第22話 着せ替えTSっ娘

「このガーター付きの黒ビスチェなんて良いんじゃないですか?」


「確かに……ティアちゃんの白い肌に黒は映えると思う。でも、それだとティアちゃんの持つ甘酸っぱいエキスと調和しないと思うのよね……」


 エキスって何だよ。そんなの出してるつもりはないんだけど?


「さすが透花さん。常に素材の良さを引き出すことを忘れない姿勢、勉強になります」


「というわけで、わたし的にはこっちの水色かなぁ。敢えてシンプルなデザインの方がティアちゃんのナチュラルなエロさを引き立てると思うんだよね~」


「うは、シンプルとか言って、これヒモパンじゃないですか~」


「ふふふ、だってシンプル過ぎてもね、目を惹くワンポイントは欲しいでしょ?」


「さすが透花さん……癒し系いやらし系を絶妙に突いてきますね……」


「ふふ、ゴッドハンド透花と呼んでくれてもいいんだよ」


 ゴッドハンドって、天才外科医じゃあるまいし……。


「それじゃティアちゃん、この水色いこうか。で、その次はこっちのオレンジのやつね」


「ちょ!? そのオレンジのやつ、Tバックじゃないか!」


「大丈夫大丈夫、これベビードールとセットのやつだから。丸見えにはならないって。ちょっと透け透けなだけだから」


「何一つ大丈夫じゃないよ!」


「そのふたつが終わったら、次はこっちのピンクのフリフリね。はい、どんどん持って行くから覚悟してね♪」


「こっちの話も聞いてよ! ってか、そんなに!? ちょ、ちょっとこれ、いつになったら終わるんだーーーーーッ!?」


 みんなで仲良くオムライスを食べ終えた後、俺を待っていたのは、ただひたすらに着せ替え人形として、透花と白姫に弄ばれる運命だった。

 最初は恥ずかしくて仕方なかったのだが、十着を超えた辺りから考えるのはやめた。


 ――人間は思考するから苦しむのだ。


 ちゅう子も最初は白姫の手によって着せ替え人形にされていたのだが、数着こなしたところで脱走。

 今は向かいの雑貨屋で、カオナシの貯金箱がお金を食べる様子を無心に眺めている。


「オムライスを食べていた時はあんなに元気だったのに。自分の胸のサイズが〝AAA〟だったという事実に精神こころが持たなかったんだな」


 かくいう俺も〝AA〟だったので、差なんてあって無いようなモノなのだが……。

 そんなこんなで、俺を着せ替え人形にして異常なハッスル状態になっている透花に付き合うこと小一時間。

 俺はやっとのことで下着試着地獄から解放される。


「……ふう、ティアちゃんのけがれ無き肢体したいを余す所なく堪能したわ。我が生涯に一片の悔い無し!」

「私の下着姿くらいで人生満足するなよ!」


 やり切った顔で額の汗を爽やかに拭う透花に、試着室から顔だけを出してツッコミを入れる。

 それに何が穢れ無き肢体だよ。この一時間で十分過ぎるくらい穢されたわ!


「し、下着姿くらいってことは、もっと先を期待してもイイってことなの!?」


 興奮のあまり、更衣室のカーテンを思い切り開け放つ透花。


「ぎゃー、こらぁ! まだ着替えて途中なのに、いきなり開けるやつがあるか!」


 服で咄嗟に身体を隠し、透花に背中を向ける。

 自分で言うのもなんだけど、めっちゃ女子っぽいリアクションだった。


「だって~下着くらいで満足するなってことは、もっと色々なサービスでわたしを満足させてくれるってことでしょ? こ・ん・な・風に……つつつ」

「ひゃう! 背筋なぞるなぁ!」


 ビクンとなりながら更衣室のカーテンを全力で閉める。

 締め出された透花が残念そうに甘い声を漏らした。


「まったく、透花は隙あらばセクハラしてくるんだから……」


 なんてボヤキながらも、同時に俺は、透花とのこの無茶苦茶な関係に心地よい何かが芽生えつつあるのも感じていた。 


「TS百合――女になって透花と結ばれる……か」


 ヒコナから聞いたとき、俺はその未来を全く想像できなかった。

 違和感しか無かった。

 でも今は、その違和感が随分と薄らいでいた。

 

「今の透花は生き生きしてるよな……」


 総一郎のときに見ていた透花が偽物だったとまでは言わない。

 が、こっちの透花が本来の姿なのだと思うと、かつての俺と透花の関係こそが間違いであり、今の女×女の関係こそが自然であるようにすら思えてくる。


「セクハラだって、俺にしてくれる分には何の問題も無いしな……」


 というか控えめに言っても、今の俺と透花はいい感じなのではなかろうか? 

 むしろ、ほとんど両想いみたいなものじゃないか? 

 ふひ、ふひひひひ。心の中でニンマリ笑いながら試着室を出ると、


「――あ、店員さん。さっきこの子が試着した下着、全部下さーい」


 さも当然のように、店員さんに爆買い注文をする透花の姿がそこにあった。


「ぜ、全部だとぉぉぉ!?」


 ちょっと、何言っちゃってんの透花さん。

 全部って、どれだけ試着したと思ってるの? ざっと数えただけで三十着は下らないと思うよ!


「と、透花、全部ってちょっとさすがに多すぎなんじゃ!? プレゼントって言ってたけど、私そんなに貰えないよ!」


 そんなの申し訳ないし、収納場所にだって困る!


「いーじゃんいーじゃん。だってわたしお金なら持ってるぜぃ!」


 まるで徹夜明けのような、変なテンションの透花さん。


「そういう問題じゃなくって! ちゃんとお店に返そう。元の場所に戻そう。ね?」

「お店に返す……ね。ふふふ、でも、そうは問屋が卸さないのよ、ティアちゃん」


 貴様の攻撃など我には効かん、的な空気をかもし出しつつ透花が不敵に笑う。

 何だ、何なんだ、その余裕は!? 

 嫌な予感しかしないぞ。


「あの、落ち着いて聞いて下さいね?」


 心底同情した面持ちで白姫が、俺の肩に手を置く。


「……雪?」


 いや、こいつ同情なんかしてねえ! 目が笑ってる、手が震えてる。笑うの必死に堪えてプルプルしやがる!


「普通はですね、下着の試着ってブラジャーだけなんですよ」

「へ、どういうこと?」


 ブラジャーだけって……俺、パンツも履いちゃってたけど?


「おかしいと思いませんでした? ブラジャーはともかく、ショーツは伸びたりしますし、衛生的にも問題がありますよね?」

「あっ……」


 言われてみれば、どこの誰が履いたか分からないパンツなんて、普通は絶対に買いたくない。

 パンツの試着なんて、店側からしたら迷惑行為以外の何ものでもないじゃないか。


「で、でも、だってお前らが上も下もどんどん持って来て、全部着けろって強引に――」

「それが罠だったんですよ」

「わ、罠って……?」

「最初から透花さんと店員さんとの間で、話はついていたんです。『試着した商品は、全部買い取るから好きにさせろ』って――」

「な、なにぃぃぃ!?」

「透花さんはティアさんに色々な下着を着せて楽しみたい。でも、あまりに大量の下着をプレゼントしようとすれば、ティアさんが断るのは明白です」


 そりゃそうだ。たとえ透花が金持ちだからって一方的に施しを受けるのは間違っている。


「ですから、それを見越した上で透花さんは罠を張ったんです……」

「そ、そういうことか……私が下着選びに疎いことを見越した上で、試着と称して油断させ、下着の大量購入を拒絶できないように、裏から手を回していたというのかぁ!」


 百合透花……なんて恐ろしい子。


「気にしないでティアちゃん。ほとんどは私が〝個人的に〟買い取るだけだから♪」

「しかも本当の目的は、私の使用済みの下着かぁぁぁ!」


 すべては透花のシナリオ通り。

 最初から最後まで、俺は手のひらで踊らされていたということか。なんという知能犯。いや、ここは痴能犯と呼ぶべきか?


「まだ買い物終わらないのか? 我、のど渇いたぞ。抹茶フラペチーノ飲みたいぞ」


 透花の完全犯罪(性的)に打ちのめされている俺の元へ、痺れを切らしたちゅう子が戻って来る。

 どうやら〝AAAサイズ〟の精神的ショックから少しは立ち直ったらしい。


「あ、ちゅう子ちゃん。これ、ちゅう子ちゃんに私からプレゼントです。さっき試着したAAAサイズの下着ですよ♪」


 ぶわっ。ちゅう子が泣いて逃げた。


 白姫雪しらひめゆき――やっぱりコイツが一番恐ろしいかも知れない……。



 ────────────────────


────────────────────


 この下着の試着回は、自分でもすごく気に入っている話です。

 透花が変態過ぎて可愛い。


 余談ですが、この作品もカクヨムコンに応募しています。

(2023/2/3現在)


 受賞などは厳しいとは思いますが、☆評価やフォローで応援して頂けたら嬉しいです。


 ☆評価は、最新話の次ページや、この小説のトップページで出来るようなので、是非よろしくお願いします。 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る