第46話 ティベリアとしてやるべきこと
「何とか間に合ったみたいだな……」
危ないところだった。
あと少し遅れていたら、清明先輩は今回の件を両親に報告していたことだろう。
「よう、馬鹿兄貴。話は全部聞かせてもらったぜ。頑丈なドア締めきって、私の透花イジメてんじゃねえよ。仕方ないから窓ぶち破っちゃっただろうが!」
こちとらロープ一本ありゃ、東京タワーからだって余裕で降りられるんだよ。この十年で磨きまくった俺の技術をなめんじゃねえぞ。
なんて心の中で毒づきながら、俺は制服に散ったガラスを軽く叩きつつ、清明先輩を強く睨み付ける。
「盗み聞きとは、お世辞にもいい趣味とは言えんな……ティベリア・S・リリィ……」
「仕込んだのは私じゃないけどな。怖いくらいに準備のいい親切な親友がいるんだよ」
へっ、と笑いながら白姫から受け取ったイヤホンを見せつけるように外す。
途中からではあるが、透花と清明先輩の会話は聞いていた。恐らくこの部屋のどこかに白姫の仕掛けた盗聴器があるのだろう。
いや、盗聴器って冷静に考えるとホント怖いなアイツ。
絶対怒らせないように気を付けよう。
「それに、女子生徒の体操服姿を双眼鏡で盗み見てる生徒会長には言われたくないね」
「卑しい害虫が妹に
「へぇ……もう誤魔化すつもりもないってか?」
探り合いは終わり。直接対決がお望みなわけだ。
同感だぜ。気が合うじゃねえの先輩。
じゃあ、お望み通り始めようか――正面切った殴り合いをさ。
「それにしてもだ。さっきから聞いてりゃ、総一郎、総一郎って……百合家嫡男ともあろう男が、女々しいことばかり言ってんじゃねえよ」
「なっ……貴様。この百合清明が、女々しい……だと…………」
「だってそうだろ? 総一郎~総一郎~って、迷子のガキじゃあるまいし。それとも、未練タラタラの失恋男か? 言ってて情けなくないのかよ?」
「誰が失恋男だ!」
冷静な清明先輩の面貌が崩れる。
「総一郎は素晴らしい男? 総一郎がいれば百合家は安泰? 聞いてて笑い堪えるの大変だったっての。あのポンコツ野郎の何がそんなにいいんだか。私にはさっぱり理解できないね!」
「ポン……コツだと……。き……きさま……もう一度、言ってみろ……」
怒りのあまりワナワナと震える清明先輩。その反応を見て、俺は心の中でほくそ笑む。
やっぱり掛かったな。
清明先輩の総一郎への執着は尋常じゃない。だから総一郎をコケにすれば必ず食い付いてくると思っていた。
けど、
「聞こえなかったか? だったら何度だって言ってやるよ! 総一郎はポンコツだ。好きな女の本心にも気付かないで、振られたらさっさと逃げだす腰抜け野郎だ!」
「ティアちゃん……」
一触即発の空気に、俺の言葉に、透花がハッとして俺を見つめる。
「貴様如きが、総一郎を愚弄するか!?」
「愚弄するね! むしろ、いくら愚弄しても足りないくらいだっての! アイツは救いようのない馬鹿だからな。透花のためとか言いながら、結局は自分のことしか考えてない。それで散々透花を傷付けて、透花の優しさにも気付かずに、被害者面して泣きわめいて……」
……ホント……最低だ……。
透花は俺のために全てを失うことを選んだのに。当の俺は被害者面して逃げ出す始末だ。
透花は傷付いただろうな……。
自分のせいで総一郎が消えたんだ。辛かっただろうに。
きっと誰にも気づかれないところで、こっそり泣いたりしていたに違いない。
全ては、俺が自分のことばかり考えて、透花の本当の心を知ろうとしなかったせい。
俺は本当に大馬鹿者だ。
女になって、友人に諭されて、やっと気付くことが出来た。
だから……だからこそ俺はもう間違えない。
透花を二度と傷付けない。
「ってなわけで先輩、選手交代だ。透花は総一郎にも誰にも渡さない。透花は私がもらう!」
「っ!? 何を勝手な、総一郎は百合家にとって必要な――」
「――だったら話は簡単だろうが!」
そうだ簡単なんだよ。
俺のやることは〝十年前〟も〝今〟も変わらないんだ!
「総一郎がなんぼのもんじゃい! 総一郎より私の方が凄いって証明してやるよ。百合家にとって、私を引き入れた方が得だって認めさせてやる。そうすれば文句はないだろ!」
俺はゆらりと右手を上げ、その人差し指を清明先輩の鼻先に突き付ける。
「百合清明、お前に一対一の決闘を申し込む。私が勝ったら……透花は私がもらう!」
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というわけで、クライマックスです。
ティベリアと透花の物語を、最後まで見届けて頂けたらと思います。
余談ですが、この作品もカクヨムコンに応募しています。
受賞などは厳しいとは思いますが、☆評価やフォローで応援して頂けたら嬉しいです。
☆評価は、最新話の次ページや、この小説のトップページで出来るようなので、是非よろしくお願いします。
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