第11話 TSっ娘、登校初日 ~そして伝説へ~

 1000PVありがとうございます♪

 こんなに早く達成できるなんて、とても嬉しいです。

 これからも頑張りますので、応援よろしくお願いします!


 ――――――――――――――――――――


 俺こと綾崎総一郎が金髪ロリっ子――ティベリアの姿になってから二週間が経った。


 たった二週間とはいえ、女の身体になったせいで、色々と苦労が絶えない二週間だったことだけは分かってもらいたい。


 まず服がなかった。外出しようにも、今の身体に合う服が一着たりとも無いのだ。

 とりあえず通販で服を調達して事なきを得たものの、食材の買い出しに行こうかと思ったら、今度は靴がない。

 何とも間抜けな話である。


 仕方なく母さんのスニーカー(サイズが3センチも大きい)を履いてスーパーに行ったのだが、周囲からはやたら注目されるし、棚の上の商品には手が届かないし、買い物袋は異様に重く感じるしで、悲しいやら情けないやらで泣きたくなった。


 他にもまだまだあるが、それよりも何よりも困ったのが風呂とトイレだった。

 まず、自分の身体を見ていいのか分からない。

 最初の頃なんて、目を瞑ったまま風呂とトイレを済ませていたくらいだ。

 三日目ぐらいで馬鹿らしくなってやめたけどな。

 というか、何の凹凸もないティベリアの身体に、まじまじと観察してみても何の感慨も無かったというのが正直なところだった。

 

 そんなこんなで二週間。

 多少は女の身体にも慣れてきたところで、俺はついに運命の日を迎えることになるのだった――。



 ■□


「はーい、みなさーん。突然ですが、今日は素敵な留学生を紹介しま~す」


 我がクラスの担任教師、梓川あずさの脳天気な声が廊下まで聞こえる。

 毎日聞いていた声だが、教室の外で聞くと全く違ったものに聞こえるのだから不思議なものだ。

 そう、今日は俺、ティベリア・S・リリィにとっての登校初日。

 梓川に案内された俺は、教室に呼ばれるのを今か今かと廊下で待っている最中だった。


「ふう……さすがに緊張するな……」


 うちの学校は基本的にクラス替えは無い。

 そのため、この扉の向こう居るのは総一郎として一年間共に過ごした見知った顔。

 ……だというのに、さっきから心臓の鼓動が収まらない。


 ――この扉一枚を挟んだ向こう側に透花がいる。


 そう考えるだけで、俺は未だかつてないほどの緊張に襲われていた。


「じゃ、ティベリアさん、入ってきて下さい~」


 扉の向こうから梓川先生の声が聞こえる。


「……」

「あれ? ティベリアさん、もう入って来ていいですよ?」

「…………え? あ、は、はい!」


 そうだよ、ティベリアって俺のことじゃねえか!

 名前を呼ばれても、自分のことだと気付けなかった。

 いい加減新しい名前にも慣れないとな。


「よし、行くか」


 深呼吸一つしてから、微かに震える手で教室のドアをゆっくり開ける。

 すると、目の前に広がるのは二週間ぶりのクラスメイト達。

 そして、窓際の一番後ろの席に見えるのは、我が愛しの天使――百合透花の姿。


 どういう感情なのかは分からないが、俺の姿を目にした透花は、口元に手を当てたまま驚いたように固まっている。

 あー、まぁ、留学生ってだけでもレアなのに、こんな小さい小学生みたいなのが入って来たら、そりゃ誰だって驚くよな。うん。


「えー、みなさんもご存知の通り綾崎くんはアメリカへ留学することになりました。何の相談もなくいきなりでしたから……先生悲しくって……先生って、そんなに頼りないですかね?」


 よよよ、と泣き崩れる素振りをする梓川先生。

 留学生しゅやくを差し置いて脱線しないでもらいたいんですけど……。


「というわけで、その綾崎くんの交換留学の相手が、こちらのティベリアさんになります。では、ティベリアさん。自己紹介をお願いしますね~」

「へ、は、はい!」


 泣き崩れていたかと思いきや、唐突に話をこっちに振ってきたので、少し上擦った声を上げてしまう。

 それを誤魔化すようにコホンと咳払い一つしてからチョークを手に取り、思い切り背伸びをして黒板に自分の名前を書き上げる。


「――皆さん、初めまして。ティベリア・S・リリィです。これから一年間、どうぞよろしくお願いします」


 新たに手に入れた金髪美少女の姿で、軽やかに微笑んでみせる俺。

 ふふ、完璧な自己紹介だ。

 何しろ、ティベリアとして初めて透花と出逢う運命の日だからな。

 第一印象を完璧にするために、表情や顔の角度、ポーズに至るまで、五時間に渡る入念なリハーサルを行ってきたのだ。


「はーい、ティベリアさんありがとうございました。あーでも、ティベリアさん。クラスの皆さんに、もう一言お願いしていいですか? 趣味とか出身地とか……その方がクラスの皆とも早く仲良しになれると思うんですよ~」


 思い付いたようポンと手を叩く梓川先生。


「え、あ、はい」


 なるほどね。そりゃそうだ。留学生だもの。

 どこ出身とか、家族構成とか、絶対聞かれるよね。色々と気になるよね。


「えっと、私の出身は……ってあれ?」


 そういえば俺って、どこの出身なんだ? 

 在留カードには米国って書いてあった。でも、どの州出身とかは書いてなかった。

 それに家族構成はどうなってる? 

 それ以前に、留学生なのに何で日本語ペラペラなんだ?

 あ……あれ? 自己紹介しようにも、自分のことが全然分からないぞ。

 ……これって、かなりヤバい状況なのでは?


「あの、ティベリアさん大丈夫ですか? 顔色が優れないようですけど……」

「い、いえ大丈夫です。ちょっと、時差ボケで……」


 苦笑いしながら適当に誤魔化す。


「あー時差ボケですか。分かります、分かります。先生も、お友だちとオーストラリアに行った時、眠くて眠くてボーっとしちゃって~」

「は、はぁ……」


 オーストラリアと日本の時差は一時間しかないから、眠くてボーっとしてたのは時差のせいじゃないと思うけど。

 ……って、そんなくだらないこと考えてる場合じゃなかった!


「では、ティベリアさん、自己紹介の続きをお願いできますか?」

「…………」

「……あの? ティベリアさん?」


 俯いたまま何も話せなくなってしまう俺。

 やっべー。透花のことで浮かれてばかりで、ティベリアの設定について何にも考えてなかったわ。


 う……クラス中の視線が痛い。

 先生もオロオロし始めてるし。これ以上黙っているのも限界だ。

 とはいえ、下手なことを言って正体を疑われるのは困るし……。


 ヒコナからも──


『正体がバレるようなことは絶対するでないぞ。もし誰かが、お主の正体に気付きでもしたら、その時は即刻、男の身体に逆戻りじゃからの!』


 ──なんて釘を刺されている。

 もし、今この場で正体がバレでもしたら、トンデモナイ大惨事になることは確実だ。


 ……くそ、仕方ない。少し古典的だが、あの作戦でいくか。 


「あの……ティベリアさん? 自己紹介の続きを……」

「えーっと、ワターシ、ニホンゴ、スコシ、ムズカシ―デース」


 名付けて、ワタシニホンゴワカリマセーン作戦!


「何で急にカタコトなんです!? さっき、日本語ペラペラ喋ってたじゃないですか!」

「えっと、あー、ちょっと時差ボケで?」

「時差ボケでカタコトに!?」


 静まり返る教室。肝いりの作戦は十秒で失敗に終わった。

 ……って何だよ、ニホンゴワカリマセーン作戦って!? 時差ボケでカタコトになる外国人ってアホか俺!? 

 ダメだ、頭が真っ白でいい言葉が何も思い浮かばない。


「えっと、アメリカンジョークってやつですかね……?」


 恐る恐る、梓川先生が聞いてくる。


「……そうそれ。アメリカンジョーク……です」


 とりあえず、文化の違いのせいにしておいた。アメリカの皆さんすみません。


「そんなに緊張しないで、普通でいいんですよ? 難しく考えずに……ほら、たとえば好きなものとかでも大丈夫ですから」


 ……好きなもの? 

 そ、そうか、自己紹介って、そんなのでもいいのか。それなら簡単だ。

 なぜなら俺の好きなものなんて一つしかない。

 しかも、その一番好きなもの……というか一番大切な人は、今ここにいるのだから。


 無意識に視線が透花に向かう。

 そんな俺の視線に気付いた透花は、ちょっと照れくさそうにしてから、はにかんで優しく手を振ってくれた。

 そして、その柔らかな唇で『がんばって』と小さなエールを送ってくれる。

 それだけで全身に電気が走る。

 頭の真ん中あたりが砂糖菓子のように蕩ける。

 やっぱり好きだ。好きだ。好きだ。大好きだ。

 振られたからって、この気持ちが陰ることはない。この想いは未来永劫朽ちることはない。


「……俺……じゃない。わ、私の――」


 だから伝えよう。自信をもって、俺の好きなものを。


「――私の好きな人は……百合透花でーーーすっ!」


 こうして、俺ことティベリア・S・リリィは、留学初日に初対面の女子にいきなり告白をするという伝説を作り上げたのだった。

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