第32話 裏部活、闇部活、七不思議?
もうすぐ四月も終わり。
明日からは待望のゴールデンウィークが始まる。
朝から教室では、連休中何をして遊ぶかで誰もが盛り上がっていて、授業を受けていても、どこか気持ちが浮ついていているような一日。
そんな日の放課後、俺は透花と二人きりで校内を歩いていた。
なぜかというと、
「――ティアちゃん、まだ部活決めてないよね? わたしが手取り足取り案内してあげる!」
というわけだった。
学校の先輩風を吹かせて、俺の隣をやる気満々、意気揚々と歩く透花。
俺はその優美な姿を横目で眺める。
ティベリアとして学校に通うようになって二週間と少し。
透花との〝あまあまTS百合ライフ〟という俺の野望は、自分でも怖くなるくらいに順風満帆だった。
むしろ、透花からのアプローチ(セクハラ)が激し過ぎて、俺の方が困惑する毎日。
そう。そうなのだ!
透花からのアプローチが激しい。激しいのだ。
時間を惜しむかのように、毎朝、毎昼、毎夕と、四六時中、隙あらば俺にボディタッチを仕掛けてくる透花。
そんな幼馴染に、俺は心の中でガッツポーズをせずにはいられなかった。
――ふふふ、ふははははは。勝った。これは勝っただろ。
他の透花ファンには悪いが、なにしろ、こっちは透花の理想――金髪ロリに生まれ変わるなんてズルまでしているんだからな!
これはそろそろ、告白も視野に入れて良いのではないだろうか?
むしろ、放課後に二人きりの今が最大のチャンスなのでは?
そして今日、上手くいけばゴールデンウィークは晴れて恋人同士で過ごせるんじゃね?
そんな妄想に思考の大半を割いていると、
「ふぅ~~~~」
「うひゃう!?」
突然耳に吹きかけられる吐息に、変な声を上げてしまう俺。
「ふふ、さっきから……何を百面相してるのかな、ティアちゃんは?」
うあぁぁぁぁ、さ、囁かないでくれぇ……み、耳は弱いんだよぉ……。
「ああああ、か、可愛い。ハァハァ……今のティアちゃん最高にエロ可愛いわ。真っ赤になっちゃって、もじもじしちゃって。あら、そんなにギュッと足を閉じてどうしたのかな? 未知との遭遇シちゃいそうとか?」
「な、なななな……何言ってるんだ、透花のバカーっ!」
「あはは、ごめんごめん。ちょっとやり過ぎちゃったかな?」
「うう、辱められた……」
顔が熱い。それに女の子みたいな声が自然に出てしまった。
なんか最近、自分が変だ。
心と身体がふわふわしてアンバランスで落ち着かないような……。
身体は女になっても心は男のままなはずなのに、何かがズレてきているような感覚。
〝好きな女の子に触れられるドキドキ〟よりも〝人前で自分の身体を触られるドキドキ〟の割合が増えてきているような。
でも、それに戸惑いながらも、それが自然な反応だと感じる自分も確かにいて……。
心と身体は、互いに強く影響し合うという研究がある。
身体が衰えれば心も弱り、心が弱れば身体も衰える。心理学でいう《心と身体の統合》というやつだ。
ならば身体が女性になった俺が、知らず知らずのうちに心までも女性へと引き寄せられてしまうのは仕方のないことなのかもしれない。
――かもしれないが……本当にそれでいいのだろうか。
いや、いいに決まっている。
だって総一郎では透花のために何もできなかったじゃないか。
それに、透花は今の俺を可愛いと言ってくれているのだから……。
運動部の見学が一通り終わり、俺たちが次に向かったのは、文化部の本丸である部室棟。
校舎の北西、学内敷地の端に位置する部室棟は、旧校舎を改築した三階建ての古い木造建築だ。
周囲は静かな森に囲まれているが、近付くにつれて、部活に打ち込む生徒たちの熱気がひしひしと感じられるようになる。
「なんだか運動部より、文化部の方が凄い熱気だな……」
「でしょ? うちの学校って運動部も強いけど、それ以上に文化部が盛んなんだよね。変わってるでしょ?」
「えっと……うん、そうだね」
ついさっきセクハラを注意されたことも、もう忘れたかのように楽し気に話す透花。
この笑顔に弱いんだよなぁ。
「理事長――わたしのお爺様なんだけどね。お爺様の方針で、申請さえすれば部員が一人でも部の設立を認めることになってるの。しかも、かなり潤沢な部費まで約束されてるっていうおまけ付きで……」
「それはまた、至れり尽くせりな環境だね」
もちろん俺も知っている情報ではあるのだが、ここは知らないふりをして、透花のエンジェリックヴォイスに耳を傾ける。
得意げに説明してくれてる透花、超可愛いしな。
「そのお陰というか、そのせいというか、部活……特に文化部が増え過ぎちゃって、その総数や実態は、教師や生徒会も把握できていないんだって」
なんて無責任な学校だ。透花のじいちゃん大丈夫か?
「噂によると、闇部活とか裏部活なんて組織まであるとかないとか……」
「何その少年漫画みたいな設定。闇? 裏? 部活なのに?」
「部室棟七不思議ってのもあるんだよ~」
「闇に裏に、七不思議って……大忙しだな文化部」
俺の反応に気を良くしたのか、透花は両手を忙しなく動かして上機嫌に話を続ける。
「ちなみに七不思議はね、部室棟から夜な夜な遺伝子操作されたキメラの鳴き声が聞こえるとか、ロボット三原則を無視して人間に襲い掛かって来る人型決戦兵器が出るとか」
「人型決戦兵器って……そんなマンガじゃあるまいし――」
居るわけないだろ、と続けようとしたその時、
―――ギィィィィ、ガシャコン――
そんな、油と鉄が軋んだような音が耳に届く。
「……何の音だ……?」
音がしたのは部室棟の周囲に広がる林の中からだった。
林の奥がざわざわと揺れる。それは何かが近付いて来る気配。
そして林からひょっこり顔を出したのは、
「「ロ、ロボ―――――――――ッ!?」」
明らかな人外。
人型の鉄の塊だった。
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祝10000PV超え!
いつも応援&☆評価&フォローをありがとうございます!
ストーリーも徐々に佳境へと入ってきました。
少々、暗い雰囲気が立ち込めていますが、主軸であるティアと透花のイチャイチャパートも大きいのがまだ残っています。
ですので、今後の展開に期待して貰えたらと思います!
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