないですか!」
「白姫さん……本心ダダ漏れになってますよ?」
何が心配で眠れないだよ。わくわくして眠れないの間違いじゃねえか!
「そういえば、透花は? 先に来てるって聞いてたけど……」
「透花さんはあそこですよ」
白姫の指さす先には解説席と書かれたテーブルがあり、その横には〝優勝賞品〟と書かれたタスキを身に付けた透花が恥ずかしそうに座っていた。
うわぁ、真っ赤になって下を向いてる透花もかっわゆいなぁ。
「――じゃなくてッ! あんた透花に何やらせてんの!?」
「優勝商品?」
「優勝賞品の前に親友だろ!?」
この前『私と透花さんは似た者同士の大親友』ってドヤってたのは何だったんだよ!
「ちなみに、ちゅう子ちゃんは二階席でたこ焼き食べてますね。あ、最近できた白いお友だちと一緒みたいです」
「白い……友達?」
何それ、すっごい嫌な予感しかしないんだけど……。
恐る恐る、ちゅう子が居るらしい二階席辺りに目を向けてみる。
すると、ちゅう子と白い神様ヒコナが、ギャースカとたこ焼きを奪い合っている姿が視界に入った。
あいつら、いつの間に知り合いに……ってあれか、この前ちゅう子が俺の家に置き去りにされた時か。
ったく、中二病と自称神なんて面倒臭いタッグだな……よし、見なかったことにしよう。
「にしても、この三日間でよくもここまで準備したもんだ。呆れて言葉も出ないわ」
「まぁ、いいじゃないですか。これだけギャラリーがいれば、清明会長も負けたときの言い逃れはできません。ティアさんの武勇伝、ここに幕開けですよ♪」
「物は言いようだな……」
だが、白姫の言うことは確かに理に叶っている。
何故なら、俺の目的はただ清明先輩を叩きのめすことではないからだ。
ティベリア・S・リリィという人物が、綾崎総一郎に代わる、いや、それ以上の傑物である――と世に知らしめる。
それがこの戦いの目的。
ただの小さな女の子にしか見えない俺が、大勢の目の前であの清明会長を打ち破るというシナリオは、その目的を達成するためには最良なスタートに違いない。
だが、そのためにはこの非力な女子の身体で、目の前のこの男を倒すことが前提条件となるんだけどな……。
「――戦いの前に、お喋りとは随分と余裕じゃないか……」
舞台上で腕を組み、こちらを見下す清明先輩。
使い込まれた、だがよく手入れされた袴に身を包んだ姿で鼻で笑う。
自分が負けるなどとは微塵も思っていないのだろう。
「先輩こそ、お喋りする余裕すらないんですか? こんな小さな女の子相手に緊張してるんですか? 意外に可愛いところあるんですね」
「抜かせ。お前がただの女ではないことは知っている。手は抜かん。怪我をしたくなければ、今のうちに降参するんだな」
俺と清明先輩の舌戦に、会場が一気に盛り上がる。――ってかなんだコレ。プロレスのマイクパフォーマンスみたいになっちゃってるんだけど?
調子狂うな……って、おい白姫、無言でマイク持たせるんじゃない!
「ティアちゃんっ!」
解説席の横から、優勝賞品(?)の透花が駆け寄って来る。
「何、泣きそうな顔してるんだよ透花、それじゃ可愛い顔が台無しだ。そんなに心配しないで、私は大丈夫だからさ……」
「でも、兄さんは本当に強くて……お願いだから今からでも、やめよ? ね?」
知ってるよ。清明先輩の強さは俺が一番よく知ってる。
何年もの間、ずっと一緒に切磋琢磨してきた仲だ。
こんな身体でまともにやりあって、無事で済む相手だとは最初から思っていない。
でも、それでも……。
「やめないよ、透花。大丈夫、私はとても強いんだから……安心してそこで見てて」
「でも……」
「大丈夫だって。それに透花を全寮制の女子高になんて行かせられないだろ? そんなことしたら、全校生徒百合化のバイオテロみたいになっちゃうからな」
「わ、わたしだって、そこまで見境なくないもん!」
泣きそうな顔から一転、あわあわと潔白を訴える透花
「でも、まぁ、それは置いておいて、別に私は、透花のためだけに戦うわけじゃないんだ。これは私のための闘いでもあるんだよ……」
そっと、優しく透花の頬に手を触れる。
「私は、透花が他の女の子にセクハラするのが嫌なんだ。だから透花には、これからもずっと私の側に居て欲しい。私だけにセクハラして欲しいなって……」
「……ティアちゃん…………」
「──だから私は私のために、透花にセクハラしてもらうために絶対に勝つ!」
「その言い方はちょっと嫌なんだけど!?」
少し笑顔の戻った透花の慌てる姿に、俺は声をあげて笑う。
しかし、そんな穏やかな時間は長くは続かなかった。
「茶番は終わったか? ならばさっさと来い。この百合清明自らお前を
痺れを切らした清明先輩が、早く舞台に上がれと挑発する。
「焦るなよ、生徒会長。せっかちな男は嫌われるって知らないのか?」
「心配無用だ。媚びなくても俺はモテるからな」
「へっ、その余裕面、すぐに吠え面に変えてやるから覚悟しろよ」
俺と清明先輩の睨み合いに、武道場内のボルテージが最高潮に高まる。
別に会場を盛り上げるために言ってるんじゃないんだけどな。だからコラ、白姫! 勝手にマイクを口元に近づけるんじゃない!
──そんなこんなで興奮冷めやらぬまま、ついに世紀の大決戦が始まるのだった。
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