第9話 マッチポンプの神様
金髪ロリ姿のままトランクス一丁はさすがにマズいので、自室でTシャツ短パン姿に着替えてから、俺は再び一階に降りる。
リビングではヒコナがごろりとソファに陣取っていた。
その手にあるイチゴ牛乳が、ただでさえイラついている俺の神経を更に逆なでする。
「……で、改めて聞くぞ。透花と結ばれるために女に変身させたってのは分かる──」
それは分かるけれども……。
「だからって、何でこんな金髪ロリになってんだよ!?」
「何でって、そんなん百合透花のどんぴしゃストライクゾーンが、金髪ロリっ子だからに決まっておるじゃろ?」
「…………は?」
何言ってんだこいつ。透花のストライクゾーンが、金髪ロリっ子?
「何を間抜けな顔しておるんじゃ?」
「いや、だって……あの透花が金髪ロリっ子好きとか、そんなの有り得ないだろ?」
立てば美少女、座れば美少女、歩く姿は超美少女。
おもちゃ屋でがん泣きする三歳児すらも一瞬で見惚れて泣き止む、あの百合透花だぞ?
「有り得ないとは、随分な自信家じゃのう。
「ぐはっ……い、痛いところを……」
「もしかして、妾が何の下調べもせずにノリと勢いだけでお主の願いを叶えたとでも思っておるのか? まぁ、ノリと勢いは否定せんが……」
しろよ、否定。
「願いを叶えるときは、願いを叶えるに足る人間かどうかちゃんと調べておるわい」
と自慢げに、フフンと鼻を鳴らすヒコナ。
「なにしろ願いを叶えてやる人間の背景を知っておいた方が、見ていて面白――より親身なサポートができるからのう」
「お前、今、面白いって言わなかったか?」
「気のせいじゃ」
真顔で嘘つく神様だな。
「というわけで、お主には女の姿のまま高校に通ってもらうぞ。綾崎総一郎との交換留学生として一年間、百合透花のいるクラスにな」
「はぁぁぁぁ!? 女のままって……お前、急に何を言ってんだ」
ちょっと待て。このロリ神、とんでもないことを言い出したぞ。
「何を言ってるって……当然じゃろ? 百合透花と両想いになりたくて女になったんじゃろうが。百合透花と接触もせんで願いが叶うとでも思っておるのか?」
「い、いや……それはそうだけど、だからって話が飛び過ぎだろ……」
女になったことも、まだ受け止め切れていないのに、更に学校に行けなんて……。
「そして、女として一年を過ごした後に、最後の選択をしてもらう。男に戻るか……それとも残りの人生を女のままで生きるかのな」
「なっ、何だよそれ!?」
「妾って寛大じゃろ? 一年もお試し期間がある親切設計じゃからな~」
自分に酔うように、ほおっとため息をつくヒコナ。
「何が寛大だよ。じゃあ、今すぐ男に戻せって言ったら戻してくれるのかよ?」
「それはダメじゃ。せっかく面白くなってきたところなんじゃから、そんな萎えるようなことできるわけがないじゃろうが」
「くっ、このガキ……」
色々と理屈を並べたところで、結局自分が楽しみたいだけじゃねえか。
でもまぁ、純粋な善意って言われるよりは、自分の楽しみのためだって言われた方がまだマシ……なのか?
「お前の言いたいことは分かった。けどな、それにしたっていきなり交換留学なんて、現実的に考えて無理に決まってるだろうが」
「どうして無理だと思うのじゃ?」
はっ、世間知らずにも程がある。こんなところだけは神様らしいんだな。
「神様は俗世に疎いから知らないだろうけどな。この世に存在しない人間が、突然学校に通いたいと言っても通えるものじゃないんだよ。女の身体になった今の俺の身分を証明するものなんて何一つないんだからな」
どこの馬の骨かも分からない金髪ロリがいきなり留学なんて、土台無理な話なのだ。
「……ってまさかお前、あの神通パワーとかいう怪しげな力で学校関係者を洗脳したりする気じゃないだろうな」
「馬鹿にするでないわ! 曲がりなりにも妾は神じゃぞ。そんな犯罪まがいの手を使うわけがなかろう」
「じゃあ、どうするんだよ?」
「安心せい。準備はしっかり整っておるわ。お主が百合透花に告白して振られることも、女になりたいと泣きついてくることも、全ては確定事項じゃったからのう」
「俺が振られる未来が分かってたなら、告白前に止めてくれよ!」
地獄に落ちるの放置した後で、助けてやろうって?
そういうのマッチポンプって言うんだぞ神様。
「というわけで……ほれ、これがお主の身分証一式じゃ」
いくつもの書類やカード類をテーブルに広げるヒコナ。
そのカード類を前に俺は言葉を失うのだった。
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