第33話 人命救助用殺戮ロボットさとし君

「「ロ、ロボーーーーーーッ!?」」


 部活等の林の中から現れた鉄の人型に、俺と透花が驚きの声を上げる。


 な、なんで学校にロボット? え、着ぐるみ? ……にしては、重厚感と機動音が本物っぽい。

 でも、何だこの小型のキャタピラに、紫のアイ○ンマンくっ付けたみたいなアホなデザインは……しかも両手はマジックハンド?

 これって、正直言って……。


「…………だっせぇ」

「「「ダサくな―――――――――いッ!」」」


 俺の漏らした感想を真っ向から否定する、複数の声が響く。


「我がロボ研の技術の粋を集めた人命救助ロボ、さとし君を馬鹿にするなぁぁぁっ!」


 そう叫びながら、部室棟の中からわらわらと現れる白衣メガネ軍団。

 どうやらこのロボットの製作者たちのようだ。


「このロボット、お前らが作ったのか!?」

「ロボットじゃない! 人命救助ロボさとし君だ!」


 いや、自分でロボって言ってるじゃんか。


「お願いだ、さとし君を止めてくれ! 起動スイッチを入れたら急に暴走して、部員三人をフルボッコにした後、部室の壁を破壊して逃亡してしまったんだ!」

「それのどこが人命救助ロボだよ!? 人命危険に晒してんじゃねえか!」 


 何という頭の悪い展開だ。

 だが事態は飲み込めた。開発中のロボットが謎の暴走ってやつね。SFあるあるだな。

 でも、いきなり止めてくれって言われても、どうやってだよ……。


 人命救助ロボさとし君はいったんキャタピラを止めると、その目を光らせ周囲を観察している。

 ……何だか嫌な予感がする。

 そして次の瞬間、さとし君の目が真っ直ぐに俺と透花を捕らえた。


『――ターゲット、ロックオン。サ、サササ……サーチ&デストロイ』


「バグりまくってんじゃねーかッ!」


 このロボ、なんつー物騒なこと言いやがる! 


「どこが人命救助ロボだよ! こいつ『動くものは皆殺し』とか言ってるぞ! あとロボなのに、何でさとし君なんだよ!」

『――ボクサトシ。事故デ死ンデ……脳ダケ移植サレタ……。パパ、ママ、イタイヨ。アイタイヨ。タス、タス、タスケ……ケェェェェェェェェェェェッ!!!』


 怖えーーーー。超怖えーーーーーー。

 奇声を上げながら頭部をぐるぐる回転させるさとし君に、さしもの俺も恐怖を覚える。


「仮にも人命救助ロボだろ! なんつーホラーな設定組み込んでんだよ! 他人助けてる場合じゃねえだろ! まず、さとし君が救われるべきだろ!」

「ロボットに悲しいドラマは付きものなんだよ! 男のロマンなんだよ!」

「何言ってるか全然分からねーよ!」


 そうこう喚いている内に、俺と透花に向かって小型重機ばりの勢いで突撃して来るさとし君。


「ちっ、透花、動けるか!?」

「ご、ごめんティアちゃん。腰が抜けちゃって……」

「くっ……わかった、私に掴まって!」


 座り込んだまま動けない透花を咄嗟に抱きかかえ、俺は全力で真横に跳ぶ。


 くそっ、透花が意外に重い……いやそうじゃない、俺が非力なんだ!

 その後も繰り返し突撃をかまして来るさとし君。

 俺は透花を抱えたまま何とか避け続けるが、徐々に攻撃が掠めるシーンが増えてくる。


 ……もしかしてこれって大ピンチってやつなんじゃないのか?


 恐らくさとし君の重量は200kgは超えているはずだ。そんな鉄の塊にぶつかられたら、とてもじゃないが無事でいられるとは思えない。


 透花を抱えたまま森に逃げるか? 

 いや無理だ。今の俺の体力じゃ、あっと言う間に追いつかれて後ろから衝突されるのがオチだ。

 それなら正面から戦う? 

 いやそれも厳しい。どれだけ重量があろうと、力が強かろうと、人型であれば相手の力を利用して大地に伏すことはできる。

 だが、こいつの足回りはキャタピラだ。

 間違いなく対人の技術は通用しない。


 くそ、総一郎の身体があればこんなロボット、相手にもならないってのに……。

 透花のために手に入れた少女の身体を、俺は初めて恨めしく思う。


「ティアちゃん、わたしのことはいいから逃げて!」

「んなこと、できるわけがないだろ! お前は私が絶対に守る!」 


 自分をたぎらせるための強気の言葉。

 だが言葉とは裏腹に、策は無かった。


 ――くそっ、このままじゃ、マジであと数手で詰むぞ。


 何度さとし君の攻撃を避けただろうか。呼吸が苦しい。全身の筋肉が悲鳴を上げている。

 だがそれでも……。


「この手だけは絶対放さない。透花は死んでも私が守る!」


 魂を絞り切るように、再び自らを鼓舞する。


 ──だが次の瞬間、膝がガクンと沈む。


 何が起こったのか一瞬分からなかった。

 それは深さ1センチ程の地面のへこみ。その些細な足場の変化に、俺は足を取られバランスを崩したのだ。

 そこへ、さとし君の無慈悲な一撃が合わさった。


「くそっ!」


 やばいな、これは避けられない! 

 脳裏によぎるのは、俺ともども吹っ飛ばされる透花の姿。


 ――駄目だ、そんな結末。それだけは絶対に避けなくてはならない。


 覚悟を決めた俺は、透花だけは守れるように、その身体に覆いかぶさるのだった。

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